
肺高血圧症:15-HETE駆動腸-肺軸(IFNα4→CD8細胞のIFI44発現→TRAIL発現→肺血管床密度消失・血管リモデリング促進)
腸でのIFNα4の誘導
15-HETEにより腸上皮細胞がIFNα4を発現。
IFI44の誘導
IFNα4がCD8細胞のIFI44発現を誘導。
TRAILの誘導
IFI44がTRAIL発現を調節し、CD8細胞でのTRAIL発現が増加。
肺での病態形成
CD8細胞が肺においてTRAILを介して血管内皮細胞のアポトーシスを引き起こし、肺血管床密度の消失および血管リモデリングを促進。
高繊維食や腸内で生成される短鎖脂肪酸(SCFA)が、肺のウイルス感染や炎症反応を抑制することが報告されており、15-HETEによる炎症性経路を間接的に緩和する可能性
以下、論文
Ruffenach, Grégoire, Lejla Medzikovic, Laila Aryan, Wasila Sun, Long Lertpanit, Ellen O’Connor, Ateyeh Dehghanitafti, ほか. 「Intestinal IFNα4 promotes 15-HETE diet-induced pulmonary hypertension」. Respiratory Research 25, no. 1 (2024年11月28日): 419. https://doi.org/10.1186/s12931-024-03046-z.
目的
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、肺血管床の再構築により肺動脈圧が上昇する疾患である。酸化脂肪酸、特にヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)は、PAHにおいて重要な役割を果たす。以前、15-HETEの食事補充がマウスにおいて肺高血圧(PH)を引き起こすことを示し、腸-肺軸の関与を示唆した。しかし、そのメカニズムは明らかでない。
アプローチ
15-HETEを含む食餌を与えたマウスの肺および腸から得られたRNA-seqデータをPAH患者の肺のトランスクリプトミクスデータと比較解析した結果、IFN誘導性タンパク質44(IFI44)がマウスおよびヒトの両方で有意に発現上昇する唯一の遺伝子であることを確認した。我々は、IFI44がPAH患者の末梢血単核細胞(PBMC)でも有意に増加していることを示した。マウスでは、15-HETE食餌により腸で先行してIFI44およびその誘導因子であるIFN⍺4の発現が増加し、その後肺で増加する。PAHにおけるIFI44の発現は、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)の発現と高い相関があり、TRAILはマウスおよびヒトのPH肺におけるCD8細胞で発現が上昇している。
腸上皮細胞が産生するIFN⍺4がCD8細胞におけるIFI44発現を促進することを示した。さらに、IFN受容体1-KOマウスでは15-HETE食餌を与えてもPHが発症しないこと、また、15-HETE食餌を与えたマウスの肺でIFI44発現を抑制するとPHの発症が防がれ、肺のCD8細胞でのIFI44およびTRAILの発現が有意に低下することを明らかにした。
結論
我々のデータは、15-HETEによって駆動される新しい腸-肺軸がPHにおいて存在することを示している。
序文要約
PAHの特徴と問題点
肺血管床の消失および閉塞性再構築が肺動脈圧上昇を引き起こす。
進行すると右心室機能不全を招き、最終的には死に至る。
現在の治療法は3年生存率を79%まで向上させたが、病態進行を抑制するのみで、最終的に移植が必要となる。
15-HETEとPAHの関連
酸化脂肪酸(特にHETE)の血漿濃度がPAHで増加し、病因に重要な役割を果たす。
15-HETEの食事補充により、マウスで肺高血圧(PH)が引き起こされることを確認。
T細胞依存性内皮細胞アポトーシスが15-HETE誘発性PHの主要メカニズムの1つ。
腸-肺軸の可能性
消化管が心血管および肺疾患の発症に関与する証拠が増えている。
15-HETEを与えたマウスでは腸上皮細胞内で15-HETEや他のHETE濃度が上昇する。
15-HETE誘発性PHにおける腸-肺軸の役割は未解明。
研究の概要と発見
RNA-seq解析により、IFI44(IFN誘導性タンパク質44)がPAH患者および15-HETE食餌マウスの腸と肺で唯一有意に発現上昇することを確認。
CD8細胞がIFI44およびTRAILを発現上昇させ、肺血管床密度を低下させることでPHを促進することを示した。
15-HETE食餌マウスの肺でIFI44を阻害すると、肺血管床密度の消失およびPHの発症が防がれることを実証。
結論
15-HETEによる新たな腸-肺軸がPHの発症に寄与している可能性が示唆された。
結果
結果の要約
IFI44の共通性と発現異常
RNA-seq解析により、腸、肺、PAH患者肺で共通して発現異常を示す遺伝子はIFI44のみであることを確認。
IFI44は15-HETE食餌マウスの小腸および肺、PAH患者の肺で有意に発現上昇している。
15-HETE誘発性PHモデルの特異性を支持する結果が得られた。

IFI44とTRAILのCD8細胞における役割
IFI44およびその標的であるTRAILは、PAH患者の肺におけるCD8細胞で発現が増加している。
15-HETE食餌マウスでも同様の現象が観察され、PHの発症メカニズムに関連している。
腸でのIFI44発現の先行性
15-HETE食餌開始後1週目に腸でのIFI44およびIFNα4の発現が上昇し、その後肺でも増加が見られる。
15-HETEはPH発症前に腸に作用する可能性が示唆された。
腸上皮細胞由来のIFNα4の重要性
腸上皮細胞は15-HETEに応答してIFNα4を発現し、これがCD8細胞でのIFI44発現を促進する。
IFNα4を抑制すると、CD8細胞でのIFI44発現が減少することを確認。
IFNR-KOマウスでのPH抑制
IFN受容体欠損マウス(IFNR-KO)では、15-HETE食餌によるPHが発症しないことを確認。
IFNα4/IFI44/TRAIL軸が15-HETE誘発性PHに必須であることを示唆。
IFI44抑制によるPH進行の抑制
IFI44の肺での発現を抑制すると、15-HETE誘発性PHの進行が抑制される。
RVSPの低下、肺血管床密度の維持、CD8細胞におけるIFI44およびTRAILの発現低下が観察された。

結論
IFI44およびその関連因子(IFNα4、TRAIL)は、15-HETE食餌誘発性PHの重要な分子メカニズムであり、治療標的としての可能性が示唆された。
Discussion
研究の主な発見
IFI44の役割
IFI44は、15-HETE食餌マウスの腸および肺、ならびにPAH患者の肺で共通して発現が上昇する唯一の遺伝子である。
IFI44は、PAH患者の末梢血単核細胞(PBMC)および肺のCD8細胞でTRAILと相関して発現が増加する。
15-HETE食餌マウスでは、腸でのIFI44およびIFNα4の発現が食餌開始後1週目に上昇し、肺では2週目以降に発現が増加する。
TRAILの役割
TRAILは、IFI44の標的としてCD8細胞における発現が増加し、肺血管床の消失や血管リモデリングに寄与する。
TRAILの発現は腸で減少し、肺で特異的に増加する。
腸-肺軸の関与
腸上皮細胞は15-HETEによってIFNα4を発現し、これがCD8細胞におけるIFI44発現を誘導する。
IFNα4は炎症反応において重要な役割を果たし、PAH発症に寄与することが確認された。
IFN受容体欠損マウス(IFNR-KO)は、15-HETE食餌によるPHの発症を防ぐ。
実験結果
IFI44を標的とするsiRNAによる肺での発現抑制は、PHの進行を防ぎ、肺血管床密度を維持する。
15-HETE食餌マウスの肺におけるTRAIL発現は、CD8細胞を通じてIFI44に依存している。
ヒトおよびマウスの肺におけるIFI44およびTRAIL発現はCD8細胞特異的であるが、CD8細胞の全体数には変化がない。
腸と肺疾患の関連
腸と肺は共通の胚発生由来を持ち、血流を介した相互作用が存在する。
腸由来の炎症反応や代謝産物が肺疾患の発症に影響を与える可能性がある。
今後の課題
PH肺におけるIFI44+/TRAIL+ CD8細胞が腸から移行してきたかどうかの確認にはさらなる研究が必要である。
IFI44抑制が肺の他の細胞(平滑筋細胞や内皮細胞)に及ぼす影響についての解明が必要である。
腸上皮特異的なIFNα4ノックアウトマウスモデルを用いた研究により、腸の具体的な役割を明確にする必要がある。
結論
15-HETE食餌による腸-肺軸の炎症反応を通じたPH発症メカニズムを明らかにした。
腸と食事が肺血管疾患の発症に与える重要な役割を示し、新たな治療標的としてIFI44/TRAIL軸を提案した。
研究で食事内容や習慣が15-HETEとそれによる肺高血圧(PH)の発症に与える影響が一部言及されています。以下に具体的な要素をまとめます:
1. 食事による15-HETE生成への影響
脂肪酸の摂取: 15-HETEは酸化脂肪酸の一種であり、食事由来の特定の脂肪酸が代謝されて生成される可能性がある。研究では、15-HETE食餌モデルを使用しており、脂肪酸含有量の多い食事が関与していることが示唆される。
2. 腸内環境と15-HETEの関係
腸の役割: 腸上皮細胞が15-HETEに応答してIFNα4を発現するため、腸内環境や腸-肺軸が15-HETEの作用を媒介する重要な要因とされる。
腸内細菌叢: 腸内細菌叢が食事由来の脂肪酸代謝を調節し、それが15-HETE生成に影響を与える可能性が示唆されている。
3. 食物繊維や腸内での代謝物
高繊維食の保護効果: 高繊維食や腸内で生成される短鎖脂肪酸(SCFA)が、肺のウイルス感染や炎症反応を抑制することが報告されており、15-HETEによる炎症性経路を間接的に緩和する可能性がある。
短鎖脂肪酸(SCFA)の役割: 食事由来のSCFAは、CD8細胞の機能を調節することが知られており、15-HETEによる肺病態の緩和につながる可能性がある。
4. 炎症性疾患と食事の関連
炎症性腸疾患との関係: 15-HETEは腸と肺の連携を介して炎症性腸疾患や肺病態に影響を与える可能性があり、腸に関連する炎症を悪化させる食事(高脂肪食、加工食品など)が15-HETE経路を活性化するリスクが考えられる。
5. 今後の方向性
現在の研究では、15-HETEが誘導される具体的な食事成分や習慣についての直接的な議論は少ないが、腸-肺軸を介した炎症性経路の調節に食事が重要な役割を果たすことが示唆されている。
腸内環境を改善する食事(例: 高繊維食や発酵食品など)が、15-HETEの生成やその影響を軽減する可能性がある。
まとめ
食事内容や習慣が15-HETEの生成やその作用に間接的に影響を与える可能性は高い。特に、高脂肪食、腸内細菌叢、炎症性腸疾患との関係が重要視されており、食事による腸内環境の改善がPH発症を抑制する潜在的な介入策となり得る。