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心血管健康(Cardiovascular Health, CVH):Life's essental 8と胆石の関連

LE8を用いてCVHと胆石リスクの関連を検証


LE8スコア、健康行動スコア、および健康要因スコアと胆石の関連。
制限付きスプライン分析により、年齢、性別、人種/民族、貧困所得比率(PIR)、教育レベル、および婚姻状況を調整した後のLE8スコア、健康行動スコア、健康要因スコアと胆石との非線形な関係が示された。


Zhao, Yang, Xuesong Liu, Jingru Han, Bin Feng, Chowtin YanとJianfu Zhao. 「The association between life’s essential 8 and gallstones: A cross-sectional study」. Scientific Reports 15, no. 1 (2025年2月8日): 4713. https://doi.org/10.1038/s41598-025-89024-x.


序文要約

  • 胆石症の概要

    • 世界的に一般的な消化器疾患であり、入院の主要原因

    • 米国では年間80万件以上の胆嚢摘出術が実施され、年間620億ドルの医療費が発生

    • 多くの患者は無症状だが、3~8%が急性胆嚢炎、胆石イレウス、膵炎、敗血症、胆嚢穿孔などの重篤な合併症を発症

    • 胆嚢癌のリスクを有意に増加させる

    • 重要な公衆衛生上の課題とされる

  • 心血管健康(CVH)とその評価

    • 2010年、AHAが「Life’s Simple 7(LS7)」を提唱し、疾病治療から健康維持へのシフトを推奨

    • LS7は「喫煙、身体活動、肥満、食事、総コレステロール、血圧、血糖」の7要素で評価

    • 2022年に「Life’s Essential 8(LE8)」へ拡張し、「睡眠」を追加

    • LE8は公衆衛生のモニタリングや心血管疾患予防戦略に有効と検証

  • 本研究の目的

    • これまでの研究で、胆石症が心血管疾患の独立したリスク因子であることは確認されている

    • しかし、CVHが胆石発症リスクに与える影響は未検討

    • 本研究はLE8を用いてCVHと胆石リスクの関連を検証することを目的とする


研究方法

研究の概要

  • 本研究は、Life’s Essential 8 (LE8) を指標とする心血管健康 (CVH)胆石リスクの関連を検討

  • 2017–2020年の米国国民健康栄養調査 (NHANES) データを解析

  • 対象者: 20歳以上の5,024名

  • 胆石の有無: 標準化された質問票により評価

  • LE8スコア:

    • 健康行動 (4項目): 睡眠、喫煙・ニコチン曝露、身体活動、食事

    • 健康要因 (4項目): BMI、非HDLコレステロール、血糖、血圧

  • CVH分類: 低 (LE8 < 50)、中 (50 ≤ LE8 < 80)、高 (LE8 ≥ 80)

統計解析

  • ロジスティック回帰分析制限付き三次スプライン (RCS) 分析層別解析 を実施

主な結果

  • 胆石の有病率: 11.22% (543名/5,024名)

  • 高CVH群 (LE8 ≥ 80) は、低CVH群 (LE8 < 50) に比べ胆石リスクが59%低下 (OR: 0.41, 95% CI: 0.23–0.72, P = 0.010)

  • RCS分析: LE8と胆石の間に非線形な関係を示唆

  • 層別解析: 高CVHと胆石リスク低下の関連が特に強い群

    • 65歳未満: OR: 0.26 (95% CI: 0.15–0.44)

    • 女性: OR: 0.44 (95% CI: 0.24–0.81)

    • 高学歴者: OR: 0.39 (95% CI: 0.19–0.78)

    • 非白人: OR: 0.28 (95% CI: 0.13–0.60)

    • 既婚者: OR: 0.40 (95% CI: 0.20–0.80)


結果箇条書き要約

参加者の基礎特性

  • 平均年齢: 48.74歳

  • 性別: 52.30%が女性

  • 人種: 65.15%が非ヒスパニック系白人

  • 胆石有病率: 543名 (11.22%)

  • CVH分類 (LE8スコア):

    • 低CVH (LE8 < 50): 10.81%

    • 中CVH (50 ≤ LE8 < 80): 65.74%

    • 高CVH (LE8 ≥ 80): 23.45%

  • 胆石患者の特徴:

    • 女性、高齢、非ヒスパニック系白人が多い

    • PIR (貧困所得比率) が低い

    • 健康行動・健康要因スコア、全体的なLE8スコアが低い


LE8と胆石の関連 (ロジスティック回帰分析)

  • モデル3の結果:

    • 高CVH (LE8 ≥ 80) は胆石リスクが59%低下

      • OR: 0.41 (95% CI: 0.23–0.72, P = 0.010)

    • 高健康要因スコア (LE8 ≥ 80) も胆石リスクが有意に低下

      • OR: 0.38 (95% CI: 0.27–0.54, P < 0.001)

    • 高健康行動スコア (LE8 ≥ 80) の胆石リスク低下は弱い関連

      • OR: 0.79 (95% CI: 0.52–1.21)


RCS (制限付き三次スプライン) 分析

  • 非線形の関係: LE8スコアおよび健康要因スコアと胆石

  • 線形の関係: 健康行動スコアと胆石


層別解析

  • 胆石リスク低下が強く見られた群:

    • 65歳未満: OR: 0.26 (95% CI: 0.15–0.44)

    • 女性: OR: 0.44 (95% CI: 0.24–0.81)

    • 高学歴者: OR: 0.39 (95% CI: 0.19–0.78)

    • 非白人: OR: 0.28 (95% CI: 0.13–0.60)

    • 既婚者: OR: 0.40 (95% CI: 0.20–0.80)

  • 重要な相互作用: 教育水準とLE8スコアに有意な相互作用あり

  • その他の要因 (年齢、性別、人種、婚姻状況、PIR) とLE8スコア間に有意な相互作用は認められず


Discussion要約


研究の目的と主な結果

  • 目的: LE8スコア(心血管健康指標)と胆石の関連を検討

  • 結果: LE8スコアが高いほど胆石リスクが低い

  • 特に関連が強い群:

    • 65歳未満

    • 女性

    • 非白人

    • 既婚者

    • 高学歴者

  • 健康要因(BMI、血圧、血糖、コレステロール)の胆石リスクへの影響が、健康行動(食事、運動、喫煙、睡眠)よりも一貫して強かった


LE8スコアと胆石の関連

  • 非線形関係: LE8スコア全体および健康行動スコアと胆石

  • 線形関係: 健康要因スコアと胆石

  • LE8スコアが65.3を超えると胆石リスクが大幅に低下

  • 健康行動の影響は一定の閾値を超えた後にのみリスク低下を示す → より厳格な管理が必要

  • 健康要因スコアは胆石リスクと一貫した負の相関を示す → 血圧・血糖・脂質管理の重要性


胆石リスクに関連する要因

  • 肥満: コレステロール飽和胆汁の分泌増加、胆嚢機能の低下によりリスク増加

  • 体重変動: 急激な減量(手術・低カロリー食)も胆石リスクを上昇

  • 高血圧: 血圧が高いほど胆石リスクが増加(用量反応関係)

  • 脂質代謝異常: 高トリグリセリド・低HDLコレステロールが胆石形成を促進

  • 糖尿病: 2型糖尿病は胆石リスクと関連(肝インスリン抵抗性・胆嚢機能低下)

  • 食事:

    • 西洋型食: 精製穀物・脂質が多い食事は胆石リスク増加

    • 地中海食: 胆石予防効果が示唆

    • 炭水化物: 胆汁の流動性変化・コレステロール結晶化促進

  • 身体活動: 胆石リスク低下に寄与(ただし影響は健康要因ほど顕著でない)

  • 喫煙: 胆石リスクを増加

  • 概日リズムの乱れ: 脂質代謝異常・胆石形成を促進


女性における胆石リスク

  • ホルモンの影響:

    • エストロゲン → コレステロール分泌増加(胆汁のコレステロール飽和)

    • プロゲステロン → 胆嚢の排出を抑制(胆汁うっ滞)

  • 経口避妊薬・ホルモン補充療法: 胆石リスクを上昇

  • 妊娠回数の多い女性: 胆石リスクが高い


胆石の治療と今後の課題

  • 現状: 治療は依然として外科的手術(胆嚢摘出)が主流

  • 術後の痛み緩和: 約3分の2の患者で改善

  • 予防戦略: 高リスク集団に対する胆石形成・再発防止の新たなアプローチが必要

  • LE8の有用性: 健康行動と要因を統合的に評価できる → 予防・管理に有効


研究の強みと限界

強み:

  • 全国代表サンプルを使用(米国成人) → 結果の一般化可能性が高い

  • 最新のLE8指標を用いたCVH評価 → 各要素を詳細に分析

  • 交絡因子の調整 & 層別解析の実施 → 結果の信頼性向上

限界:

  • 未調整の交絡因子:

    • アルコール摂取家族歴脂質低下薬ホルモン薬抗生物質 などの影響を考慮できていない

  • 自己申告データの限界:

    • 食事、運動、喫煙、睡眠の記録にリコールバイアスの可能性

  • 観察研究の限界:

    • 因果関係を証明できない(逆因果関係の可能性)

    • 例: 胆石がある人は痛みのために身体活動が低下し、CVHスコアに影響を与える可能性

  • 今後の課題:

    • 縦断研究の実施が必要 → LE8と胆石の関係をより明確にする


解析のRCSの説明
1. 制限付きスプライン(RCS)の特徴

「制限付き」スプライン(Restricted Cubic Spline, RCS) は、通常のスプライン回帰よりも自由度を制限した形 です。

  • 通常のスプラインでは、データのすべての点で滑らかな曲線を作るため、過剰適合(Overfitting) しやすい

  • RCSは、外れ値(極端な値)による影響を抑え、実用的な形状を維持 するため、端点(最小値と最大値)で直線になるように制約 をかける

数学的な制約条件

$${S^n(x)=0 (x < x_{min}または x>x_{max}}$$

つまり、端点の外では直線的な関係 になるように制限を加えます。


2. 制限付きスプラインの数式モデル

RCSは、複数のノット(節点) でスプライン関数を構築し、回帰分析に組み込みます。
一般的なモデルは以下のようになります:

$${Y=\beta_0+\beta_1X+\Sigma_{j=2}^k\beta_jh_j(X)+\epsilon}$$

  • Y: 目的変数(胆石の有無など)

  • X: 説明変数(LE8スコアなど)

  • $${h_j(X)}$$: RCSの基底関数(スプラインの曲線部分)

  • $${\beta_j​}$$: 回帰係数

  • $${\epsilon}$$: 誤差項

ここで、基底関数 $${h_j(X)}$$ は、データのノット(特定のXの値)を基にした3次スプライン です。

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