インフォコム売却による帝人の株価への影響を考えてみる
こんにちは、プロ証券家のCNMです。
※プロ投資家ではありません。証券について比較的詳しいという意味です。プロを騙っていますが、騙っているだけで何らの資格も持っていませんのであしからず。
さて、本日こちらの適時開示情報が発表されました。
今回は、こちらの適時開示情報を読みながら、今後の帝人の株価について考えていきます。
※考えるだけで、投資を勧めるわけではありません。くれぐれもご留意ください。
概要
経緯
これまでの経緯をまとめるとこんな感じです。
2024年3月8~12日、憶測報道により帝人株価が急騰。3営業日で株価1,284円→1,398円。
同年同月8~14日、インフォコム株価が急騰。4営業日で株価2,150円→2,872円。
同年5月10日、同社株価が突如ストップ高をつけ、その後も続伸。
同年同月31日、各報道機関より「帝人株式会社が、同社が保有するインフォコム株式の全てを売却し当社株式を非公開化すること、また同件について当社が賛同する見通しである」と報道。
帝人・インフォコムより「現時点で開示すべき事実なし」と発表。
ブラックストーン(の関連企業)によるTOBが決定
1ヶ月以上前からの株価上昇はインサイダー取引も疑われそうなところですが、今回の趣旨にそぐわないので割愛します。
買付内容
株式併合によるスクイーズアウトなど、本来はもっと複雑なスキームなのですが、ここではあえて以下の2点に省略して考えます。
インフォコム株式は市場で6,060円にて公開買付される。
帝人保有の同株式(31,760,000株)は、4,231円でインフォコムへ譲渡される。
帝人について
企業概要
帝人は合成繊維の大手企業です。
連結事業は、マテリアル、ヘルスケア、繊維・製品、ITなど。
本日終値ベースの各指標を以下に掲載します。(Yahooファイナンスより引用)
時価総額:286,340百万円
PER:27.85倍(連)
PBR:0.61倍(連)
EPS:51.93(連)
BPS:2,358.37(連)
ROE:2.41%(連)
自己資本比率:36.3%(連)
会社予想配当利回り:2.07%
会社予想1株配当:30
発行済株式総数:197,953,707株
業績
2023年3月期、2024年3月期の業績は以下の通りです。(株予報(IFIS)より引用)
売上高:1,018,751百万円→1,032,773百万円(+1.4%)
営業利益:12,863百万円→13,542百万円(+5.3%)
経常利益:9,100百万円→15,564百万円(+71.0%)
当期純利益:-17,695百万円→10,599百万円(+159.9%)
また、今回の発表で2025年3月期の業績予想を以下のように変更しています。
(注)2025年度より会計基準を日本基準からIFRSに変更。
売上収益:1,050,000百万円→975,000百万円(△7.1%)
事業利益:30,000百万円→20,000百万円(△33.3%)
営業利益:26,000百万円→16,000百万円(△38.5%)
当期純利益:10,000百万円→未定
また、適時開示情報の中に以下の記述があります。(コレかなり重要です。)
帝人株価への影響
今回の発表から想定されることを列挙してみます。
株主還元策への期待
今回のTOBによって真っ先に考えるべきは、増配や自己株式取得などの株主還元策でしょう。
時価総額2,800億円の企業が、突如として1,300億円(さらに連結で1,000億円)を手にするのですから、株主が何も期待しないということはあり得ません。
発行済株式総数が約2億株なので、純粋に分配するなら1株あたり約650円になり、本日終値が1446.5円であることを踏まえると、その額の大きさがよく分かると思います。(時価総額だと規模が大きすぎて実感が湧かないと思いましたので、あえて1株あたりの金額に直してみました。)
ただし、一過性の株主還元では株価もすぐに低下してしまうため、手にした総額をすべて還元に回すということはまず考えられません。
事業ポートフォリオ変革と将来業績への影響
実際、今回のインフォコム売却により、連結営業利益が100億円(約40%)も下方修正され、ゴーイングコンサーンの前提に立てば、これほどの減益は企業側としてはかなり危機的であることがうかがえます。
したがって、ある程度は株主還元策を実施しつつ、残りは内部留保というのが現実的なやり方ではないかと考えられます。
適時開示情報中にも以下の記述があります。
ただ、やや感覚的な話になってしまいますが、株主還元はあまり期待できないのではないかと考えられます。
なぜなら、近年インフォコムの業績は安定的に拡大していたことを踏まえると、同社を手放すことによる損失を他の事業で埋めないといけないからです。
コンセンサスにして9,400百万円の純利益を計上する見込みだった企業の約55%の株式を手放すわけですから、シナジー込みで年間50億円を超える利益が見込める事業を1,000億円で創出、あるいは調達しなければなりません。
※帝人の連結営業利益が100億円減少するので、単純に考えれば50億円分のシナジー効果も減少するということでしょうか。このあたりは正直よく分かりません。
最低限で年利5%の事業というと、すぐに見つけることは難しいと思います。
「帝人グループ 中期経営計画2024-2025」の事業ポートフォリオ変革において、「モビリティ」「インフラ&インダストリアル」「ヘルスケア」の3市場を投資領域に据えるとのことですが、将来的にどのような結果となるのかは現時点で未知数です。
また、2025年3月期の予想当期純利益が未定という部分も、個人的には気になります。特別損失を隠している可能性があるからです。
期待できない株主還元
先ほど株主還元策を株主は期待すると書きましたが、実際には今回得られる利益からの還元は全くといっていいほど期待できないと考えられます。
「帝人グループ 中期経営計画2024-2025」によると、1,000億円を基盤投資、1,000億円+αを成長投資に充てるようなので、税金まで考慮すると今回得られる利益はすべて投資へ回されると思われます。
実際には、1,000億円+αの中に「追加的株主還元」(おそらくαの部分)として自己株式取得が含まれていますが、どこまで為されるかは不明です。
また、主な原資は政策保有株式の売却ではなく、営業CFの2,000億円とされていますが、決算短信を参照すると、2024年3月期の営業CFは約700億円です。
上図のキャピタルアロケーションにおける想定収入全体(2,500億円+α)のうちの不足分である1,800億円は、インフォコムの売却益を原資とすると考えるのが妥当ですので、ここからも株主還元への期待が薄いことが推察されます。
買付金額に対する失望
さらっと流してしまいましたが、投資家にとってはこれが一番大きな材料になるのかもしれません。
インフォコム株式が市場で単価6,060円で公開買付されるのに対して、帝人の持つ株式は単価4,231円で譲渡されます。
割合にして実に買付価額の7割に満たない金額で、帝人の手を離れるわけです。
これは、上昇を続けるインフォコム株価を見て、帝人の得る利益を皮算用していた投資家にとってみれば大きな誤算になります。
仮に6,000円で譲渡が決定していた場合と比較して、約560億円も利益が低い計算になりますので、見方によっては、この金額分の株主還元への期待が削がれたとも捉えられます。
まとめ
時価総額と比べて異次元的な規模のキャッシュを手にする帝人は、一見してかなり割安なように感じる一方、上述のように不透明な事業ポートフォリオ変革や期待薄の株主還元、譲渡価額に対する失望感など、悪材料とも取れる懸念が点在していることも事実です。
したがって、今回の発表のみで今後の株価を期待するのは、あまり良くないように感じられます。(といいながら株価が上がったらスミマセン。投資は自己判断でお願いします。)
・・・と、ここまで帝人を悪いように書いてしまいましたが、今回のテーマは「インフォコム売却による帝人の株価への影響」です。
会社自体は世界的な大手企業で、日経平均構成銘柄の一つでもある、超優良企業ですので、くれぐれも誤解のなきよう、よろしくお願いいたします。
それでは。良い証券ライフを。