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循環腫瘍DNA(ctDNA)検査:大腸がん(結腸・直腸がん)の早期診断や再発予測・「セレコキシブ」効果予測?:BESPOKE CRC試験・CALGB/SWOG 80702試験
「循環腫瘍DNA(ctDNA)検査」について、大規模な研究結果が発表された。これは、血液中に流れているがん細胞のDNAを調べる検査で、手術後にがんが残っている可能性(分子残存病変:MRD)や再発のリスクを予測するのに使われる。
① BESPOKE CRC試験:ctDNA検査で再発リスクを予測できる
何を調べた?
→ 1166人のステージII/III(進行度の異なる2つのグループ)の大腸がん患者を対象に、ctDNAが再発や生存率にどう影響するかを調べた。
主な結果
**ctDNA陽性(血液中にがんのDNAが見つかった)患者の2年後の無病生存率(DFS)**は、
ステージII:45%(約半分が再発)
ステージIII:35%(3人に2人が再発)
**ctDNA陰性(血液中にがんのDNAが見つからなかった)**患者のDFSは、
ステージII:91%(ほとんどが再発しない)
ステージIII:87%
どのように治療が変わった?
手術後のctDNA結果を見て、治療方針を変えた医師は**16%**いた。
そのうち60%は化学療法を減らし、35%は化学療法を強化した。
また、13%の患者は、ctDNA陽性がきっかけで「実は転移していた」と診断され、適切な治療を受けることができた。
再発を早く見つけることも可能
再発した患者の86%は、ctDNA検査で事前に「陽性」になっていた。
さらに、そのうちの30%の患者は、手術や放射線治療などの「治癒を目指せる治療」を受けられた。
② CALGB/SWOG 80702試験:ctDNAで
が効く患者を特定できる?
何を調べた?
→ ステージIIIの大腸がん患者1011人を対象に、ctDNAの有無と抗炎症薬「セレコキシブ」の効果を調べた。
主な結果
ctDNA陽性の患者は、セレコキシブを追加すると、3年後の生存率が**44.1%(vs 26.6%)**に改善。
ctDNA陰性の患者には、セレコキシブの追加による効果はなかった。
注意点
ただし、「ctDNA陽性の人にだけ薬が効く」という結果は、統計的に完全に証明されたわけではない。
さらなる研究が必要。
③ ctDNA検査の課題と今後の展望
問題点
高額な検査であり、すべての病院で利用できるわけではない。
ctDNAが陽性だった場合、どのような治療をすべきかのガイドラインがまだ確立されていない。
今後の研究
現在進行中の大規模試験(CIRCULATE-NORTH AMERICA, CIRCULATE-JAPAN など)で、
ctDNAが陰性なら化学療法を減らせるか?
ctDNAが陽性なら治療を強化すべきか?
などを詳しく調べている。
今後の期待
ctDNA検査が確立すれば、
「再発しそうな人」に対して早めに治療ができる。
「再発しなさそうな人」は不要な治療を避けられる。
これにより、患者の負担を減らしながら、より効果的な治療ができる可能性がある!
2025 ASCO消化器がんシンポジウムにおける2つの大規模研究の新データ
2025 ASCO消化器がんシンポジウム(GICS 2025)において、早期大腸がん(CRC)における循環腫瘍DNA(ctDNA)検査の臨床的有用性を示す2つの大規模研究の新データが発表された。
BESPOKE CRC試験(Purvi Shah, MD, Virginia Cancer Institute)およびCALGB/SWOG 80702解析(Jonathan Nowak, MD, PhD, Brigham and Women’s Hospital)は、腫瘍情報を基にしたctDNA検査を用いて、分子残存病変(MRD)と患者予後の関連を評価した。
ctDNA-MRD検査の意義
H. Lee Moffitt Cancer CenterのRichard D. Kim, MDは、「ctDNA-MRD検査は、MRD期間および監視期間の両方で再発を予測する」と述べた。
特にステージIIの患者にとって重要であり、「標準ガイドラインでは化学療法の必要性が明確に示されていないが、ctDNA検査により再発リスクの高い患者を特定し、追加治療の必要性を判断できる」と強調した。
BESPOKE CRC試験:ctDNA検査の予後予測価値
ステージII/III CRC患者1166例を対象に、Signateraを用いたリアルワールドデータを分析した。
ステージII患者のctDNA陽性率は7.5%、ステージIIIでは28.5%と差が見られた。
治療計画において、術後ctDNA結果が影響を与えたと回答した腫瘍医は16%で、そのうち60%が補助化学療法を減量し、35%が増量した。
ctDNA陽性患者の2年無病生存率(DFS)は、ステージIIで45%、ステージIIIで35%であった。一方、陰性患者ではそれぞれ91%、87%と良好な予後を示した。
術後ctDNA陽性により13%の患者が転移性疾患と診断され、適切な治療が開始された。
188名の再発患者のうち86%が、ctDNA陽性を先行していた。うち30%は潜在的に治癒可能な転移指向療法(MDT)を受けることができた。
Kimは、「ctDNA検査を標準フォローアップに組み込むことで、再発を早期に発見し、迅速な介入が可能になる」と述べた。
CALGB/SWOG 80702解析:セレコキシブの効果予測バイオマーカーとしてのctDNA
ステージIII結腸がん患者1011例を対象に、ctDNA陽性患者におけるセレコキシブの有効性を評価。
ctDNA陽性群では、セレコキシブが無病生存率を有意に改善(HR 0.59、95%CI 0.42-0.85、P = .004)、3年無病生存率は44.1% vs 26.6%。
ctDNA陰性患者にはこの効果は認められなかった。
しかし、相互作用P値が有意でなかったことから、群間差が偶然である可能性も指摘された。
ctDNA検査の課題と今後の展望
Kimは、「ctDNA検査は個別化医療の鍵となるが、高コストや地域による普及の格差が課題である」と述べた。
現在、CIRCULATE-NORTH AMERICA NRG-GI008、CIRCULATE-JAPAN VEGA & ALTAIR、SU2C ACT3、DYNAMIC-IIIなどの試験が進行中であり、治療の強度調整に関するエビデンスが蓄積されることが期待される。
「現時点では、ctDNA陽性のみを根拠とした全身治療の推奨は時期尚早だが、新たな治療法(バイスペシフィック抗体など)に関する試験が進行中である」と述べた。
今後の研究では、ランダム化試験によりctDNA検査の有用性を確立し、コスト効率の評価を行い、公式ガイドラインの策定につなげることが重要である。
「最終的には、ctDNA検査が術後管理の基盤となる可能性があるが、その普及にはさらなる大規模研究とリアルワールドデータの蓄積が必要である」とKimは結論づけた。