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3038 神戸物産【前編】 決算発表で4割上昇、どうやったらその前に買えたのか?

業務スーパーを運営する神戸物産の株価が好調です。6/11の中間決算発表を受けて株価は大幅上昇、いまや時価総額ではzozoに次いで同業最大手の一角を占める神戸物産の株価を解説します。前編は、コロナ以後の大きな株価の動きについて。

終値3780円が織り込むのは、11%の長期売上成長率

最初に、proproで今の株価の織込み業績を確認しましょう。7/16(金)の終値は3780円と、中間決算直前の安値比で42%アップです。この株価が織り込む将来業績は、下図のとおり、11%の長期売上成長率。

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長期売上成長率というのは、ここから10年間の成長率を示します。さらに、神戸物産は分析のしやすさが⭐️5と表示されていますから、限界利益率が極めて安定的。とある売上高に対する営業利益の予測において、過去業績に基づいてする計算としては、かなり精緻に行うことができるということです。

11%で売上成長を続ければ、5年後の営業利益は600億円。もし売上高がそうなったときの利益として、この数字の信憑性はかなり高いということです。結果、5年後の営業利益率は9.5%です。

コロナ以後、3度繰り返された下落&上昇を振り返る

さて、神戸物産の株価チャートを見ると、昨年2月中旬以降、大きな株価下落と株価上昇のセットが3度繰り返されたことが分かります。これら3つの「V字」について、そこで起きていたことを振り返ってみたいと思います。

1)2020年3月第3週につけたコロナ初期の大底と、そこからの急回復
2)2020年9月の下落と、11月の全体的な相場上昇
3)2021年初頭の下落と、上半期決算を受けた6月中旬からの株価上昇

3038 株価チャート2

1)金融危機とは異なるコロナ

最初のV字は言わずもがな、突然のコロナ禍への反応として全世界的に起きた株式市場の急落から始まります。すわ金融危機の再来かと誰もが一斉にリスクオフに走り、ほとんどの会社が十把一絡げに下落しました。

しかし、08年の金融危機で見られたようなシステミックリスクがないと分かるや相場は反転、激しい銘柄選別に。早晩世界は正常化すると見極めた投資家は、一時的な要因は一時的なものとして株価を考え始めます。

相場は冷徹だとよく言われますが、コロナの致死率が高いのは高齢者。すなわち、労働力人口に属さない年代がその大半です。これによる供給サイドの問題は考えにくい。

そしてもし世界的な人口減少が引き起こされるようなら構造的な需要喪失が起きますが、致死率2%程度だということならその恐れはありません。

まだワクチンどころか感染拡大まっただなかですが、先の見通せない景気悪化ではなく、金融機関の財務も大丈夫だということに。もちろん当面の景気悪化は避けられませんが、長期投資の観点からは、十把一絡げに全てが下落した状態はおかしいということになります。

そうすると、財務的に今後数年を乗り切れなかったり、コロナ後も残る構造的なダメージを受けてしまうような会社は下がったまま。コロナで逆に業績を良くする会社は株価が上がるべきだということに。神戸物産のようなスーパーはその典型例だとされました。

2)コロナ相場の終わりとはじまり

続いての2)で起きた「ピークアウト」とはなんだったのでしょう。神戸物産は月次IRニュースを開示しており、毎月の売上高前年比が分かります。

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以前から+15%近傍とかなり強かった売上成長。2月以降は外出自粛で、異常な伸びを示します。3、4、5月にかけて前年比3割超に達したのち、6、7月で成長率が連続低下。これがピークアウトと言われるものです。

株価は、この7月数値が公表された翌日に出来高を伴って△7.7%と大幅下落。そのまま真っ逆さまに3週間、結局2割以上も下げることになります。

ここで少し考えてみましょう。外出自粛をするということは、外食が減り、自宅で料理をして食事する機会が増えるということです。業務スーパーの主な顧客は郊外のファミリー世帯、平均的な外食頻度は週1回未満です。

仮に週6回だった家庭料理が週7回になったとすると、その増加率は+16%。一度に食べる量が増えるわけではありませんから、食材の購入量は頻度と同じくらいの増加率のはずでしょう。

そして、業務スーパーは冷凍食品や保存食が中心で、生鮮はごく一部の大容量パックの肉類などを除いて扱いがありません。日々の食材を業務スーパーで賄うことはできないわけです。

当時は全国的にマスクが不足、ドラッグストアの棚からトイレットペーパーが消えた時期。業務スーパーの3割超という売上伸長は明らかに「買い溜め」だという推測が働きます。

とすれば、これが数ヶ月後に解消するのは至極当たり前のこと。上がったあとは下がることが予め分かっている点にかけては、夏になれば売上が増えるビールのようなものです。

ビール会社の株価は夏には上がり、冬には下がるのか?機関投資家が多数手掛けるアサヒやキリンがそのような動きをすることはありません。夏に売れたからといって、それは長期的な業績成長を示しはしないからです。

業務スーパーの場合、4,5月の相場回復の終盤に業績の上方修正がありました。冒頭のグラフでは左端の長い黒矢印の中ほどで株価が一旦下がっていますが、ここで会社は2月以降の月次を受けて営業利益予想を2割も上方修正しています。その日を境に株価は反転し、3000円を超えたのです。

2月以降の月次急伸も、6、7月のピークアウトも一過性の現象であるなら、株価はなぜ、そのようなことにいちいち反応して上下するのでしょうか?これはもうひとえに、この会社の株を手掛ける投資家たちがそう行動したからとしか言えません。

投資とギャンブルの違いは、予測できるかどうかです。下図のチャートでは、青が実際の株価、オレンジが本来の株価で、実際の株価は長期的には本来の株価に向かうことを示しています。実際の株価はほとんどの日において本来の株価から乖離するのですが、それがどこまでズレるのかは市場参加者の「奢りと恐れ」によって決まります。青の線の短期的上下に賭けるには、市場参加者という「大衆」の感情を読み取る力が必要です。

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一方、オレンジ線は計算することが可能です。計算法は学ばなければいけませんし、計算式への入力値を見極める力が必要ですが、大衆の感情を読み取る力に比べれば、努力でなんとかなる度合いが格段に高い分野です。proproのように自動で計算し、可視化してくれるツールもあります。

神戸物産の場合も、一過性に過ぎない業績要因が実際の株価をどのくらい動かすかは計算では出せません。それは「雰囲気」が決めているからです。資産形成のための投資では、長期的な事業の成長率を考え、それを当てはめた場合の買い指値に基づいて判断するほうが確実です。

3)業績予想:初期の失望から上方修正へ

最後のV字は、期初に発表された会社業績予想への失望から始まりました。12月中旬の本決算で会社が発表した21.10月期の業績予想は、売上高がフラット、営業利益が+4%という水準でした。

当時の株価が織り込んでいたのは長期の売上成長12%。決算翌日は失望売りとなり、終値は△7.9%もの下落。前日に高値を付けていたとはいえ、日経平均はわずか△0.2%しか下落していない日ですから非常に大きな下落です。

しかし実際にはこの会社、期初に発表される会社計画は常に保守的だということがこれまでの記録から分かります。実に過去8年間のうち、実績が期初予想を下回ったことは一度としてありません。その「過達度合い」は18.10期が最低で、営業利益+5%。その他の年はいずれも大幅に計画を上回る実績をあげています。

コロナによる急激な売上伸長の時期は過ぎ去ったとはいえ、20年12月はまだワクチン接種も始まっておらず、不透明感が色濃い時期。そのタイミングで、なぜここまで大幅に株価が下落したのでしょう?

この会社の場合、いわゆるコロナ銘柄として多くの「新人投資家」が昨年新たに株主保有をしたと思われます。その結果、コロナ以後の時期でしかこの会社を知らない株主が大幅に増えていたのではないでしょうか?

会社により、業績予想の出しかたにはクセがあります。もちろん恣意的に保守的な予想を出してよいわけではなく、開示するのはあくまで正式に作成された数字でなければなりません。が、社内ではハッパをかけるためにチャレンジ目標を使い、対外的には低めのハードルを出しておくということが、特に中規模程度の会社では往々にして行われます。

これにはある意味、株式市場とのコミュニケーションを間違えているという側面も。保守的なガイダンスに対する上方修正で喜んでもらおうというのは結局、ダマしのようなものだからです。

グローバル投資家の厳しい目に晒される大企業になると、目に見えて保守的なガイダンスを毎年のように出し続けるわけにはいかない場合が増えていきます。IRミーティングで根掘り葉掘り前提を聞かれ、矛盾点を衝かれ、合理的な予想はなんであるかを連日のように追求されるからです。

本当に成長を続ける企業であれば、いずれ時価総額とともに投資家層も変化し、グローバル投資家も目をつけてきます。海外展開が新たな投資家を呼び込む場合もあるでしょう。業績予想も変わっていく可能性が出てきます。

そのような期初予想から半年を経て、今回6月中旬に、新規出店数のペースアップとPB比率の改善状況、そしてそれに伴う上方修正が発表されました。結果、発表前に5%ほど落ち込んでいた株価は一気に30%超上げたのです。

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さて、今回の上方修正は事前に予想できたのでしょうか?上方修正自体は月次で公表されている売上高を追っていれば、ごく基礎的な分析をすれば容易に予想できたと思われます。

ポイントは、開示資料に掲載されている前年比ではなく、一昨年対比の成長率を計算することです。前述のとおり、昨年は2〜5月にコロナ特需があったため、今年の同じ月が前年比で低い伸び率になるのは当然です。決算発表の直前に開示されたのは4月の月次ですが、下期にあたる5〜10月がどのような成長率になるかが分かれば年間見込みも自ずと計算できてしまいます。

上期の月次売上高について一昨年比の成長率を単年換算すると、実は安定的に+15%を上回っており、Q2では各月とも+17%以上です。なにか特別なことがない限り、下期が+15%を下回るとは思えません。結局、修正予想はまさにこの+15%を当てはめた水準で、これは容易に予想可能だったのです。

大事なことはしかし、そのような予想が出てきたときの「本来の株価」がどのような水準にくるのか、です。長期成長率にもとづく動きとして株価が上がるのか、それとも一過性要因と同じように、上がるとしてもその理由は単なる「思惑」でしかないのか。

その手がかりは、なにより今の株価の織込み成長率です。5月末、株価が2700円前後だったときの織込み成長率は5%でした。分析のしやすさが⭐️5で、売上高さえ決まれば利益は高い精度で計算される会社について、長期売上成長率が実際には5%ではなく10%だということになれば、思惑ではなく本来の株価が引力となって株価は上昇します。proproを使えば、織込み成長率だけでなく、株価がいくらまでなら買うべきかの指値も分かります。

後編では、人口減少国における小売事業の長期成長率をどう考えるか、を取り上げます。既存店vs全店の考え方と、九州などの進出余地をカバーしちゃったあとは成長率が下がるとした場合の売り指値、すなわち、ここまできたら売るべきだ、という株価の計算方法を解説しているので是非どうぞ。

➡︎   後編はこちら   「3038 神戸物産【後編】 15年後は成長してないかも?そんな会社の株はどこで売ればいいのか」


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