非喫煙者の肺がん:エピジェネティック年齢加速(EAA):口腔洗浄サンプルでのDNAmパターンと関連
肺がんの喫煙以外のメカニズムを
small GTPase-mediated signal transduction pathwaysをGrimAge EAAは、エピジェネティック年齢から実際の年代を引いた残差として計算
cg09198866(MYH9; TXN2):細胞の形態維持や移動、酸化ストレス防御に関連し、がん幹細胞マーカーやがん細胞の生存に寄与。
cg01411366(SLC9A10):細胞のイオンバランス維持に関連し、非喫煙者の肺がんリスクに関与。
cg12787323:機能やターゲット遺伝子は未解明ですが、DNAメチル化の変化ががんリスクに関連する可能性。
上皮調節領域と小GTPase媒介シグナル伝達経路
上皮調節領域の役割:これらの領域は上皮細胞の正常な機能を維持するために重要です。例えば、これらの調節領域が適切に働かないと、上皮細胞が異常に増殖し、がんになる可能性があります。
小GTPaseの役割:これらのタンパク質は細胞の成長、移動、分裂を制御するため、非常に重要です。これらが正常に機能しないと、細胞が異常に成長したり、転移したりする原因となります。
Rahman, Mohammad L, Charles E Breeze, Xiao-Ou Shu, Jason Y Y Wong, Batel Blechter, Andres Cardenas, Xuting Wang, ほか. 「Epigenome-Wide Association Study of Lung Cancer among Never Smokers in Two Prospective Cohorts in Shanghai, China」. Thorax 79, no. 8 (2024年8月): 735–44. https://doi.org/10.1136/thorax-2023-220352.
序文要約
肺がんは世界で2番目に多いがん種であり、がんによる死因の中で最も多いとされ、2020年には約221万件の新規症例と180万件の死亡が報告されました。
喫煙はよく知られたリスク要因ですが、男性の15%と女性の53%の肺がん症例は非喫煙者で発生しています。
アジア人女性の非喫煙者における肺がんの発生率は特に高く、米国の中国系女性にも同様の傾向が見られます。
米国では、非喫煙女性の肺がん患者の57%がアジア系または太平洋諸島系の出身です。
非喫煙者の肺がんの原因は、環境、職業、ライフスタイル、遺伝的要因が複雑に絡み合っています。
非喫煙者の肺がんに関連する要因には、微小粒子状物質(PM2.5)や受動喫煙があり、これらはタバコの煙と共通の発がん性成分を含んでいます。
エピジェネティックな修飾、特にDNAメチル化(DNAm)の変化は、非喫煙環境曝露の累積効果を理解するための潜在的なマーカーとして注目されています。
AHRR遺伝子の低メチル化は喫煙と関連していますが、PM2.5や受動喫煙に曝露された非喫煙者にも観察されています。
喫煙や家庭用石炭・バイオマス燃焼由来の強力な発がん性多環芳香族炭化水素(PAH)のベンゾ(a)ピレン(B(a)P)への曝露は、血液DNAmパターンの変化と肺がんのリスクと関連しています。
前向き研究では、診断前のサンプルでDNAmを関連付けることにより、AHRR遺伝子内のCpGサイトが肺がんと関連していることが特定されましたが、これらの研究には非喫煙者が限られていました。
現在の研究では、口腔洗浄サンプル中のDNAmを調査し、空気汚染に直接曝露された上気道の細胞を含んでいます。
この非侵襲的かつ容易に収集できるサンプルは、上皮組織から発生する疾患の潜在的な病因マーカーを特定するための貴重な手段です。
この研究は、上海の2つの前向きコホートからの非喫煙者を対象とし、非喫煙者の肺がんに関するDNAmの最大の前向き研究です。
このアプローチは、喫煙による残留交絡の可能性を最小限に抑え、この集団に特有のDNAmシグネチャーを特定するのに役立ちます。
この研究の目的は、非喫煙者の診断前の口腔洗浄サンプルを使用して、肺がんに関連するDNAmバイオマーカーを特定することです。
DNA抽出とDNAメチル化測定:
口腔洗浄サンプルを登録時に収集し、DNeasy PowerSoil Kit(Qiagen)を使用してDNAを抽出。
ビスルファイト変換DNAを用いてInfinium MethylationEPIC BeadChip Array(Illumina, Inc., CA, USA)で全ゲノムDNAmを評価。
サンプルは出荷日基準で3つのプロジェクトに分けられ、最大のプロジェクト(プロジェクト2)には101サンプル(62.0%)が含まれる。
エピジェネティック年齢バイオマーカーの計算:
エピジェネティック年齢はHorvathのオンライン計算機を使用して計算。
生物学的年齢と年代の比較を示すエピジェネティック年齢加速(EAA)を測定。
ホルバースクロックの外因性EAA(EEAA)と内因性EAA(IEAA)も評価。
統計解析:
R統計ソフトウェアとBioconductorパッケージを使用して、生データを処理。
パフォーマンスの低いサンプルを除外し、品質管理基準を満たす607,910のプローブを使用。
欠損値はK-nearest neighbor法で補完し、データはBeta Mixture Quantile正規化(BMIQ)を用いて正規化。
サンプルプレート、アレイ、スライドに関連するバッチ効果はComBatで補正。
各CpGサイトのDNAmはβ値として報告され、EpiDISHを使用して細胞型割合を推定。
差異メチル化位置(DMPs)と肺がんリスク:
発見段階(n = 101)と再現段階(n=62)で2段階解析を実施し、肺がんと関連するDMPsを特定。
年齢、性別、サンプルプレート、推定細胞型割合を調整したロバスト線形回帰モデルを使用。
発見段階のp値に基づいて特定された上位50のDMPを再現段階で検証し、固定効果メタ分析で結果を統合。
無条件ロジスティック回帰モデルを適用し、連続およびカテゴリカル変数としてDNAm M値を分析。
eFORGEを使用したDMPのインシリコ注釈と経路解析:
eFORGEを使用して、発見および統合EWASの上位1000のDMPの機能的重複解析を実施。
GOrillaを使用して、FDRを適用した経路濃縮解析を実施。
エピジェネティック年齢と肺がんリスク:
散布図と年代との経験的相関を通じてエピジェネティック年齢を評価。
年齢と性別を調整した無条件ロジスティック回帰モデルを使用し、DNAmエイジングと肺がんの関連を評価。
結果:
163人の参加者(肺がん症例80例、対照83例)のうち、38人がSMHS(症例19例、対照19例)、125人がSWHS(症例64例、対照61例)に登録されている。
発見分析には101人の参加者が含まれ、全サンプルの62%を占め、44例の肺がん症例と57例の対照が含まれている。
肺がん症例のうち、腫瘍組織学データが利用可能な31例(38.8%)が腺がん、41例(51.3%)が分類不能であった。
ロジスティック回帰モデルは、これら3つのDMPと肺がんの間に有意な関連を示しており、発見、再現、およびメタ分析で一貫して支持されている。
カテゴリカル分析では、これらのDMPの三分位数にわたる一貫した単調な傾向が見られた。
性別に分けた分析では、これら3つのDMPが男性においてより顕著な効果を示したが、統合サンプルでは性別との有意な相互作用は見られなかった。
DMPsの規制コンテキストを理解するために、最も近い遺伝子、エピゲノミックピーク、組織特異的な遺伝子発現、クロマチン相互作用注釈にマッピングした。
cg01411366はSLC9A10遺伝子に関連する調節要素内に位置し、cg09198866はTXN2とMYH9遺伝子から離れたインタージェニック領域に位置している。
cg12787323は最も近い遺伝子から約200kb離れたインタージェニック領域に位置し、既知のエンハンサー要素やエンハンサープロモーター相互作用とは一致しなかった。
eFORGEを用いた統合エピゲノミクス解析では、HMMクロマチン状態および上皮、筋肉、肺組織に関連するヒストンマークのブロードピークに対する濃縮が示された。
経路解析では「小GTPase媒介シグナル伝達の調節(small GTPase-mediated signal transduction pathways)」が唯一有意な経路として特定された。
エピジェネティック年齢加速(EAA)は、口腔細胞のDNAmに基づくエピジェネティック年齢マーカーが良好に機能することを示している。
ロジスティック回帰モデルでは、GrimAgeクロックで測定されたEAAが肺がんのリスクと関連しており、1年あたりの加速でオッズ比1.19(95%CI: 1.06, 1.34)であった。
他のエピジェネティッククロックと肺がんの関連は見られなかった。
Discussion要約
この研究では、上海の大規模前向きコホートにおける肺がん症例と対照群を用いて、口腔洗浄サンプルからのDNAmを評価し、エピゲノムワイドアプローチを通じて肺がんに関連する3つのDMPを同定しました。
cg09198866(MYH9; TXN2)とcg01411366(SLC9A10)のメチル化が低下し、cg12787323のメチル化が増加することが、肺がんリスクの上昇と関連しています。
肺がんに関連するDMPは、上皮機能の調節に関わる領域において顕著な濃縮が見られ、小GTPaseを介したシグナル伝達経路の調節との関連が示唆されています。
発見されたDMPと肺がんとの関連についての正確な生物学的メカニズムはまだ完全には解明されていませんが、これらのDMPは環境因子や遺伝的変異と関連している可能性があります。
GrimAgeクロックによって測定されたエピジェネティックな年齢の加速は、肺がんリスクの増加と関連していることが示されています。
この研究では、850,000以上のDNAmバイオマーカーを分析するためにIllumina Infinium EPIC BeadChipアレイを使用し、以前の研究よりも広範なカバレッジを実現しています。
口腔洗浄サンプルは、上気道の上皮細胞が豊富で、非侵襲的で容易に収集可能であるため、肺がんを含む上皮組織由来の疾患のDNAm分析に適しています。
特定されたDMPは、上皮調節領域での顕著な濃縮が見られ、非喫煙者における肺がんとの関連が示唆されています。
サンプルサイズが小さいため、外部の大規模コホートでの検証が求められます。
エピジェネティッククロックは組織特異性を持つものの、この研究ではDNAm年齢と実年齢との間に強い相関関係が認められました。
米国CDCの定義に基づく「非喫煙者」には100本未満の喫煙歴を持つ人も含まれますが、中国の女性の喫煙率が低いため、喫煙による交絡の影響は少ないと考えられます。
肺がんの組織学的サブタイプに関する詳細なデータが不足しているため、将来の研究では包括的な組織学的情報を収集し、様々な肺がんサブタイプに関連するDNAmパターンを明らかにする必要があります。
GrimAgeクロックは、エピジェネティックな年齢の加速(EAA)を測定するための新しいツールであり、DNAm(DNAメチル化)データを基に生物学的な年齢を推定します。具体的には、GrimAgeクロックは次のような特徴を持っています:
エピジェネティック年齢の概念:
エピジェネティック年齢は、ゲノム全体のDNAメチル化パターンを基に推定される生物学的な年齢であり、実際の年齢(年代)とは異なることがあります。
生物学的な老化プロセスや環境要因の影響を反映するため、健康状態や病気のリスクを評価する指標として有用です。
GrimAgeクロックの構築:
GrimAgeクロックは、1,030のCpGサイト(DNAメチル化部位)のデータを使用して開発されました。
喫煙歴(パックイヤー数)や血漿タンパク質(7つのタンパク質)などの情報も含まれ、これらが加齢にどのように影響するかを考慮しています。
特に喫煙に関連する影響を強く反映するよう設計されていますが、非喫煙者においても有効です。
エピジェネティック年齢加速(EAA):
EAAは、エピジェネティック年齢が実際の年代よりも進んでいる(加速している)状態を示します。
GrimAge EAAは、エピジェネティック年齢から実際の年代を引いた残差として計算されます。この残差が正の値であれば、エピジェネティック年齢が進んでいることを意味します。
健康リスクとの関連:
高いGrimAge EAAは、早期死亡リスクや多くの慢性疾患(心血管疾患、がんなど)のリスク増加と関連しています。
特に、肺がんリスクの増加とも強く関連していることが示されています。喫煙や大気汚染、PAHs(多環芳香族炭化水素)への曝露など、既知のリスク因子がこれに寄与します。
GrimAgeクロックの利点:
従来のエピジェネティッククロックよりも多くの健康リスク要因を取り入れているため、より正確なリスク評価が可能です。
非侵襲的なサンプル(例えば、口腔洗浄サンプル)でも測定が可能であり、広範な応用が期待されます。
まとめると、GrimAgeクロックによって測定されるエピジェネティックな年齢加速は、生物学的な老化速度を反映し、健康リスクの評価において重要な役割を果たします。特に、肺がんのような疾患のリスク評価において、その有用性が示されています。
上皮調節領域と小GTPase媒介シグナル伝達経路の関与について
上皮調節領域とは?;以下、ChatGPT4oにて大学初頭程度で解説してもらった
上皮細胞(エピテリアル細胞):体の表面や内部の器官、血管、腺などの表面を覆う細胞のことです。これらの細胞はバリアとして機能し、物質の交換、分泌、保護などの役割を果たします。
調節領域(レギュラトリーリージョン):DNA上の特定の部分で、遺伝子の発現を制御します。これは、遺伝子がどの程度活発に働くか(つまり、どれだけ多くのタンパク質を作るか)を調整するためのスイッチのようなものです。
小GTPase媒介シグナル伝達経路とは?
シグナル伝達経路(シグナル・トランスダクション・パスウェイ):細胞が外部からの情報(シグナル)を受け取り、その情報を内部に伝達するプロセスです。このプロセスを通じて、細胞は成長、分裂、移動、死などの活動を調整します。
小GTPase(スモールGTPase):小型のタンパク質で、スイッチのように働きます。これらは、GTPというエネルギー分子と結びつくことで「オン」になり、GDPという分子に変わることで「オフ」になります。このオンオフの切り替えにより、細胞内の様々なシグナル伝達経路を制御します。
なぜ重要なのか?
上皮調節領域の役割:これらの領域は上皮細胞の正常な機能を維持するために重要です。例えば、これらの調節領域が適切に働かないと、上皮細胞が異常に増殖し、がんになる可能性があります。
小GTPaseの役割:これらのタンパク質は細胞の成長、移動、分裂を制御するため、非常に重要です。これらが正常に機能しないと、細胞が異常に成長したり、転移したりする原因となります。
例え話で説明
上皮調節領域:テレビのリモコンのボリュームボタンのようなものです。このボタンを使って、テレビの音量(遺伝子の発現量)を調整します。音量が適切でないと(遺伝子が過剰に発現すると)、家の中が騒がしくなります(細胞が異常に増殖します)。
小GTPase:工場の生産ラインで働くスイッチのようなものです。このスイッチをオンにすると、製品(細胞の活動)が作られます。スイッチが正常に動作しないと、生産ラインが停止したり、逆に暴走したりします(細胞が正常に働かなくなります)。
まとめ
上皮調節領域は、上皮細胞が正常に機能するために必要な遺伝子の発現を調整します。
小GTPaseは細胞内の情報伝達を制御する重要なタンパク質で、細胞の成長や移動を調整します。
これらが正常に機能しないと、がんのような病気の原因となることがあります。
このように、上皮調節領域と小GTPase媒介シグナル伝達経路は、細胞の正常な機能と健康を維持するために非常に重要な役割を果たしています。
以下、関連遺伝子についてChatGPT4o解説してもらった
cg09198866、cg01411366、およびcg12787323は、それぞれ異なる遺伝子や機能と関連しています。これらのDNAメチル化位置(DMP)は、特定の遺伝子や調節領域と結びついており、それぞれの機能や関連性は以下の通りです。
cg09198866(MYH9; TXN2)
MYH9(ミオシン重鎖9):
役割:MYH9は非筋肉ミオシンIIAの重鎖をコードする遺伝子です。このタンパク質は、細胞の形態維持、細胞移動、細胞分裂などに関与しています。
がんとの関連:MYH9はがん幹細胞マーカーであり、腫瘍形成に関与すると考えられています。また、PI3K/AKT/mTOR経路を通じてがんの進行に影響を与えることが知られています。
TXN2(チオレドキシン2):
役割:TXN2はミトコンドリアチオレドキシンファミリーの一員であり、ミトコンドリア膜電位の調節や酸化ストレスからの防御に重要な役割を果たします。
がんとの関連:酸化ストレスに対する防御機構として機能し、フェロトーシス(鉄依存性細胞死)を防ぐため、がん細胞の生存に寄与する可能性があります。
cg01411366(SLC9A10)
SLC9A10(ナトリウム-水素交換体ファミリー):
役割:SLC9A10はナトリウム-水素交換体ファミリーに属し、細胞内外のナトリウムと水素イオンの交換に関与します。この機能は、細胞のpHバランスやイオンホームスタシスの維持に重要です。
がんとの関連:SLC9A10は肺腺がんの研究で非喫煙者に関連していることが示されており、肺がんのリスク要因として考えられています。
cg12787323
近接する遺伝子なし:
特徴:cg12787323は、既知の遺伝子やエンハンサー-プロモーター相互作用とは一致しない領域に位置しています。そのため、具体的な機能やターゲット遺伝子の特定が難しいです。
がんとの関連:この位置はまだ明確には理解されていませんが、DNAメチル化の変化ががんリスクに影響を与える可能性があります。
まとめ
cg09198866(MYH9; TXN2):細胞の形態維持や移動、酸化ストレス防御に関連し、がん幹細胞マーカーやがん細胞の生存に寄与。
cg01411366(SLC9A10):細胞のイオンバランス維持に関連し、非喫煙者の肺がんリスクに関与。
cg12787323:機能やターゲット遺伝子は未解明ですが、DNAメチル化の変化ががんリスクに関連する可能性。
これらのDMPは、それぞれ異なる機能や経路と関連しており、がんの発生や進行に影響を与える可能性があります。