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ゲームストップ株騒動の基礎知識(2)    347.51ドルへの軌跡

さて、まず抑えるべきはゲームストップという会社のバリュエーションです。過去2週間のうちに数多の報道がされ、動画が流れ、Clubhouseもありましたが、個人的にはその半数も追えていないように思います。ただ、株価の意味について掘り下げたものはほとんどなかったんじゃないでしょうか。

舞台劇として理解するだけでも十分示唆に富む事件ではありますが、一般レベルを少し超え、ものさしを携えて全体像を把握するためには120倍に高騰したからといってバカにせず、まずは愚直にみてみましょう。

1次情報そのままでいきます。直近の10Q(=四半期報告書)の本当に基本的な数字を見るだけでも粗々の状況は分かるはず。

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まず直近Q3(2020/10末まで)のPLです。Q1-3すなわち9ヶ月間の実績を前年比較しみましょう。

ぱっとみてカッコがたくさんついており、赤字だということですね。それも売上高比で尋常じゃない額の赤字です。ゲームを実店舗で売る会社ですからコロナの打撃が著しいことは想像に難くありません。

しかし数字上、売上高が$43億から$30億に△3割減のところ、EBITつまり営業利益は($4.7億)から($2.6億)へと赤字幅が大きく縮小しています。当期利益も同様。

直近3ヶ月間だけの数字もみておきましょう。売上高は△3割減と同ペースですが、こちらの利益はEBITが($4600万)から($6300万)に悪化。当期利益は税の調整項目により赤字の大半が相殺されています。

赤字なのは分かりますが、なにが起きているのかちょっとこれでは分かりません。こういうとき次に見るべきはキャッシュフロー。

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ぱぱぱっと見ただけで分かることを要約すると、以下4点です。

・9ヶ月間の利益が前年比で改善しているのは去年大型減損があったから
・2020/1-10の赤字はノンキャッシュ利益を少し含むが、ほぼ特殊要因なし
・コロナ勃発後、赤字を丸々カバーする規模の現金をあらゆる手で創出
・結果、去年の1末-10末は($13億)もの現金を失ったのに対し、その後3ヶ月間で+$2億、次の9ヶ月間では+$1億と、手元現金はなんとか増やしている。

ノンキャッシュ利益というのは詳しくは分かりませんが、項目名からすると保有する不動産などを一部売却した結果、手元に残った分が時価評価されて評価益が出たなどの状況ではないかと思います。いずれにせよ赤字幅の1割ほどなので大勢に影響はありません。

Q4はクリスマス商戦期を含むため、この業界、季節性を無視して考えることはできないのですが、それでも目分量で当てるとすれば2021/1末までの年度損失は税関係の調整項目を除いて($300m)くらいでしょうか。大きなノンキャッシュ項目がないベースで、既に設備投資は減価償却より($30m)ほど抑えていますから、キャッシュフローは多少赤字額よりはマシになりそうです。

とすれば、2021年も2020年と似たような状況が続く場合、なんとか捻出した現金でFCFのマイナスは持ち堪えられそうですが、2022年は回復してくれないと無理そうです。ただ、後述のとおり、銀行などが協力してくれず財務CFが大きなマイナスになるようだと2021年でアウトです。

ちなみにもし前年の減損がなかったとすると2019年Q1-3の当期損失は($117m)。2020年Q1-3は($296m)なので($179m)の減益ということになりますが、この間($1300m)ほどの減収なので、計算上の限界利益率が約14%と出てきます。売上がものすごいペースで蒸発した2020年にしてはえらくマシな数字に思えますが、ひとまずここでは深く追いません。

なんとなくざっくり感覚として欲しいのは、2022年は回復に向かうとしたときの、△3割減少した売上高が戻した場合で利益/赤字がどの程度になるのかです。仮に年間減収額の7-8割が戻るとして、$1500mの増収が14%の限界利益を生むとすると+210m。まだギリギリ赤字か、ひょっとすると黒転できるのか、なんとなくそういう水準なんじゃないかなというドタ感が働きます。

もちろん構造的な減収があるでしょうから、$1500mも売上が戻るのかという根本的な疑問は残ります。ただ、ぱっとみてわかる数字をベースにする限り、何億ドル規模の赤字継続で即アウトということではなさそうです。

最後に、バランスシートをみてみましょう。

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2021年の資金繰りが持つかどうかは注記を読み、もう少しちゃんとみなければうかつには判断できませんが、$300m弱ある短期の金融負債をリボルバーできるかどうかにかかっていそうです。(オペリースは営業キャッシュフローで支払っていますから、前記の赤字額に含まれているはず。)

一方、気になるのは$330mの純資産。2021年も2020年と同じ$300m規模の赤字が出た場合、債務超過のリスクが出てきます。先ほど現金はなんとか増やして$600mちょいになっていることを確認しましたが、現金があっても債務超過になってしまうと、通常は借入条件に違反しますから、銀行など資金の貸し手が生殺与奪権を握ります。

というわけで、ゲームストップ、dying company とかいろいろ記事には書かれているわけですが、少し数字を把握すると肌感覚が持てると思います。

最後に、以上を受けて株価の意味を考えます。

昨春、コロナ勃発後の相場の底で時価総額$200m、その後はだいたい$250-300mで推移していました。つまり大底では純資産の0.6倍、その後は0.7-0.9倍といった水準で、安いときは倒産確率も織込んだ株価だったと言えるでしょう。

逆に、1月27日につけた終値ベースの227億ドルはどうでしょうか。純有利子負債が7億ドルですからEVはほぼMVそのもので234億ドル。

これが正当化される収益の姿を想像してみます。例えば売上高がコロナ前の2019年水準から5割増に成長して90億ドルに、そして事業のオンライン転換に成功してEBITDAマージンが25%出るようになったらEBITDAは22.5億ドルです。そのときのEV/EBITDAが234/ 22.5 = 10.4倍と計算されますから、そこからさらに高率で伸び続ける優良事業、という感じですね。

以上で本編に入る準備ができました。

第3回へつづく ➡️ 
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