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化学物質過敏症(Multiple Chemical Sensitivity, MCS):定義、診療の仕方


標準化された診断ツールと基準の不備など診療側対応・システムが遅れている割に、自己診断の多い病名だが、日本は、他国と比べて意外と少ないようだ。

自己診断は化学物質過敏症(MCS)において重要な役割を果たしており、その有病率や関連する問題について、いくつかの研究が明らかにしている。自己申告によるMCSの有病率
最近の推計では、米国の人口の25.9%が化学物質過敏を自己申告している[1]。
過去の研究では、自己申告率が11.1%および11.6%と報告されており、これは大幅な増加を示している[1]。
世界的な自己申告率は地域によって異なり、スウェーデンでは33%、オーストラリアでは15.9%、日本では7.5%と報告されている[1]。
自己診断の意義
自己申告による化学物質過敏症は、医療機関で診断されたMCSよりもはるかに一般的であり、多くの人々が医療的確認を受けずに自己診断を行っている可能性がある[1]。
自己診断は生活様式の変更につながる場合があり、MCS基準を満たす人々の83%が生活様式を変えたと報告している[5]。

自己診断に関連する問題点
自己申告と医療診断の不一致: 25.9%が化学物質過敏を自己申告している一方で、医療診断を受けたのは12.8%に過ぎない[1]。
誤った原因帰属の可能性: 一部の研究では、自己申告したMCSの人々が実際の暴露前に症状を化学物質暴露に関連付ける可能性があることが示唆されている[6]。
客観的確認の困難さ: 明確な診断マーカーの欠如により、自己診断されたケースを確認することが困難である[9]。
不安障害との重複の可能性: 一部の研究では、MCSが不安障害である可能性が示唆されており、これが症状の誤解を招くことがある[6]。
症状報告のばらつき: 自己申告されたMCSは漠然としており特定性の低い症状を伴うことが多く、一貫した診断基準の確立が難しい[2]。
研究と治療への示唆
自己申告によるMCSの高い有病率は、標準化された診断ツールと基準の必要性を示している[1][9]。
自己申告と医療診断の不一致は、MCSと他の疾患を区別するための専門的評価の重要性を強調している[1][5]。
自己診断が生活様式の変更につながる可能性があることは、MCSを自己認識する個人に対するエビデンスに基づく指針の必要性を示している[5]。


結論として、自己診断はMCSの重要な側面であり、自己申告ケースの有病率は医療診断ケースを大きく上回っている。それは化学物質過敏症の現実的な影響を反映しているが、正確な診断、適切な治療、およびこの疾患の科学的理解において課題を提起している。

引用文献

[1] https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5865484/
[2] https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4597346/
[3] https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10286323/
[4] https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/1998/0901/p721.html
[5] https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/485289
[6] https://www.mcgill.ca/oss/article/health/zeroing-cause-multiple-chemical-sensitivity
[7] https://www.jstage.jst.go.jp/article/juoeh/39/4/39_249/_pdf
[8] https://www.healthcouncil.nl/binaries/healthcouncil/documenten/advisory-reports/1999/08/26/multiple-chemical-sensitivity/advisory-report-multiple-chemical-sensitivity.pdf
[9] https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5794238/

化学物質過敏症(Multiple Chemical Sensitivity, MCS)は、環境中で一般的に存在するさまざまな化学物質に対して低濃度でも有害反応を示す複雑な疾患である。普遍的に受け入れられた定義はないものの、化学物質過敏症の一般的な説明は以下の通りである:

「空気、食物、水中に存在する一般的には無毒とされる濃度の化学物質に対して有害反応を示し、複数の臓器系に影響を及ぼし、生活の質や日常生活機能に大きな影響を与える状態」[1][3]。

「化学物質」という用語に対する批判

「化学物質」という用語が本症状を説明する上で以下のような批判を受けている:

  1. 広範すぎる:この言葉は広義に使われており、植物が放つ香りのような自然物質も含み、人工化学物質だけを指していない[11]。

  2. 曖昧性:化学物質への曝露が実際の原因や病因であることを暗示するが、それは決定的に証明されていない[11]。

  3. 特異性の欠如:この状態は無関係なさまざまな化学物質によって引き起こされる可能性があり、同じ化学物質への曝露でも患者間で症状が大きく異なる[4]。

診断上の定義

普遍的に受け入れられた診断定義はないが、いくつかの基準が提案されている。
ラコール改訂基準には以下が含まれる:

  1. 6か月以上の慢性疾患で、生活の質や器官機能に影響を与える。

  2. 神経系に関わる再発症状と、臭いに対する過敏性。

  3. 中枢神経系と少なくとも1つの他の器官系に影響を与える症状。

  4. 低濃度のトリガーに対して再現可能な反応。

  5. 無関係な化学物質に対する反応。

  6. トリガーの除去後の症状の改善[3]。

診断ツールには以下が含まれる:

  • 環境曝露および感受性簡易インベントリ(BREESI)

  • 環境曝露および感受性迅速インベントリ(QEESI©)[3]

反論および異なる見解

  1. 科学的根拠の欠如:本症候群の管理における科学的基盤は、厳密なピアレビューをクリアする調査活動によってまだ確立されていないとの主張がある[6]。

  2. 特異性の欠如:特定の化学物質に対する症状が患者ごとに異なり、またさまざまな化学物質に対して似た症状を示すことがある[4]。

  3. 代替説明:一部の証拠は、MCSが未診断の疾患に対する無差別な診断として用いられている場合があることを示唆している[7]。

  4. 心理的要因:本疾患が化学物質曝露だけでなく、心身症的な起源を持つ可能性があると提案する研究者もいる[2]。

  5. 有病率の誇張:MCSが存在することを示す証拠はあるものの、その有病率は一般に過大評価されていると考えられている[7]。

結論として、化学物質過敏症は認識された疾患であるが、その定義、診断、病因については医学界における議論と研究が続いている。

Citations:
[1] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK234807/
[2] https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5794238/
[3] https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8582949/
[4] https://www.mdpi.com/2076-3425/14/12/1261
[5] https://www.icrc.org/en/doc/assets/files/2013/p4121.pdf
[6] https://hsrm.umn.edu/department-environmental-health-safety/industrial-hygiene/indoor-air-quality/chemical-sensitivity
[7] https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1757696/
[8] https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18155642/
[9] https://www.ilru.org/sites/default/files/MCS FINAL.PDF
[10] https://www.pc.gov.au/inquiries/completed/chemicals-plastics/report/chemicals-plastics-regulation.pdf
[11] https://en.wikipedia.org/wiki/Multiple_chemical_sensitivity
[12] https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8773480/


イタリアでの診療モデル

Damiani, Giovanni, Marco Alessandrini, Daniela Caccamo, Andrea Cormano, Gianpaolo Guzzi, Andrea Mazzatenta, Alessandro Micarelli, ほか. 「Italian Expert Consensus on Clinical and Therapeutic Management of Multiple Chemical Sensitivity (MCS)」. International Journal of Environmental Research and Public Health 18, no. 21 (2021年10月27日): 11294. https://doi.org/10.3390/ijerph182111294.

化学物質過敏症(Multiple Chemical Sensitivity, MCS)は、農薬、溶剤、有毒金属、カビなど、一般集団における年齢および性別に基づいて計算された閾値限界値(Threshold Limit Value, TLV)以下の曝露に反応して再発し、悪化する多系統性の環境性疾患である。MCSは、皮膚症状、アレルギー症状、消化器症状、リウマチ症状、内分泌症状、心臓症状、および神経症状を特徴とする症候群である。我々は文献の系統的レビューを実施し、現在の臨床および治療に関するエビデンスを要約した上で、eDelphi法によるコンセンサス形成を行った。

4つの主要な研究分野(診断、治療、入院、緊急対応)が特定され、10名の専門家および1名のMCS患者によって議論された。その結果、イタリア初のMCSに関するコンセンサスが形成され、以下の2つの目的を持った:

(a) 医療従事者および患者間でMCSに関する知識を向上させ、MCS患者に対する臨床および治療管理を標準化すること。
(b) エビデンスに基づく医療(EBM)によって支持されていないMCSに関する誤解を改善し、明確にすること。


3.2.1. 初診時検査

  • 病歴の重要性: 初期評価のための血液検査リストを作成可能。

  • 推奨される血液検査:

    • 血清タンパク電気泳動

    • 血清フェリチン

    • 血清ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)

    • クレアチンホスホキナーゼ(CPK)

    • コリンエステラーゼ(血清/血漿/赤血球)

    • 赤血球沈降速度(ESR)

    • C反応性タンパク(CRP)

    • 総IgE

    • インターロイキン2受容体(sIL2r)

    • 基礎血清コルチゾール

    • 化学物質による有害反応を評価する好塩基球活性化試験

3.2.2. スクリーニングテスト

  • BREESI: 2020年に承認された簡易スクリーニングツール(3つの質問)。

化学物質、食品、および薬剤不耐性

自己評価ツール
パートI: 環境曝露と感受性簡易インベントリ(BREESI)
以下の物質に曝露されたとき、体調が悪くなることがありますか?

例: タバコの煙、特定の香料、ネイルポリッシュ/リムーバー、エンジン排気ガス、ガソリン、エアフレッシュナー、農薬、ペンキ/シンナー、新しいタール/アスファルト、清掃用品、新しいカーペットや家具
(「体調が悪くなる」とは、頭痛、思考困難、呼吸困難、虚弱感、めまい、胃の不快感などを指します。)

以下の薬や治療に耐えられない、または有害な反応やアレルギー反応を経験したことがありますか?
例: 抗生物質、麻酔薬、鎮痛薬、X線造影剤、ワクチン、経口避妊薬、またはインプラント、義肢、避妊用化学物質や器具、その他の医療/外科/歯科材料や手技。

以下の食品に耐えられない、または有害な反応を経験したことがありますか?
例: 乳製品、小麦、トウモロコシ、卵、カフェイン、アルコール飲料、または食品添加物(例: MSG、食品着色料)。

  • QEESI©:

    • 症状の重症度、化学物質不耐性、その他の不耐性、環境の健康影響を0~10で評価。

    • 感度92%、特異度95%の高精度。

    • イタリア語版の翻訳と検証が進行中。

https://aseq-ehaq.ca/wp-content/uploads/2020/07/QEESI-EN.pdf


Perplexityより

QEESIは、化学物質不耐性(CI)および化学物質過敏症(MCS)を評価するために検証された質問票である。その診断基準は、特に「化学物質不耐性」および「症状の重症度」スケールのスコアに基づいている[1][2]。

QEESIの構成
QEESIは以下の5つの下位尺度で構成され、それぞれ10項目を含む:化学物質不耐性(Chemical Intolerances)
その他の不耐性(Other Intolerances)
症状の重症度(Symptom Severity)
マスキング指数(Masking Index)
生活への影響(Life Impacts)
各下位尺度は0~100点で評価されるが、マスキング指数のみ0~10点で評価される[1]。

診断基準
QEESIを用いた化学物質不耐性(CI)の主な診断基準は以下の通り:非常にCIを示唆: 「化学物質不耐性」と「症状の重症度」スケールのスコアがそれぞれ40点以上の場合。
CIを示唆: 上記2つのスケールのいずれかまたは両方が20~39点の場合。
CIを示唆しない: 上記2つのスケールがいずれも20点未満の場合[2]。

日本での基準値
日本の研究では、MCS患者をスクリーニングするために新たなカットオフ値が提案された:化学物質不耐性: 30点以上
症状の重症度: 13点以上
生活への影響: 17点以上

これらの基準値は、日本におけるMCS診断において、高い感度(82.0%)および特異度(94.4%)を示した[1]。

QEESIの特徴QEESIは化学物質不耐性を評価するためのゴールドスタンダードとされており、多くの言語に翻訳されている。
各国で広く使用されており、MCSおよびCIの診断およびスクリーニングにおいて重要なツールである[1][2]。


出典:
[1] https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6485617/
[2] https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7494077/
[3] https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18155642/
[4] https://www.jstage.jst.go.jp/article/juoeh/39/4/39_249/_pdf
[5] https://www.jstage.jst.go.jp/article/ans/59/1/59_28/_pdf
[6] https://www.researchgate.net/publication/309884686_The_Environmental_Exposure_and_Sensitivity_Inventory_EESI_a_standardized_approach_for_measuring_chemical_intolerances_for_research_and_clinical_applications
[7] https://www.jstage.jst.go.jp/article/ans/59/1/59_28/_article/-char/ja/
[8] https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2001/000191/200100919A/200100919A0008.pdf

4o

マスキング指数は、Quick Environmental Exposure and Sensitivity Inventory(QEESI)の5つの下位尺度の1つであり、化学物質への継続的な曝露が個人の不耐性認識や環境曝露に対する反応の強度にどのように影響するかを評価するために設計されている[3]。

マスキング指数の主な特徴構成
全10項目で構成されている[1][3]。
回答形式
他のQEESIの下位尺度とは異なり、「はい/いいえ」の二択形式で回答する[1][2]。
スコア範囲
総スコアは0~10の範囲で評価される[1][2]。


目的と役割
マスキング指数は、カフェイン、アルコール、タバコなどの継続的な曝露を評価することを目的としている[3]。これらの曝露は化学物質過敏症の感受性を隠したり、個人が自身の不耐性を認識することを難しくする可能性がある。

他の4つの下位尺度(「化学物質不耐性」「その他の不耐性」「症状の重症度」「生活への影響」)が主に診断目的で使用されるのに対し、マスキング指数は日常的な化学物質曝露に関する追加情報を提供する。これにより、他の下位尺度の結果を解釈する際や、個人の化学物質過敏症の全体像を理解する際に役立つ。

出典:
[1] https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6485617/
[2] https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3317206/
[3] https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7494077/
[4] https://synapse.koreamed.org/articles/1125619
[5] https://www.jstage.jst.go.jp/article/ans/59/1/59_28/_pdf
[6] https://www.healthandenvironment.org/uploads-old/QEESI_TILT_Questionaire.pdf
[7] https://www.researchgate.net/figure/Distribution-of-total-scores-of-the-Q4-Masking-Index-in-QEESI-for-patients-with-MCS-and_fig2_332692118
[8] https://www.researchgate.net/figure/Results-of-the-factor-analysis-of-the-QEESI_tbl1_321845337


3.2.3. 除外診断が必要な疾患

  • ポルフィリン症、巨赤芽球症など、ラコール基準を満たす疾患を除外。

3.2.4. 専門分野別評価

  • アレルギー/皮膚科評価:

    • 総IgEおよび必要に応じて特異的IgEの測定。

    • パッチテストは二次選択肢。

    • 金属アレルギーにはリンパ球転換試験(LTT)が推奨。

  • 耳鼻咽喉科評価:

    • 上気道内視鏡、嗅覚検査(Sniffin’ Stick)、聴力検査など。

    • 必要に応じて嗅覚刺激を用いたPET検査。

  • 歯科評価:

    • 金属毒性(血液、尿、唾液)検査。

    • ガム咀嚼唾液試験は非侵襲的だが、イタリアでは利用不可。

  • 神経学的評価:

    • 瞳孔反応、バランス検査、振動感覚テスト、EEGなど。

    • 血清S100Bタンパクおよび神経特異エノラーゼ(NSE)の測定。

  • 内分泌学的評価:

    • 甲状腺、下垂体-副腎軸の評価。

    • 副腎不全や甲状腺機能異常との関連。

  • 循環器評価:

    • 不整脈、僧帽弁逸脱、心電図異常などを確認。

    • 自律神経系の調節不全に注目。

  • リウマチ評価:

    • 自己免疫疾患(橋本病、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群)の評価。

  • 麻酔科評価:

    • 麻酔薬の履歴収集とアレルギー検査は慎重に実施。

    • 麻酔薬によるアナフィラキシーのリスクは増加しない。

  • 公衆衛生/労働医学評価:

    • 自宅や職場の化学的、物理的、生物学的評価を実施。

3.2.5. 遺伝学的評価(第II段階)

  • 解毒酵素(CYP、GST、NAT)や抗酸化酵素(SOD2)の遺伝子多型がMCSと関連。

  • スクリーニングは補助的検査としてのみ使用。

3.2.6. 代謝評価(第II段階)

  • 解毒代謝、エネルギー代謝、炎症応答に関連する異常。

  • 臨床検査は研究目的に限定。

MCS(化学物質過敏症)患者のための病院対応

3.4. MCSキット

  • 病院でMCS管理を最適化するための専用キット(目立つ色で区別)に含まれるべき項目:

    • ラテックスフリーの手袋

    • 無香料かつ過酸化水素なしの洗浄剤

    • 過酸化水素(消毒用)

    • 5%デキストロース(1000ccの0.9% NaClガラス点滴)

    • 陶器製酸素マスク

    • フタル酸エステルフリーの柔軟な酸素チューブ

    • ラテックスフリーの眼鏡

    • 反転糖液(1000ccの0.9% NaClガラス点滴)

    • 炭酸水素ナトリウム溶液(500ccガラスバイアル)

    • ガラス製の静脈投与用キット

    • 無香料洗剤で洗濯された綿製寝具やタオル類

    • 無香料洗剤で洗った使い捨て綿製衣類

    • ラテックスフリーの紙製プラスター

    • 静脈バタフライバルブ

    • マジックテープ式の血圧計

    • 医療従事者用の無香料石鹸

    • 医療従事者用ラテックスフリーの紙製マスク

    • 0.9% NaCl 1000cc溶液(ガラス点滴)

3.4.1. 病院環境

  • MCS患者の診察は以下を考慮:

    • 待合室を通らず別の入り口から移動。

    • 診察室は、洗浄施設、洗濯室、廃棄物室などから離れた場所に配置。

    • 外部エリアでは溶剤、農薬、除草剤などの使用を禁止。

    • 床と壁は未研磨の天然石材で覆い、化学吸収を防止。

    • 自然光を優先的に使用。

3.4.2. 入院手続き

  • 入院時の対応:

    • MCS専用ルームを用意(専用色で区別)。

    • 通風の良い部屋を優先し、MCSトリガーから遠ざける。

    • 入室6時間以上前に部屋を脱汚染。

    • 水、炭酸水素ナトリウム、無香料洗剤で清掃。

    • 綿100%の寝具とタオルを使用。

    • アレルギーや薬物反応を臨床記録に記載。

    • 薬局、医療従事者、食堂サービスに事前通知。

    • ガラス瓶の水とガラスコップを提供。

3.4.3. 病院アクセス方針

  • MCS専用ルームへのアクセス条件:

    • 香水やヘアスプレーなどの使用を禁止。

    • 無香料石鹸で手を洗浄。

    • 専用の前室またはロッカールームで衣服を着替え、清掃済み環境で管理。

    • MCS専用キット(シャツ、ラテックスフリー手袋、フタル酸エステルフリー酸素チューブ、ラテックスフリー酸素マスク)を使用。

3.4.4. 薬局

  • 病院薬局での対応:

    • 静脈用溶液はガラス瓶のみ使用。

    • 処方薬をジェネリックやバイオシミラーに置き換えない。

    • 保存料濃度が低いガレニック製剤を優先。

    • MCS患者の薬物摂取を慎重に監視。

3.4.5. 食堂

  • 病院食堂での対応:

    • 食堂へ事前通知。

    • 食品に対する過去の反応を報告。

    • アルミや銅製鍋での調理を禁止。

    • ガラス製透明皿、ガラス製カップ、鉄製カトラリーを使用。

    • 食品や飲料に関する有害事象を臨床記録に報告。


Hojo, Sachiko, Hiroaki Kumano, Hiroshi Yoshino, Kazuhiko KakutaとSatoshi Ishikawa. 「Application of Quick Environment Exposure Sensitivity Inventory (QEESI©) for Japanese Population: Study of Reliability and Validity of the Questionnaire」. Toxicology and Industrial Health 19, no. 2–6 (2003年3月): 41–49. https://doi.org/10.1191/0748233703th180oa.



Lavric, Cătălina Elena, Nicolas MigueresとFrédéric De Blay. 「Multiple chemical sensitivity: a review of its pathophysiology」. Exploration of Asthma & Allergy, 2024年7月29日, 350–62. https://doi.org/10.37349/eaa.2024.00050.

化学物質過敏症(MCS)は、原因不明の後天性疾患であり、複数の器官において多様で漠然とした再発性の非特異的な症状を特徴とする。この症状は、さまざまな構造的に関連性のない環境化学物質への曝露によるものとされるが、その濃度は多くの人々にとって耐容性があり、通常は人体に対して毒性がないと考えられるレベルである。本レビューの目的は、MCSの病態生理に関する複数の仮説(遺伝的、代謝的、神経学的、免疫学的、心理学的)を検討することである。いくつかの文献では、神経学的および免疫学的な活性化を示唆している。しかし、このような神経学的および免疫学的な過剰反応は、挑発試験を実施しても常に観察されるわけではない。これにより、行動条件付けがMCSの病因において重要なメカニズムである可能性が示唆される。精神疾患がMCSの主な原因であるとは言い難いが、真の精神疾患がある場合には、心理療法的な治療が必須である。病態生理が複雑であるため、MCSを特異的に治療する薬剤は存在しない。しかし、認知行動療法の使用は推奨されており、患者の病気に対する認識に有意な肯定的影響を与える。


MCSにおける各仮説

遺伝的および代謝的仮説

  • 大気汚染への曝露と物質の排除能力は人体に重要な影響を与える。

  • 食物、薬物、重金属などの異物代謝と排泄は解毒において重要な役割を果たす。

  • 遺伝子多型がMCS患者における化学物質代謝の速度を変え、感受性に影響を与える。

  • 酸化ストレスの増加、窒素酸化物の生成、グルタチオンの減少など、代謝マーカーの変化が確認されている。

  • 酵素の機能差が金属、溶剤、農薬への反応性の違いを説明する可能性があるが、明確な相関は証明されていない。

神経学的仮説

  • 化学物質が中枢神経系(CNS)に与える影響を研究。

  • 化学物質は主に吸入による曝露が多く、揮発性有機化合物(VOCs)や超微粒子(PM)が含まれる。

  • 3つの経路で防御メカニズムを突破:

    • 肺経路: VOCsが肺胞細胞に直接影響し、酸化ストレスと組織損傷を引き起こす。

    • 嗅覚経路: 超微粒子が嗅球を介して脳に到達し、中枢神経系に影響。

    • TRP受容体経路: TRP受容体の活性化が化学物質過敏症や反応性気道機能障害(RADS)を誘発。

  • 神経学的研究では、MCS患者の脳における特定領域の活性変化が示唆されているが、一貫した結果は得られていない。

免疫学的仮説

  • 化学物質曝露による免疫系の調節不全が調査されている。

  • 一部の研究で、T細胞、B細胞、NK細胞の異常や炎症性サイトカインの増加が確認された。

  • サイトカインが免疫系とCNS間で神経心理学的な影響を与える可能性がある。

  • 免疫学的評価の標準化が未確立であり、一貫性に欠ける結果も見られる。

心理学的仮説

  • MCSの発症には心理的要因が関与する可能性が示唆されている。

  • 化学恐怖症やパニック障害に類似した心理的反応がMCSに関連するとの仮説。

  • パブロフの条件付けが症状の発展に寄与し得る。

  • MCS患者における不安障害、抑うつ、身体化障害の有病率が高い。

  • 性格障害の発生率が一般人口より高い。

  • 一部の患者は感情的な問題をMCS発症後に発展させており、感情的支援が重要。

結論

  • MCSは多因子的であり、遺伝、神経、免疫、心理のいずれも完全には説明できない。

  • 今後の研究では、各仮説間の相互作用を明らかにする必要がある。

MCSにおける誘発試験の役割と治療法

誘発試験の役割

  • 1997年の試験: MCS患者15名を対象に症状を引き起こす製品(ネイルリムーバー、香水など)で挑発。11名で典型的な症状が再現され、すべて過換気が誘発されたが、肺機能には変化なし。過換気がMCS症状の一因と結論付けられた。

  • 1996年の試験: 香水と生理食塩水を使用し、9名の喘息様症状患者を挑発。香水でより強い反応を示し、嗅覚を使わずとも三叉神経反射や呼吸器を介した症状の可能性が示唆された。

  • Bornscheinらの研究: MCS患者20名と対照群17名を対象に、溶剤混合物またはクリーンエアを用いた二重盲検試験。溶剤とプラセボの区別はできず、神経心理学的な差も確認されなかった。

  • NIRSイメージング: MCS患者は嗅覚刺激時に前頭部での局所脳血流量(rCBF)の増加が確認され、匂いの強度と不快感の認識が強化されていた。

  • 体系的レビュー: 37件の研究では、MCS患者と対照群の間に明確な違いはほとんど見られず、化学物質反応が期待や事前の信念に関連している可能性が示唆された。

治療法

  1. 社会的・感情的支援:

    • 患者の社会的・感情的問題に配慮した対応が必要。

    • カナダ人権委員会は職場での化学物質削減や無香料政策を提言。

  2. 認知行動療法(CBT):

    • 患者が化学物質回避行動を止め、社会復帰を目指す。

    • リラクゼーショントレーニングで自己健康管理能力を高める。

  3. マインドフルネス認知療法(MBCT):

    • 認知行動技法とマインドフルネスを組み合わせた治療法。

    • 病気の認識にポジティブな影響が見られるが、全体的な改善には至らない。

  4. マインド-ボディ変容療法(MBT-T):

    • 催眠を用い、身体の自然な生物リズムを活用した治療法。

    • ストレスの軽減、回復力の刺激、効果的な対処能力の向上に有益。

結論

  • 誘発試験の結果は一貫性に欠け、MCSの病態生理に関する決定的な証拠は不足している。

  • CBTやMBT-Tなど、心理的および身体的アプローチが症状の管理に有望である。


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