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目視でバリュエーション:セールスフォースの株価に織り込まれた将来とは

PER400倍超のセールスフォースをうらがみ計算

セールスフォースの時価総額は20兆円ちょい。Slack買収を発表して1割ほど株価はさげたのだけど、日本企業だと23兆円のトヨタが1位、15兆円のソフバンが2位なので、こないだまでトヨタと同水準。

ざざっと暗算すると、どうやら少なくとも、「売上高が5年で2.5倍に伸び、その過程で営業利益率が今の数%から数十%になるような」将来が織り込まれていることがわかる。

以下、そのこころをざっくりと。

最大のライバルはマイクロソフト。その差、売上高は7倍超、営業利益は優に100倍あるけれど、時価総額は8倍くらい。要するに、いまは3-4%しかない利益率がいずれ30%台後半のMSFT級になると思われている訳だ。

PLをチラ見すると最大の違いは営業マーケ費用で、マイクロソフトが売上高の14%なのに対し、セールスフォースは47%も投入している。この33%の差が、両社の営業利益率3% vs 37%にそっくりそのまま表れている

セールスフォースの利益にはまだかなりの変動あり。営業利益率そのものの上下に加え、営業外/特損的なところでも投資先のIPOや企業再編に伴う税務メリットで営業利益の何倍もの金額が計上されている。

こういう類の金額がどこまで株価に織り込まれているかはケースバイケースでよく調べて考える必要が。ただ、この会社は時価総額が$200bもあるわけで、年数ビリオンの営業外/特別利益はBS反映すら無視してよさそう

というわけで営業利益を「標準化」し、本業から生まれる通常の利益に、いずれ課されるはずの通常の税率をあてはめる。その通常の営業利益が片目をつぶって目視したところ来年1月にしまる期で恐らく$300-500m。

普通にPERを計算するとカタく見積もっても400倍とかになって意味不明

ちなみに前受金やリースを調整すると足元の余剰キャッシュ/有利子負債はほぼ均衡。今のBSにしても今後稼ぐ現金のインパクトにしても、その小ささからBSはとりあえず無視、PERを使っていれば大丈夫そう。

来年Slack買収がクローズするとき、この会社はいまの時価総額の6%くらいの現金を支払い、同じく発行済株式数の4%くらいの新株を出すことになる。

ところでセールスフォースの株価は買収発表で1割下落した。つまりちょうど買収代金と同じだけ下げたということなので、結局、発表前と企業価値の評価は変わっていないということだ。

というわけで来年下期の買収実行時に増える株数とBSに乗ってくる借入金を考える代わりに、買収前の株価で考えればよい

買収話は12/1の公式発表前に漏れていたので、株価にはちょっと前のレンジ中央の$255を使うことにする。つまり時価総額$240b

マイクロソフトの実績PER30倍台後半を参考に、利益率があがったあとのセールスフォースが30倍で評価されるとすると、240÷30で純利益$8b、税前$10b。支払金利は僅かなので、一過性の収益がなければ営業利益も$10b。

これが今の株価の前提になっている業績、ということだ。足元の20%増収が5年続くと売上高は2.5倍、マーク・ベニオフがよく口にする売上高$50bが達成され、その時の利益率が20%なら上の状態が実現することになる。

ただ忘れちゃいけないのはこれが5年後に実現するものだということで、そこにはリスクがある。マイクロソフトの30倍後半は実績PER、すなわち2020年6月の業績に対して計算された倍率なのだから、そこから5年後の業績に対して計算するなら、倍率は1年ごとに定率で引き下げていく必要がある。

この倍率ってのはつまり、投資家として年何%で株価があがることを期待するか、という数字に相当する。

いくら成長が確実だとはいっても10%を下回ることはないだろう。上は20%でもおかしくないけれど、いまの強気相場は15%くらいでも許容するとするなら、期待されている5年後の営業利益率は20%ではなく32-40%だ

結論:売上高2.5倍で、営業利益率はマイクロソフト並み

なお、マイクロソフトの利益成長をけん引しているのは年30%超で伸びているクラウド事業で、そこだけなら30倍どころか50-60倍かという話もある。

でもセールスフォースの増収率は足元20%。利益率フル上昇後なら利益成長も20%だろう。マイクロソフトは全社の利益成長率20%に対して30倍後半がついており、その強みに対するプレミアムの存在を考えればやはり30倍か。

また、セールスフォースの利益率上昇は、粗利率の上昇よりも営業マーケ費用が下がって実現されるのだと思う。それが増収率に悪影響を及ぼす可能性はどうなのか。

逆に言うと、もっと高い成長率が実現できるなら30倍ではなく60倍での評価かもしれないが、そのときは増収のための投資を続けている可能性が高く、営業利益率が犠牲になっているはず。

つまり、$240bの時価総額は以下いずれかを想定しているということか。
1)売上$50b、OPM 40%、純利益$16b、5年後PER15倍 / 現在PER30倍
2)売上$75b、OPM 13%、純利益$10b、5年後PER30倍 / 現在PER60倍

OPM = 営業利益率。1は今後5年の増収率が20%、2は30%のケースだが、もちろん足元の20%が瞬時に30%になるわけはなく、こちらかなりざっくり。

個人的に意識する標準ケースとしては、「売上2.5倍、営業利益率MSFT並み」という結論になった。

Slackは従前、在宅勤務の流れに乗れていないとして株価は不調だった。今回の買収も対価が高すぎるとする報道が多いけど、セールスフォースCOOがインタビューに答えていたように3-5年後の成果は考える余地があるだろう。確かにSlackは、zoomに比べればはるかに難しい。非IT系のユーザーには。

それにしても通常、成長性を高く評価されている会社が買収を行うと株価押し上げ要因になることが多いとされる。自社より評価の低い会社を新株発行で買えば両社合算ベースで計算したマルチプルが下がるからだ。

買収戦略が評価されるのはもちろん買収先の成長率を引き上げることができればという条件付き。今回はひとまず1+1=2という反応だけれど、これが買い時かどうかを判断するには、株価がそもそも買収前に織り込んでいた将来が、Slackによりどのくらい確実になったのかを考えるとよさそうだ。

おまけ

セールスフォースはNon-GAAP営業利益として、ストックオプション費用と買収した無形固定資産の償却費を足し戻した数値を使っているのだけれど、こうしたCF数値には要注意。比較対象社も同基準で計算する必要があるのはもちろんだけど、ストックオプションについてはそもそも「今後の」べスティングや、株価がその行使価額を上回ることとなるであろう分量が分からないから、今の希薄化後株数を使うだけでは評価かさ上げになる。緒論あるけど、もし現金で払っていたら基準(=GAAP)を使うほうがよいと思う。

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以上、S-1や10-Qをざざっとナナメ読みして書いたメモです。不完全だったり不正確だったりするのでご注意を。。

※ 年度末がセールスフォースは1月でマイクロソフトは6月なので、文中、セールスフォースは2020年7月までの12ヶ月間の数値を使っています。


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