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2型糖尿病GLP-1 RAs中断の悪影響:体組成、体重急激再増加、心代謝パラメーター悪化など

公的保険で弁済されない部分がある、2型糖尿病のGLP-1 RAsの中断に関しては米国特有の影響があるのかもしれない。中断後の悪影響に関する問題点。

Khan, Sadiya S., Chiadi E. NdumeleとDhruv S. Kazi. 「Discontinuation of Glucagon-Like Peptide-1 Receptor Agonists」. JAMA, 2024年11月13日. https://doi.org/10.1001/jama.2024.22284.

グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1 RAs)の中止がもたらす影響とその解決策

グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬(GLP-1 RAs)の開発は、心代謝疾患の治療における状況を一変させた。より強力なGLP-1 RAs(例:セマグルチド)やGLP-1/グルコース依存性インスリントロピックペプチド作動薬(例:チルゼパチド)は、体重を10~20%大幅に減少させる。体重減少に加え、大規模試験において、糖尿病患者や糖尿病による慢性腎疾患、既存の心血管疾患(CVD)を持つ過体重または肥満患者、さらには糖尿病を持たない患者において、GLP-1 RAsがCVDイベントを減少させることが示されている。GLP-1 RAsは健康的な食事や身体活動の増加といったライフスタイルの変更と併せて、肥満や糖尿病といった慢性疾患の長期管理を目的としているが、多くの患者が治療を開始しても中止してしまう。例えば、SELECT試験では約30%の患者がセマグルチド治療を中止しており、実臨床におけるGLP-1 RAsの12か月時点での中止率は50~75%と推定される。GLP-1 RAsの治療が多くの健康利益をもたらす一方で、中止試験ではセマグルチドやチルゼパチドを中止後に体重が急激に再増加し、心代謝パラメーターが悪化することが示されている。

GLP-1 RAsの普及と不平等

セマグルチドが2017年、チルゼパチドが2022年に米国食品医薬品局(FDA)によって承認されて以降、これらのGLP-1 RAsの使用と需要は爆発的に増加している。全国調査によれば、米国成人の12%がGLP-1 RAsを使用した経験があり、6%が現在使用していると報告されている。この広範な普及により、医薬品費用が大幅に増加しており、例えばMedicareの支出は2018年から2022年にかけて100倍に増加した。2023年にはセマグルチドが売上トップの薬剤となった。しかし、健康格差に影響を与える社会的決定要因が不利な集団では、心代謝疾患の負担が大きいにもかかわらず、GLP-1 RAsの使用が低い。これにより、これらの薬剤の不平等な利用が健康格差を拡大させる可能性が懸念されている。このため、倫理学者や公衆衛生の専門家は、高効力のGLP-1 RAsの公平な配分に向けた枠組みを提案している。

GLP-1 RAs中止の臨床的影響

GLP-1 RAsの中止は臨床的に重要な影響をもたらす。STEP-1拡張試験およびSTEP-4試験では、セマグルチド治療で減少した体重の3分の2が中止後に再増加し、血糖値、血圧、コレステロール値といった心代謝パラメーターが悪化した。GLP-1 RAs中止後の心血管リスクに関するエビデンスは限定的だが、心代謝パラメーターの悪化は有害な結果のリスク増加を示唆する可能性がある。さらに、GLP-1 RAs治療中に失われた筋肉量は中止後に回復しない可能性があり、体組成の不利な変化やサルコペニアリスクの増加を引き起こす可能性がある

政策と公平性に関する課題

  1. 経済的負担:GLP-1 RAsの自己負担額が高いほど、中止率が高まることが示されている。特に低所得者層やマイノリティ集団では、治療開始が不公平であることに加え、治療継続も困難になる。この不平等を是正するため、保険制度の拡充や薬剤価格の引き下げが必要である。

  2. 保険適用の制限:肥満管理目的でのGLP-1 RAsの保険適用は、糖尿病やCVD二次予防の目的に比べてはるかに制限的である。多くの患者が薬剤費の全額または大部分を自己負担しており、これが治療中止の原因となっている。

  3. 薬剤価格の引き下げ:米国ではGLP-1 RAsの価格が他国と比べて著しく高く、システム全体で価格を引き下げる取り組みが求められている。

  4. 供給不足:需要の急増により供給不足が生じ、一部の患者は薬剤の中断を余儀なくされている。

結論

GLP-1 RAsの普及は今後さらに加速すると予想されるが、その中止率の高さは医療関係者や政策立案者、公衆衛生専門家にとって深刻な課題である。公平な治療開始だけでなく、治療継続を支援するための臨床的・政策的介入を開発し実施することが重要である。

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