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喘息小児気道閉塞 miRNA:Hippo経路やRAGE経路は、気道炎症や気流閉塞の発症において重要な役割を果たし、let-7e-5pやmiR-342-3pを通じて調節される

上記は以前の関連記事


Tiwari, Anshul, Brian D. Hobbs, Rinku Sharma, Jiang Li, Alvin T. Kho, Sami Amr, Juan C. Celedón, ほか. 「Peripheral blood miRNAs are associated with airflow below threshold in children with asthma」. Respiratory Research 26, no. 1 (2025年1月24日): 38. https://doi.org/10.1186/s12931-025-03116-w.

背景

マイクロRNA(miRNA)は、喘息などの炎症性疾患に関与する重要な転写後調節因子である。小児期の肺機能低下や気流障害は、成人期に慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発症に関連している。

方法

コスタリカにおける喘息遺伝学研究(GACRS)から得られた365の末梢全血サンプルの小RNAシーケンスデータを解析し、FEV1/FVCで測定された気流レベルとの関連を調査した。RのDESeq2を用いて差次的に発現した(DE)miRNAを特定し、共変量を調整した上で10%の偽発見率(FDR)を適用した。この解析には361のサンプルと649のmiRNAが含まれた。さらに、2つのDE miRNAについて、COPDの有無にかかわらず成人の元喫煙者を対象とした研究で気流閉塞との関連を検証した。

結果

気流が基準値未満の参加者と基準値以上の参加者を比較した結果、1つのmiRNAが上方制御され、1つのmiRNAが下方制御されていることが判明した。成人の研究においても、FEV1/FVC < 0.7の個人とFEV1/FVC > 0.7の個人を比較した場合、同じmiRNAがそれぞれ上方制御および下方制御されており、統計的な示唆が得られた。これらのmiRNAの標的遺伝子は、PI3K-Akt、Hippo、WNT、MAPK、および焦点接着経路に富んでいた。

結論

2つの差次的に発現したmiRNAが、小児の喘息における気流レベルおよび成人のCOPDにおける気流閉塞と関連していることが判明した。これにより、小児期の気流に影響を与える共有の遺伝子調節系が、成人期の気流閉塞にも寄与している可能性が示唆される。


序文

  • 喘息とCOPDの概要

    • 喘息は米国で約2300万人、世界で3億人以上が影響を受ける疾患。

    • 喘息の特徴は、しばしば可逆的であるものの、気流閉塞が見られる点。

    • 一方、COPDは完全に可逆的ではない固定的な気流閉塞が特徴。

    • 気流閉塞は、1秒量(FEV1)と努力性肺活量(FVC)の比率低下で示される。

  • 喘息とCOPDの遺伝的関連

    • 「オランダ仮説」によれば、小児期喘息とCOPDには遺伝的なつながりがある可能性が示唆されている。

    • GWAS(ゲノムワイド関連解析)により、喘息とCOPDにおける全体的な遺伝的相関と、複数の共通するゲノム領域が確認されている。

    • しかし、喘息とCOPDの気流制限における非遺伝的要因の研究は不足している。

  • miRNA(マイクロRNA)の役割

    • miRNAは、21–23塩基の非コードRNAで、標的mRNAの3'非翻訳領域に結合し、遺伝子発現を調節する。

    • miRNAは免疫や炎症反応において重要な役割を果たし、喘息やCOPDの治療ターゲットとして注目されている。

  • miRNAと喘息の先行研究

    • 喘息の子どもと健康な対照群での循環miRNA発現の違いを調査。

    • IL-5発現のmiRNAによる調節や、気道細胞におけるmiRNAの差次的発現が確認された。

    • 喘息とCOPDの急性増悪に関連するmiRNA(例: miR-451b, miR-7-5pなど)が特定された。

  • 研究の目的と仮説

    • これまで、喘息の急性増悪に関連するmiRNAの研究は行われてきたが、子どもの気流制限や閉塞に関する研究は不足している。

    • 本研究では、急性増悪と関係しない末梢血miRNAが、喘息の子どもにおける気流レベルに関連し、COPDの成人でも観察されることを仮定した。

  • 研究対象

    • 喘息の子どもとCOPDを有する成人および元喫煙者を含む2つの詳細に特徴付けられたコホートを用いて仮説を検証。

研究方法

Genetics of Asthma in Costa Rica Study (GACRS)

  • 対象:6〜14歳の喘息の子ども1,165人を対象(2001年2月〜2011年7月に募集)。

  • 定義:医師診断の喘息と、少なくとも2つの呼吸器症状(喘鳴、咳、呼吸困難)または過去1年の喘息発作の既往。

  • 手法:American Thoracic Society(ATS)ガイドラインに基づきスパイロメトリーを実施。

  • その他:全参加者の祖父母6人がコスタリカ中央渓谷出身であることが条件。

  • 承認:サンホセ国立小児病院およびブリガム&ウィメンズ病院の倫理委員会が承認。

COPDGene Study

  • 対象:非ヒスパニック系白人とアフリカ系アメリカ人の喫煙歴10パック年(10年間で1日1箱分の喫煙)以上の現喫煙者および元喫煙者。

  • 定義:スパイロメトリーでFEV1/FVC < 0.7をCOPDの診断基準とした。

  • 対象者数:439人(COPDGene 5年目フォローアップ訪問から)。

主なアウトカム

  • GACRS:

    • FEV1/FVC比率の測定を行い、予測値100%を基準に気流制限の有無をバイナリ変数として定義。

    • 臨床的な気流閉塞(FEV1/FVC < 70%)が少ないため、100%基準を用い統計的パワーを向上させた。

  • COPDGene:

    • FEV1/FVC < 0.7をCOPD診断および気流閉塞の基準とした。

miRNAシーケンスと品質管理

  • サンプル:

    • GACRS:2001〜2005年に取得した末梢血サンプルを-80°Cで保管、2019年にシーケンス。

    • COPDGene:450サンプルの末梢血小RNAシーケンスデータを使用。

  • シーケンス方法:

    • NEXTflex Small RNA-Seq Kit v3を使用し、Illumina NextSeq 550で実施。

  • 品質管理:

    • miRNAは50%以上のサンプルで5リード未満のものを除外。

    • gPCAを用いてバッチ効果を確認し、アウトライヤーのバッチを除外。

差次的発現miRNAの特定

  • 手法:

    • DESeq2を使用し、10%の偽発見率(FDR)を適用。

    • 共変量(年齢、性別、ICS使用、BMIなど)で調整。

  • 結果:

    • ロジスティック回帰分析でmiRNAカウントが倍増する際の効果サイズ(オッズ比)を算出。

    • 群間での平均発現レベルの差を検定するために10,000回の置換テストを実施。

機能的アノテーションと経路解析

  • ターゲット遺伝子:

    • Micro T-CDS、TarBase、TargetScanデータベースを使用し、miRNAの標的mRNAを特定。

  • 経路解析:

    • KEGG経路解析にclusterProfilerパッケージを使用し、p値<0.05で経路の富集を確認。

  • ネットワーク解析:

    • miRNet 2.0を用いてDE miRNAと標的遺伝子のネットワークを構築。

    • Hippo、PI3K-Akt、MAPK経路に関連する転写因子(TF)-miRNA-遺伝子の相互作用を再構築。


結果


コホートの特徴

  • GACRS:

    • 末梢血サンプルが365人(全体の31.33%)の喘息の子どもから利用可能。

    • 基準未満の気流の子どもは、年齢や体重は基準以上の子どもと類似。

    • 主な違いはスパイロメトリー結果(FVCが高く、FEV1が低い)。

  • COPDGene:

    • 現喫煙者および元喫煙者から収集したデータを使用。

差次的発現miRNA(DE miRNA)

  • サンプル数: 361サンプルと649 miRNAを解析対象とした。

  • GACRS結果:

    • 気流基準未満の参加者で次のmiRNAが確認された:

      • let-7e-5p: 発現上昇(p = 0.0001, FDR = 0.054)。

      • miR-342-3p: 発現低下(p = 0.0002, FDR = 0.054)。

  • COPDGene結果:

    • COPDの気流閉塞(FEV1/FVC < 0.7)との関連が示唆された:

      • let-7e-5p: 発現上昇(p < 0.064)。

      • miR-342-3p: 発現低下(p < 0.085)。


GACRSにおける気流基準値以上と未満の末梢血miRNAの差次的発現。
Benjamini-Hochberg調整済みp値が示されている。平均発現値はlog2スケールで表されている。縦の点線は上方および下方の発現変化(フォールドチェンジ)を示し、横線はFDR(偽発見率)<10%を示している。
  • 統計的検定:

    • 置換検定で観察された発現差が偶然である可能性が極めて低いことを確認。

薬理ゲノミクスの解析

  • SABA使用者:

    • let-7e-5pはFEV1/FVCが高いグループで発現上昇(p < 0.004)。

  • ICS非使用者:

    • let-7e-5pはFEV1/FVCが高いグループで発現上昇(p < 0.008)。

  • 結論:

    • この2つのmiRNAは、子どもの喘息と成人のCOPDにおける気流制限に同じ方向の影響を示した。

機能的評価と経路解析

  • 富集解析:

    • KEGG経路: 主に以下の経路が富集していることを確認:

      • PI3K-Akt、Hippo、WNT、MAPK、焦点接着経路。

    • COPDGeneとGACRSで共通する経路: PI3K-Akt、MAPK、Hippo経路。

  • 標的遺伝子例:

    • CCND1、CCND2(Hippo経路)。

    • IGF1R(MAPK経路)。

    • THBS1、MDM2、LAMC1(PI3K-Akt経路)。

転写因子-遺伝子ネットワーク



気流が基準値以上と未満の子ども間で差次的に発現した2つのmiRNAと、それらの標的遺伝子のネットワーク。
異なる色のノード(点)は、選ばれた富集されたKEGG経路に属する遺伝子を示している。 解説(初学者向け) この研究では、気流の基準値(FEV1/FVC)に基づいて、子どもの間で特定のmiRNA(小さなRNA分子)の発現量に違いがあることを調べました。この「ネットワーク」という図は、次のことを示しています: miRNAと遺伝子の関係 miRNAは遺伝子の働きを調節する「スイッチ」のような役割を果たします。この図では、気流が基準値以上の子どもと未満の子どもで、発現量が異なる2つのmiRNAと、それらが調節する遺伝子のつながりが示されています。 色で区別された遺伝子 図の中の「ノード(点)」は、それぞれ特定の遺伝子を表しています。ノードの色は、その遺伝子が関与している「KEGG経路」と呼ばれる生物学的な働き(例えば、細胞のシグナル伝達や免疫反応など)を示しています。 KEGG経路とは? KEGG経路は、細胞内の分子がどのように作用し合うかを整理した地図のようなものです。この研究では、差次的に発現したmiRNAが調節する遺伝子が、特定のKEGG経路(例えば、PI3K-Akt経路、MAPK経路など)で重要な役割を果たしていることが分かりました。


気流基準値以上および未満の子ども間で差次的に発現した2つのmiRNA(miR-342-3pとlet-7e-5p)の標的遺伝子に富集したKEGG経路
miRNAの標的遺伝子は、microT-CDS Diana、Target Scan、およびTarBaseデータベースを用いて特定された。**Gene Ratio(遺伝子比率)**は、関心のある遺伝子群内の標的遺伝子数を全体の標的遺伝子数で割った比率を示している。


転写因子(TF)-miRNA-遺伝子の調節ネットワーク:(A)Hippo経路、(B)PI3K-Akt経路、(C)MAPK経路に関連し、miR-342-3pとlet-7e-5pの両方による調節が示されている。
  • 転写因子:

    • let-7e-5pは全ての経路で高い接続性を示す。

    • MYC転写因子がlet-7e-5p発現を調節。

  • 共通標的:

    • 2つのDE miRNAは、Hippo、PI3K-Akt、MAPK経路で共通の遺伝子を標的とする。


Discussion

箇条書き要約

miRNAと気流との関連

  • 発見: 2つのmiRNA(let-7e-5p, miR-342-3p)が、コスタリカの喘息児における気流(FEV1/FVC比)と関連。

    • let-7e-5pは発現上昇、miR-342-3pは発現低下

    • COPDGene研究でも同じ方向の発現変化が確認され、統計的証拠が示唆された。

基準値の設定

  • GACRS:

    • FEV1/FVC比100%を基準値として採用(統計的パワー向上のため)。

    • 臨床的な気流閉塞は少ないため、軽度またはなしの基準値が適切と判断。

  • COPDGene:

    • FEV1/FVC比70%を基準値とし、COPD診断に用いられる臨床的な閉塞レベルを反映。

規制経路とmiRNA

  • miRNAの関連経路:

    • let-7e-5p: PI3K-Akt, MAPK, Hippo, Wnt経路と関連。

    • miR-342-3p: アレルギー性気道疾患や炎症を抑制する役割が確認されている。

  • 炎症調節:

    • let-7e-5pはプロ炎症的役割を持つ一方で、DUSP1やPTENなどの炎症抑制遺伝子を調節。

    • MAPKやPI3K-Akt経路は、気道リモデリングや閉塞に関与。

miRNAと喘息・COPDの関係

  • 喘息とCOPDは重複する原因を持つとされ、miRNAは両疾患における気流制限に共通する調節因子。

  • 喘息の気道閉塞は主に炎症、特にT細胞(CD4+)や好酸球の増加と関連。

過去の研究との比較

  • 過去の小規模研究(160名)では22のmiRNAが気道閉塞と関連付けられたが、今回の研究結果とは一致しなかった。

    • 理由として技術的な違いや統計的パワーの差が挙げられる。

Hippo経路の役割

  • Hippo経路は細胞増殖とアポトーシス(細胞死)を制御。

  • YAP1やTAZは、肺の発達と気道の恒常性維持に重要。

  • YAP1の異常は喘息やCOPDの進行に寄与する可能性。

RAGE経路との関連

  • let-7e-5pとmiR-342-3pはRAGE経路(炎症を促進する経路)に関連。

  • この経路は喘息やCOPDの炎症および気道リモデリングに関与。

制限と課題

  • GACRSでは気流制限が臨床的閉塞を反映しないため、結果は控えめに解釈する必要がある。

  • 年齢、喫煙歴、疾患の重症度などの違いが結果に影響する可能性。

  • 細胞構成データや時間的関係が不足しているため、さらなる研究が必要。

結論

  • miRNA(let-7e-5p, miR-342-3p)は喘息とCOPDにおける気流制限に関与。

  • これらのmiRNAは炎症経路や気道リモデリングに影響を与え、治療ターゲットとしての可能性がある。



Hippo経路は、細胞の増殖と器官のサイズを制御する重要なシグナル伝達経路です[1]。この研究では、気流制限に関連する2つのmiRNAの標的遺伝子がHippo経路に富んでいることが明らかになりました[1]。

Hippo経路の主な特徴:

  1. 細胞増殖と器官サイズの制御: Hippo経路は、細胞の増殖を抑制し、器官のサイズを適切に維持する役割を果たします。

  2. がん抑制機能: この経路の異常は、細胞の過剰増殖やがんの発生につながる可能性があります。

  3. 転写因子の制御: YAPとTAZという転写共役因子を制御することで、遺伝子発現を調節します。

  4. 他の経路との相互作用: Hippo経路は、WNTやMAPK経路など、他のシグナル伝達経路とも相互作用します[1]。

この研究結果は、Hippo経路が喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの気道疾患の病態生理に関与している可能性を示唆しています。Hippo経路の調節が、これらの疾患の新たな治療標的となる可能性があります。


  • Hippo経路の概要

    • Hippo経路は、胚の発達中に臓器サイズを調節し、細胞増殖やアポトーシス(細胞死)を管理する進化的に保存された仕組み。

    • YAP1(Yes-associated protein 1)とTAZは、Hippo経路の主要なエフェクターで、転写因子と結合して遺伝子発現を制御する。

    • YAP1は肺の発達や気道の恒常性維持、損傷後の再生に関与し、急性および慢性の肺疾患の原因に関与する可能性がある。

  • YAP1/TAZ経路の異常と肺疾患

    • YAP1/TAZ経路の異常は喘息やCOPDなどの慢性肺疾患の発症・進行に寄与。

    • YAP1/TAZが核内に多く存在すると、let-7などのmiRNAの成熟過程が抑制され、細胞密度に依存した調節が行われる。

  • Hippo経路の遺伝的要因

    • Hippo経路の上流因子であるFRMD6の遺伝子多型は喘息や肺機能と関連。

    • YAP1の標的遺伝子であるBIRC5の変異は、喘息などの炎症性疾患のリスクを増加させる。喘息患者ではFRMD6のmRNAが減少する一方で、BIRC5のレベルが上昇している。

  • RAGE経路との関連

    • let-7e-5pやmiR-342-3pはRAGE経路(炎症促進に関与する経路)と関連。

    • RAGE経路は肺で強く発現し、喘息やCOPDの炎症、気道リモデリング、気流閉塞に寄与する。

    • 特にTh2高型アレルギー性気道疾患の発症に重要な役割を果たす。

  • 結論

    • Hippo経路やRAGE経路は、気道炎症や気流閉塞の発症において重要な役割を果たし、let-7e-5pやmiR-342-3pを通じて調節される。

    • これらの調節異常は、喘息やCOPDの進行に関連し、治療ターゲットとなる可能性がある。


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