0261 - ボスキャラの動きを担当した時の話
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もう随分と前の話になるが、ゲーム業界で仕事をしていた頃に、とあるゲームのボスキャラクターの動きを担当したことがある。
いわゆるモーションキャプチャーというもの。専用の衣装を身にまとって動きをキャプチャーし、3Dで動くゲーム内のキャラクターに反映させる仕組みだ。
これがその時の写真。
ちなみに、当時の自分はゲーム会社勤めしていたものの、立場は単なるプランナー。企画の人間にも関わらずモーションを担当することになったのには理由がある。
ゲームの中に「ドラムを叩く」という設定のボスキャラが登場することになり「ドラマー」として白羽の矢が立ったというわけだ。人生いつ何が起こるか本当に分からない。
収録当日、神奈川県某所にある撮影スタジオへ向かった。住宅街のはずれにある倉庫のような空間。普段は、聞けば誰もが知ってるであろう有名な映画やCM撮影で使われている場所とのこと。
正直、収録自体はなかなかしんどかった。なぜなら、普通のドラムセットに座って、いつものように叩くのではなかったからだ。
CG作品用に作られた架空のドラムセットのサイズ感に合わせて叩かなければならず、1つ1つのパーツの比率やポジションが実際のドラムセットとは全く異なるものだった。簡単に述べると、やたらデカイ。座った状態だと必死で手を伸ばしてもシンバルに届かないレベルだった。
しかも、ただ演奏するのではなく、キャラの設定や台詞に沿って「演技入り」で叩かなければならなかった。ドラムを叩くために台本を読んでセリフを覚えるなんて経験、今のところ後にも先にもこの時だけだ。
全てにおいて慣れないこともあり、NG連発。途中から監督の顔がまともに見れなかったことを今でもハッキリ思い出せる。
朝9時にスタジオ入り。着替えやら打ち合わせやらを経て、予定だと10時から1時間ほとで終わる予定だったが、結局全てにOKが出たのは13時過ぎ。並行して進められていた別キャラクター担当の役者さん達の撮影が手際良く終わっていくのを横目に、素人が紛れ込んで迷惑をかけまくっていた状況だった。
とは言いつつも振り返ってみれば楽しい思い出として残っている。これまた狙って得られるわけでもない貴重な体験をさせてもらえてありがたい限りである。
完成したボスキャラクターの動きを見た時には、月並みな言い方だが感動した。あの時の自分の動きが本当にそのまま収録されている。というよりも、自分の動きそのままのキャラクターがゲームの中で動いているというのが、なんだか1つの夢が叶ったようでとても嬉しかった。
そんな「ドラムを叩くボスキャラクター」は、こちらの動画で確認できる。
「役者さん」の中で「ドラムを叩ける人」であれば、探せばいくらでも見つけられるだろう。ただ「この時に勤めていたゲーム会社」の中で「ドラムが叩ける人」となると僕以外に見つからなかったのだろう。
もしかすると他にもいたのかもしれないが、その場合は「表立って音楽活動もしている」「頼みやすい」などなど、何かしら「選んでもらう理由」があったのだろう。
「○○ができる人」ではライバルが多くても、「身近にいる、○○ができる人」だと選んでもらえる可能性はグンと上がる。更に「身近にいて、頼みやすい、○○ができる人」だと更に選んでもらいやすくなるだろう。
この「身近にいる」と知ってもらったり、「頼みやすい」と感じてもらうことって大事だなと感じる。これからの時代は特に。