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正体

めちゃくちゃ面白かった!
まさに120分があっという間。

死刑囚がある目的を持ってる逃亡する、というあらすじから想像するような社会派ドラマでも、ヒューマンサスペンスでもなく、これは「信じる」ということについての物語。

殺人の汚名を着せられた死刑囚、鏑木のピュアさが良い。
正義感が強く、友達想いで、18歳で逮捕されたから酒を飲んだことがなく、お酒をおいしそうに呑み、居酒屋で食べた焼き鳥に「今まで食べたもののなかでいちばんうまい」と感動し、自分を「信じる」と言ってくれた女性にほのかな憧れを抱く。

そんなまっすぐな彼だから、彼と出会ったひとたちも皆、犯人としての鏑木ではなく自分が接したベンゾー、那須くん、桜井さんとしての彼を信じている。

そして、鏑木を犯人として逮捕し、逃走した彼を追う刑事、又貫も日本各地を転々とする鏑木を追いながら、一度は目を塞いだ自分の中にある「本当の正義」と対峙し、自分の中にあった「信念」を思い出してゆく。

ミステリーやサスペンスの観点から考えると若干、都合よく進む部分もあるが「信じる」というテーマによりフォーカスを当てたかった監督が持つ「想い」のようなものが映画全体からみっちみちに伝わってくるので、それはそんなに気にならないし、むしろあの展開、あの結末であってくれて私はとても救われた。

演者さんも皆達者で、鏑木が出会う和也のこの世の汚さを見てきたゆえの暗い瞳がピュアな笑顔に変わる瞬間に「あ、このひとはほんとにいいひとなんだな」と説得力を持って思わされた、森本慎太郎さんの繊細なお芝居、鏑木を母のような姉のような、そして恋人のような大らかさで包んだ安藤さんを演じる吉岡里帆さん、屈託のない笑顔とピュアさで「恋するふつうの女の子」を体現した酒井さん役の山田杏奈さん、そして、組織と自分の中にある「正義」に揺らぐ姿をリアリティある演技で見せてくれた又貫刑事役の山田孝之さん。

皆素晴らしかったけれど、やはり圧巻だったのは鏑木役の横浜流星さん。潜伏先ごとに姿勢や立ち方や歩き方まで変えてしまうそのカメレオンぶりにとても驚かされたし、それとは逆にその瞳にどこにいても哀しみや切実さやピュアさをたたえた「鏑木慶一である」というぶっとい芯が通っていたのは横浜さんの演技の賜物。演技派だとは思っていたけど、こんなにすごい俳優さんだったんですね。

あと、鏑木という存在、そして人間というものは「太陽」のようだと思った。
観る時間帯によって形や色を変え、出会った人たちのこころをあたため、また別の地へと去ったあとも彼らの中に存在し、こころの中を照らし続ける。そして、彼らもまた塀の中にいた鏑木を照らし、あたためる存在であったのだと思う。
などと思っていたらヨルシカの主題歌のタイトルが「太陽」でびっくりしましたが。

観たあとに鏑木のようにこの世界を信じてみたくなるような、素晴らしい作品でした。

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