特発性肺線維症(IPF)の治療法開発のための新しい経路として、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体(PPAR)の活性化が有望であることを示唆
Boateng, Eistine, Rocio Bonilla-Martinez, Barbara Ahlemeyer, Vannuruswamy Garikapati, Mohammad Rashedul Alam, Omelyan Trompak, Gani Oruqaj, ほか. 「It takes two peroxisome proliferator-activated receptors (PPAR-β/δ and PPAR-γ) to tango idiopathic pulmonary fibrosis」. Respiratory Research 25, no. 1 (2024年9月23日): 345. https://doi.org/10.1186/s12931-024-02935-7.
Discussion要約
以下は、上記の要約です。
肺線維症の研究では、TGF-β1を用いて線維化を模倣し、PPARの役割を評価。
従来の動物モデル(放射線やアスベスト、シリカ使用)は人間の線維症に完全に一致しない。
TGF-β1は線維症を誘導し、特にPPAR-β/δとPPAR-γのアゴニストが線維症の進行を逆転させる可能性を示唆。
これらのアゴニストは、コラーゲン産生、ペルオキシソーム生合成、脂質代謝、カタラーゼの活性を改善。
IPF患者の線維芽細胞はコントロール群に比べて、PPAR-α、GPX1/2のタンパク質レベルが高い。
線維症の進行は、線維芽細胞の数と増殖、カタラーゼのレベルに依存。
PPAR-β/δとPPAR-γの活性化は、カタラーゼのレベルを高め、抗線維症効果をもたらす。
PPAR-β/δとPPAR-γの併用治療は、肺線維症の治療において有望。
臨床的には、エアロゾル吸入による局所治療が有効なアプローチである可能性。
PPAR-α、PPAR-β/δ、およびPPAR-γの3つのPPARと、TGF-β1によって誘導されるSmadシグナル伝達、ペルオキシソーム遺伝子のダウンレギュレーションについて
【1. PPARとは?】
PPAR(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)は、細胞内でエネルギー代謝や脂質代謝を調節する転写因子(遺伝子のスイッチのようなもの)です。PPARには3つの種類があります:
これらのPPARは、相互に影響を与える「クロストーク」を持っており、それぞれの働きが組み合わさることで細胞の機能を調整します。
【2. TGF-β1とSmadシグナル伝達】
**TGF-β1(トランスフォーミング成長因子ベータ1)**は、体内の細胞の成長や分化、免疫応答を調整する重要なタンパク質です。特に線維症(組織が過剰に硬くなる病気)に関与しています。
TGF-β1が細胞に作用すると、Smadタンパク質という一連の分子が活性化され、これがSmadシグナル伝達と呼ばれるプロセスを引き起こします。このシグナルが伝わると、遺伝子の発現が変化し、細胞の行動(例えばコラーゲンを作る量)が変わります。
【3. ペルオキシソームと遺伝子のダウンレギュレーション】
ペルオキシソームは細胞の中で脂質を分解したり、有害な物質を解毒したりする小さな構造です。TGF-β1によってSmadシグナルが活性化されると、**ペルオキシソームに関連する遺伝子の働きが抑制(ダウンレギュレーション)**され、ペルオキシソームの機能が低下します。これにより、細胞内で脂肪の代謝が乱れ、線維症の進行が促進されます。
【まとめ】
PPAR-α、PPAR-β/δ、PPAR-γは、それぞれ異なる代謝機能を持ち、互いに影響し合います(クロストーク)。
TGF-β1はSmadシグナルを介して、細胞の遺伝子を制御し、線維症を引き起こします。
TGF-β1の作用でペルオキシソームの遺伝子の働きが抑えられ、脂肪代謝が影響を受けます。
このようなシステムは非常に複雑ですが、PPARとTGF-β1は病気の進行や治療に重要な役割を果たしています。