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2024年度版ヘルシンキ宣言: “free and informed consent”

revised language from human “subjects” to “participants”

“被験者”から”参加者”へ

例えば、倫理審査委員会(IRB)のあり方においても、研究と倫理の矛盾の存在が存在する。

審査委員会(IRB)の承認を容易に得るべきである。しかし、臨床ケアの文脈で行われる比較効果研究や実装科学研究を通じて重要な課題に取り組もうとする研究者は、提案された研究がわずかなリスクしか伴わない場合でも、IRBの審査に苦労することが多い。承認を得るために、研究者は時に科学の質を弱める妥協を強いられる(例:「研究」ではなく「品質改善」を追求する、個別同意要件を回避するためにクラスター無作為化デザインを選択するなど)。これらの回避策は、参加者のリスクを低減したり、自律性を意義深く促進したり、研究の体験を変えたりする倫理的な改善ではない。むしろ、これらは倫理的目標から乖離した規制解釈への対応を反映している。


ヘルシンキ宣言改訂についてJAMA特集が記載されている

Bierer, Barbara E. 「Declaration of Helsinki—Revisions for the 21st Century」. JAMA, 2024年10月19日. https://doi.org/10.1001/jama.2024.22281.

  • ヘルシンキ宣言は第二次世界大戦後に開発され、今年で60周年を迎える。

  • 2024年の宣言は8回目の改訂版であり、2年以上の国際的な協議を経て策定された。

  • 改訂版では、従来の「被験者」という用語を「参加者」に変更し、自律性を強調している。

  • 「インフォームドコンセント」を「自由かつインフォームドなコンセント」とし、参加の自由を強調している。(the term “informed consent” is replaced by “free and informed consent” to emphasize the importance not only of understanding the proposed research but also the freedom from influence to choose whether and how to participate or withdraw from participation. )

  • 研究への包括的参加の重要性を強調し、特に脆弱な個人や集団の適切な保護を求めている。

  • 脆弱性は動的かつ状況依存的であるとし、包括的な参加を可能にすることの重要性を示している。

  • 比較対照の選択やポストトライアルの薬剤提供に関する要件は引き続き課題である。

  • 保存データや生体試料の二次的研究利用についても、倫理的課題が指摘されている。

  • 透明性、倫理委員会の多様性、持続可能性、研究の浪費防止など、多岐にわたる目標が示されている。

  • ヘルシンキ宣言は、倫理基準や技術の変化に対応する「生きた文書」として機能している。



Saenz, Carla, とSarah Carracedo. 「The Revision of the Declaration of Helsinki Viewed From the Americas—Paving the Way to Better Research」. JAMA, 2024年10月19日. https://doi.org/10.1001/jama.2024.22270.

  • COVID-19パンデミックにより、研究と健康・福祉の関係がより明確になった。中低所得国(LMICs)もその重要性を認識し、特にラテンアメリカやカリブ諸国で研究の法的枠組みを強化する動きが進んでいる。

  • 2024年版ヘルシンキ宣言は、パンデミック後の倫理的研究の重要性を再確認するものであり、国際的な倫理基準を遵守することで大規模な高インパクトの試験を促進する。

  • 2024年版は2013年版と大きく変わらないが、公衆衛生の緊急事態やバイオサンプル・データに関する研究、研究の誠実性、参加者との意味ある関与に関する言及が追加された。

  • 「被験者」を「参加者」とする用語の変更は歓迎されるが、ガイダンスの適用範囲を医学研究に限定するのではなく、すべての人間参加の研究に広げるべきであった。

  • LMICsでは研究倫理が医学研究や臨床試験に限定されがちであるが、ヘルシンキ宣言の範囲拡大はその解決に寄与する可能性がある。

  • 2013年版では、すべての人間参加の研究が事前に公的なデータベースに登録されるべきだとされたが、これが正しい方向性であることが後に証明された。

  • 2024年版では、環境の持続可能性や研究の無駄を避けることへの言及が追加されたが、実現にはさらなる取り組みが必要である。


Reis, Andreas Alois, Ross UpshurとKeymanthri Moodley. 「Future-Proofing Research Ethics—Key Revisions of the Declaration of Helsinki 2024」. JAMA, 2024年10月19日. https://doi.org/10.1001/jama.2024.22254.

  • 1964年に採択されたヘルシンキ宣言は、ニュルンベルク綱領に続く研究倫理の基本文書であり、国際的・国内的な法規や規制にも強い影響を与えた。

  • 社会的信頼が重要であり、研究参加者や一般市民が国際的な倫理基準と人権基準に沿った研究に安心できることが、研究の成功の鍵となる。

  • 2024年版の改訂は、感染症流行時や公衆衛生の緊急事態においても倫理的原則を守る重要性を強調しており、新たに環境持続性を考慮することも求めている。

  • 研究の健全性や科学的厳密性を強調し、研究の無駄を避ける設計が求められる。COVID-19試験の多くが科学的厳密性を欠いていたことが示された。

  • 脆弱性の概念が拡張され、コミュニティの関与が強調されている。これにより、個人主義的な視点から連帯や相互性を重視する視点への移行が見られる。

  • 研究倫理委員会に関する要件が強化され、適切な資源や人員の確保が求められる。両国での二重審査が必要とされ、現地の状況を考慮する重要性が強調されている。

  • 未検証の介入に関する規定が拡張され、臨床試験を妨げないよう注意が求められる。

  • 今後、AIの影響が臨床試験に大きな変化をもたらすと予測されており、AI関連研究における新たなパラダイムの開発や倫理審査委員会へのガイダンスが必要である。


Bloom, Lara. 「Revisiting the Declaration of Helsinki—A Patient-Centered Perspective」. JAMA, 2024年10月19日. https://doi.org/10.1001/jama.2024.22077.

  • ヘルシンキ宣言は、医療研究倫理の基本文書として人間の参加を伴う研究を規定し、その内容は時代に応じた見直しが行われてきた。

  • 2024年版の改訂では、患者の関与、データプライバシー、グローバルな公平性に重点が置かれ、特に患者中心の研究倫理を強調している。

  • 今回の改訂では、患者の経験を研究設計や優先事項に反映することが求められており、特に慢性疾患や希少疾患を抱える患者の声を尊重する姿勢が示されている。

  • WHOの新たなガイダンスでは、すべての段階での患者・参加者・コミュニティの関与を強調し、より効果的かつ公平な研究環境を構築することを目指している。

  • デジタルヘルス技術の台頭に伴い、データプライバシーの保護が重要課題とされ、今回の改訂では、患者の健康データの収集と使用における厳格な保護措置が求められている。

  • 患者支援団体は、改訂されたヘルシンキ宣言の普及や教育に重要な役割を担っており、ウェビナーやワークショップを通じて患者の権利理解を支援することが期待されている。

  • 2024年版は、患者を「受け身の被験者」ではなく「積極的な参加者」として捉える新たなステップであるが、その普及と実行が鍵となる。

  • 研究における透明性、説明責任、包摂性を確保し、すべての患者が平等に参加できる研究環境の構築が求められている。


Shaw, James A. 「The Revised Declaration of Helsinki—Considerations for the Future of Artificial Intelligence in Health and Medical Research」. JAMA, 2024年10月19日. https://doi.org/10.1001/jama.2024.22074.

  • ヘルシンキ宣言(DoH)は、1964年に世界医師会が採択した医療研究倫理の基本文書であり、10回目の改訂が2024年に行われた。

  • 近年の医療科学の発展に伴い、AIが研究における重要な役割を担うようになり、AI技術の活用は薬剤開発や臨床試験の効率向上に寄与する可能性がある。

  • ヘルシンキ宣言の実施においては、以下の3つの課題がAIと関連して指摘されている。

    • データガバナンスの課題: データ保護に関する規制は地域ごとに異なり、研究におけるデータの倫理的な取り扱いが求められる。

    • AIリテラシーの低さ: AIに関する知識のばらつきが見られ、倫理審査委員会などの専門家がAIの研究を適切に評価できるよう、AIの理解が求められる。

    • AIによる現在および将来の被害の不明確さ: AIがもたらす潜在的な被害についての理解が不十分であり、特に構造的に疎外されているコミュニティにおける影響が懸念されている。

  • 研究倫理の実施には、創造力や先見性、進展するAI技術と伴う倫理問題への対応が必要である。


Resneck, Jack S. 「Revisions to the Declaration of Helsinki on Its 60th Anniversary: A Modernized Set of Ethical Principles to Promote and Ensure Respect for Participants in a Rapidly Innovating Medical Research Ecosystem」. JAMA, 2024年10月19日. https://doi.org/10.1001/jama.2024.21902.

  • ヘルシンキ宣言(DoH)は、歴史的な科学研究の悪用を受けて1964年に世界医師会(WMA)によって制定された国際的な医療研究倫理の基本文書である。

  • 2024年の改訂版は、30か月にわたる透明で包括的なプロセスを経て、WMA総会で全会一致で採択された。

  • 改訂版では、「被験者」という用語を「参加者」に置き換え、研究参加者を共同創造のパートナーとして扱う姿勢が強調された。(new language in paragraph 6 demands “meaningful engagement with potential and enrolled participants and their communities…before, during, and following medical research” in recognition of study participants as partners in co-creation. Gendered language was also removed.)

  • 新たな改訂では、医療研究における分配的・グローバルな正義、社会的価値、科学的厳密性、環境の持続可能性が追加された。

  • 改訂版は、特に脆弱な個人やグループに対する保護を強化し、包括的な参加を奨励する一方で、研究における自由な同意の重要性が再確認された。

  • 新たな条項では、バイオバンキングと個人データの二次利用に関するインフォームドコンセントの要件が明確化された。

  • COVID-19パンデミックの経験を踏まえ、公共の緊急事態においてもDoHの倫理原則を完全に遵守する必要性が強調された。

  • 60周年を迎えたDoHは、依然として人間を対象とする医療研究の基本的な国際倫理指針として機能し続けており、最新の改訂により、未来の医療研究における倫理的適用を強化する内容となっている。


World Medical Association. 「World Medical Association Declaration of Helsinki: Ethical Principles for Medical Research Involving Human Participants」. JAMA, 2024年10月19日. https://doi.org/10.1001/jama.2024.21972.

  • ヘルシンキ宣言(DoH)は、1964年に世界医師会(WMA)が制定した、人間を対象とした医療研究に関する倫理原則の声明であり、60周年を迎えた2024年に最新の改訂が採択された。

  • 2024年版の宣言では、「被験者」を「参加者」に置き換え、研究参加者の権利やエージェンシーを尊重する姿勢が強調されている。

  • 医療研究は、参加者の健康、権利、尊厳、プライバシーを守る義務を負い、参加者の自由でインフォームドな同意に基づくべきである。

  • 公衆衛生の緊急事態でも、DoHの倫理原則を完全に遵守することが求められ、緊急事態を理由に原則を緩和することは許されない。

  • 研究は、予測されるリスクと負担が目的の重要性を上回らない場合にのみ行われるべきであり、リスクと利益の評価が常に行われなければならない。

  • 脆弱な個人や集団の参加を適切に支援し、公平かつ責任を持って研究に含めることが求められ、健康ニーズに対応した研究であることが必要である。

  • 研究プロトコルには、倫理的考慮、リスク評価、資金源、利益相反の開示など、研究の透明性と正当性を示す内容が含まれるべきである。

  • 二次利用のためのデータや生体材料の収集・保管には、インフォームドコンセントが必要であり、倫理委員会の承認が必要である。

  • 研究は事前に公開データベースに登録されるべきであり、全ての結果(肯定的・否定的・不確定)が公開されるべきである。

  • 未承認の介入は、患者の健康回復や苦痛の緩和を目的とする場合にのみ行われるべきであり、その後、安全性と有効性を評価する研究対象となるべきである。


Kass, Nancy E., Ruth R. Faden, Derek C. AngusとStephanie R. Morain. 「Making the Ethical Oversight of All Clinical Trials Fit for Purpose」. JAMA, 2024年10月19日. https://doi.org/10.1001/jama.2024.0269.


  • 承認済み製品や代替ケア戦略の比較効果を評価する試験が増加する中、研究に適した倫理的監視が求められている。

  • 米国の人間研究規制は、過去の研究悪用を受けて制定され、臨床ケアよりも研究に多くのリスクと不確実性が伴うという見方に基づく。ほとんどの臨床研究は事前の倫理審査を受けるが、臨床ケアに同様の監視はない。

  • 比較効果研究や広く使用される臨床介入に関する研究では、既存の監視方法が必ずしも適切でない場合がある。特に、リスクや負担が低く、患者の意思決定を制限しない研究では、簡略化された同意手続きが推奨される。

  • 倫理監視の適切な方法を判断するには、(1)研究が通常のケアと比較して患者に追加のリスクや負担を与えるかどうか、(2)患者にとって意味のある意思決定を制限するかどうか、という2つの基準が重要である。

  • 最小リスクの研究では、より簡素な監視方法が望ましく、IRB(倫理審査委員会)や研究者は、同意手続きの省略ではなく、簡略化された同意の選択肢を検討すべきである。

  • 規制機関は、最小リスクと判断される条件についての具体的なガイダンスを提供し、簡略化された同意手続きを推奨するべきである。これは、低リスクの臨床研究がより効率的に行われることを可能にし、研究参加の障壁を減少させる。

  • 臨床研究は社会の健康と福祉の向上に不可欠であるが、倫理的監視は一律であってはならず、研究の目的やリスクに応じた適切な方法が求められる。


Bibbins-Domingo, Kirsten, Linda BrubakerとGreg Curfman. 「The 2024 Revision to the Declaration of Helsinki: Modern Ethics for Medical Research」. JAMA, 2024年10月19日. https://doi.org/10.1001/jama.2024.22530.

  • JAMAは、現代の医療研究倫理における重要な課題を特集し、2つの特別なコミュニケーションと関連する論説を掲載している。

  • 最初の特別コミュニケーションは、世界医師会(WMA)総会で承認された2024年のヘルシンキ宣言改訂版である。WMAは1947年に設立され、医療倫理の国際的な合意を目指すプラットフォームとして機能してきた。

  • 2024年版は「被験者」を「参加者」に変更し、研究参加者を共同のパートナーと位置づけるなど、責任ある包括的研究を重視している。これにより、公正な参加の促進や脆弱なグループへの適切な保護が強調されている。(Writing from her perspective as a patient and leader of a patient advocacy organization, Bloom celebrates the 2024 Declaration’s revised language from human “subjects” to “participants” and the important emphasis of volunteers as partners in research)

  • 改訂版は、AIの影響拡大に対応し、参加者データの保護や倫理的データガバナンスを重要視している。

  • 見解記事では、LMICs(低・中所得国)における研究の公平性向上や、パンデミック時の課題を取り上げ、地域ごとの実践と変革の必要性を指摘している。

  • もう1つの特別コミュニケーションでは、臨床研究の倫理的監視が「目的に適した形」に整備されるべきであると提案している。特に、低リスクの比較効果研究などには、より適切な監視方法が必要である。

  • 著者らは、倫理監視が新しい実験的介入には重要であるが、低リスクの研究には過度の保護となることがあると指摘している。現行の監視方法は、臨床ケアにおける最も効果的なアプローチの証拠生成を妨げることがある。

  • 記事は、倫理的に健全で患者中心の研究が、医療ケアや公衆衛生の実践を導くための重要な役割を果たすことを再確認している。


Lynch, Holly Fernandez, とDaniel B. Kramer. 「Facilitating Efficient and Ethical Trials at the Intersection of Research and Clinical Care」. JAMA, 2024年10月19日. https://doi.org/10.1001/jama.2024.22126.

  • 科学的かつ倫理的に健全な研究は、通常、倫理審査委員会(IRB)の承認を容易に得られるべきであるが、臨床ケアの文脈で行われる比較効果研究や実装科学研究は、IRBの審査で苦労することが多い。

  • 研究者は、IRB承認を得るために「品質改善」として研究を再分類したり、複雑なクラスター無作為化デザインを採用することを余儀なくされるが、これらの対策は倫理的な改善ではなく、規制解釈の問題に起因する。

  • Kassらは、倫理監視が研究のリスクと負担の程度に比例すべきであり、患者の意思決定を制限する研究には同意要件も比例すべきであると提案している。

  • 提案されたフレームワークでは、IRBは通常のケアと比較した際の追加リスクや負担に焦点を当てるべきであり、死亡などの深刻な結果が研究リスクと見なされるべきではない。

  • 現行の規制ガイダンスでは、比較効果研究であっても標準治療のリスクを研究リスクと見なすことが求められるため、研究の承認が難しくなり、患者に誤解を与える可能性がある。

  • Kassらは、IRBの監視や同意要件を最小リスク指定に合わせて調整し、透明性を確保しつつ負担を軽減することを提案している。

  • 規制の変更には、実行可能性の基準の明確化や、患者の権利と福祉を損なわない範囲での同意要件の変更が含まれるべきである。

  • 研究のラベリングではなく、活動の倫理的な特徴に基づいた監視を行うべきであり、IRBは柔軟性と創造性を持って倫理目標を達成し、臨床ケアにおける重要な研究を促進すべきである。

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