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福祉施設の虐待はなぜ起こる?認知バイアス・ストレス・組織文化が影響する理由

虐待発生のメカニズム 〜なぜ従業者による虐待は起こるのか?〜



1. はじめに

ゆうたま:こんにちは、「虐待のメカニズムを考える」のコーナーを担当しているゆうたまです。今日は放課後等デイサービスで保育士をされているほいくんと一緒に、施設内での虐待について考えていきたいと思います。

ほいくん:よろしくお願いします。私は放課後等デイサービスで3年目になります。最近、ニュースでも福祉施設での虐待事件をよく見かけるので、自分の現場でも気をつけなければと思っています。

ゆうたま:そうですね。まず虐待の定義から確認しておきましょう。虐待には主に「身体的虐待」「心理的虐待」「性的虐待」「ネグレクト」の4つがあります。身体的虐待は叩いたり押さえつけたりする行為、心理的虐待は脅したり無視したりする行為、ネグレクトは必要なケアを提供しないことです。

ほいくん:私たちの現場では直接的な暴力はないと思いますが、時々大きな声で叱ったり、忙しさのあまり子どもの要求をスルーしてしまうことがあります...これも虐待になるのでしょうか?

ゆうたま:その懸念は大切です。厚生労働省の調査によれば、2023年度の障害者福祉施設での虐待報告は632件で、その約3割が放課後等デイサービスを含む児童福祉施設で発生しています。そして、多くの場合、虐待をした従業者自身も「これが虐待だ」という意識がなかったケースが多いんです。

ほいくん:そうなんですね...じゃあ、なぜ福祉の現場で働く私たちが、知らないうちに虐待をしてしまうことがあるのでしょうか?

ゆうたま:それが今日のテーマです。虐待は単に「悪い人がする」ものではなく、様々な要因が重なって発生します。これから、そのメカニズムを掘り下げていきましょう。

2. 虐待発生の心理的メカニズム

(1) 認知バイアスと偏見

ゆうたま:まず考えたいのは、私たちの中にある「認知バイアス」です。例えば「厳しくしないと子どもは成長しない」という信念はどうでしょう?

ほいくん:うーん、確かに先輩から「甘やかしすぎると自立できなくなる」とよく言われます。発達障害のある子どもに対して、「できないのは甘えだ」という言葉を聞くこともあります。

ゆうたま:それが典型的な認知バイアスの一つです。実際の事例を挙げると、ある放課後等デイサービスでは、自閉症の特性でパニックを起こした子どもに対して「わがままをやめさせるため」と称して個室に何時間も閉じ込めるという対応がありました。これは「問題行動は本人の努力不足」という思い込みから生じた虐待です。

ほいくん:確かに、私も忙しい時に「またこの子...」と思ってしまうことがあります。特に同じことを何度も繰り返す子どもに対して...

ゆうたま:それが「ステレオタイプ的な見方」につながるリスクです。「あの子はいつもわがまま」「この子は手がかかる」といったレッテルを貼ると、その子の行動の本当の理由を見逃してしまいます。ある研究では、支援者が持つこうした先入観が、対応の質に大きく影響することが明らかになっています。

(2) ストレスと感情コントロールの問題

ゆうたま:次に大きいのが職員のストレスと感情コントロールの問題です。福祉現場は特にストレスが高い環境と言われています。

ほいくん:本当にそうです。私たちの施設では一日に10人以上の子どもを3人のスタッフで見ていますが、書類作業も多く、残業も多いです。保護者対応も時に大変で...正直、疲れ切っている日もあります。

ゆうたま:それが「燃え尽き症候群」につながるリスクがあります。ある調査では、燃え尽き症候群に陥った支援者は感情制御が難しくなり、利用者への否定的な対応が増加するという結果が出ています。

ほいくん:思い当たる節があります...先日、疲れが溜まっていた時、ある子どもがおもちゃを片付けなかったことに対して、普段より強い口調で叱ってしまいました。後で冷静になると、そこまで怒ることではなかったと反省しました。

ゆうたま:それが「怒りの連鎖」の始まりです。自分のストレスや怒りが、子どもへの対応に影響してしまう。実際の事例では、あるベテラン保育士が長時間勤務の疲労から、食事の際にゆっくり食べる子どもに対して「いつまで食べているの!」と怒鳴り、無理やり口に食べ物を詰め込むという虐待が報告されています。

(3) 集団心理と同調圧力

ゆうたま:さらに見逃せないのが「集団心理と同調圧力」です。

ほいくん:それはどういうことでしょうか?

ゆうたま:例えば、施設内で「この程度なら大丈夫」という風潮があると、新人はそれが正しいと思ってしまいます。ある事例では、障害児施設で「泣いてもかまわない」という方針のもと、子どもが泣いても長時間放置することが日常化していました。新人職員は違和感を持ちながらも「みんながそうしているから」と同調していったそうです。

ほいくん:確かに...私の施設でも、先輩が「この子は注目欲しさで泣いているだけだから無視して」と言うと、本当にそうなのか疑問に思いながらも従ってしまうことがあります。

ゆうたま:そして問題なのは、おかしいと思っても「内部告発のしづらさ」があることです。ある支援員は「先輩の対応におかしいと思うことがあっても、チームワークを乱すと思われたくなくて言えなかった」と証言しています。こうして虐待が常態化していくのです。

3. 環境要因が虐待を助長するケース

(1) 人員不足と業務負担の増加

ゆうたま:環境要因としてまず大きいのが人員不足と業務負担です。厚生労働省の調査では、虐待が発生した施設の約7割が「人手不足」を抱えていたという結果があります。

ほいくん:本当にそうです。私たちの施設でも、急に職員が休むと代わりがおらず、一人で何人もの子どもを見ることになります。そうすると「手が回らない」状態になり...

ゆうたま:それがネグレクトのリスクを高めます。例えば、ある放課後等デイサービスでは職員2名の欠勤があった日、残された職員が対応に追われるあまり、自閉症の子どもがトイレに行きたいというサインを見逃し、結果的に失禁させてしまったというケースがありました。これも一種のネグレクトと言えます。

ほいくん:あとは職員間の情報共有も難しいですね。忙しすぎて、子どもの状態や対応方法を十分に引き継げないことがあります。

ゆうたま:その「対応の一貫性の欠如」も子どもにとっては大きなストレスになります。ある子どもへの対応がスタッフによってバラバラだと、子どもは混乱し、結果的に問題行動が増えるという悪循環に陥ることも。

(2) 教育・研修不足

ゆうたま:次に深刻なのが教育・研修の不足です。虐待防止のための知識やスキルが現場に浸透していないケースが多いのです。

ほいくん:確かに...私は保育士の資格を持っていますが、発達障害の子どもへの具体的な対応方法については、現場に入ってから手探りで学んでいる感じです。研修はあっても形式的なものが多く...

ゆうたま:そうなると「新人職員が先輩のやり方をそのまま模倣する」ことになりますね。ある施設では、感覚過敏のある子どもが給食を食べられない時、「先輩がいつもそうしているから」という理由で、無理やり食べさせる対応が代々引き継がれていたという事例があります。

ほいくん:「うちの施設ではこうしてきた」という経験則に頼ることも多いです...。

ゆうたま:その「経験則」が必ずしも正しいとは限りません。例えば「パニックを起こした子どもは強く抱きしめて落ち着かせる」という対応が伝統的に行われていた施設がありましたが、実はそれが感覚過敏のある子どもには更なる苦痛を与えていたというケースも。科学的根拠に基づいた支援方法を学ぶ機会がないと、こうした誤った実践が続いてしまうのです。

(3) 施設や組織の体質

ゆうたま:最後に見逃せないのが、施設や組織の体質です。

ほいくん:組織の体質ですか?

ゆうたま:はい。例えば「トップダウン型の支配的な職場文化」がある施設では虐待リスクが高まります。ある児童施設では、管理者が「私の言うことが絶対」という態度で職員を萎縮させ、意見が言えない環境になっていました。その結果、不適切な対応があっても誰も指摘できず、虐待が続いたという事例があります。

ほいくん:確かに...施設長の言うことに異論を唱えにくい雰囲気はあります。

ゆうたま:また「虐待を見て見ぬふりする沈黙の同調」も問題です。ある調査では、虐待を目撃した職員の約6割が「見なかったことにした」と回答しています。背景には「言っても変わらない」「自分も責められるかも」という恐れがあるようです。

ほいくん:思い当たる節があります...同僚が子どもに強く当たっているのを見ても、「今日は疲れているんだな」と思って見過ごしてしまうことが...。

ゆうたま:そうした小さな見過ごしが積み重なると、「虐待が常態化する組織」になってしまいます。典型的な特徴は「批判や意見が歓迎されない」「失敗を隠す文化がある」「利用者よりも組織の都合が優先される」などです。こうした組織では、良かれと思って入職した福祉職員も、いつの間にか虐待の加害者や傍観者になってしまうリスクがあるのです。

4. 虐待を防ぐためにできること

(1) 虐待を未然に防ぐ環境整備

ゆうたま:では、これらの問題を踏まえて、虐待を防ぐためにできることを考えていきましょう。まず大切なのが「環境整備」です。

ほいくん:職員のストレスケアは大切だと思います。でも具体的にはどうすればいいでしょうか?

ゆうたま:例えば、ある放課後等デイサービスでは月に1回の「ケアカンファレンス」で、職員が抱える困難や感情を共有する時間を設けています。また、外部のカウンセラーに定期的に相談できる体制を整えている施設もあります。自分のストレスサインに早めに気づき、対処することが大切です。

ほいくん:業務負担の軽減も必要ですよね。私たちの施設では記録に時間がかかり、子どもと関わる時間が減ってしまっています...。

ゆうたま:そうですね。ICTの活用も一つの解決策です。タブレットで簡単に記録ができるシステムを導入した施設では、書類作業の時間が4割減少し、子どもとの関わりが増えたという報告があります。また、業務の優先順位を明確にして、「必ずやるべきこと」と「状況に応じて省略できること」を区別することも有効です。

ほいくん:職場の雰囲気も大切ですね。何でも言い合える関係性があれば...。

ゆうたま:その通りです。「風通しの良い職場環境」は虐待防止の鍵です。ある施設では「ヒヤリハット報告」を積極的に推奨し、失敗を責めるのではなく「良い気づき」として共有する文化を作りました。すると、小さな問題が大きくなる前に対処できるようになり、結果的に虐待リスクが低減したそうです。

(2) 教育と研修の充実

ゆうたま:次に重要なのが教育と研修の充実です。

ほいくん:確かに、もっと具体的な対応方法を学びたいです。特に発達障害の子どもへの適切な支援方法について...。

ゆうたま:良い研修には3つの要素があります。一つ目は「虐待リスクに関する定期研修」です。例えば、ある施設では3ヶ月ごとに「これって虐待?」というワークショップを行い、グレーゾーンの事例について全員で話し合っています。これにより、虐待の感度が高まるそうです。

ほいくん:なるほど、具体的な事例で考えることは大切ですね。

ゆうたま:二つ目は「倫理観・人権意識を育むプログラム」です。ある放課後等デイサービスでは、月に1回「子どもの権利について考える日」を設け、支援の根本にある「子どもの最善の利益」について話し合う機会を作っています。形式的な研修ではなく、日常的に立ち返る機会が大切なのです。

ほいくん:三つ目は何でしょうか?

ゆうたま:「感情コントロールのスキルを学ぶ研修」です。例えば、あるベテラン支援員は「怒りを感じたら深呼吸して6秒数える」というテクニックを実践しています。また「怒りの背景にある自分のニーズに気づく」というマインドフルネスのアプローチを取り入れている施設もあります。怒りは自然な感情ですが、それをどう表現するかが重要なのです。

(3) 通報・監視体制の強化

ゆうたま:最後に必要なのが「通報・監視体制の強化」です。

ほいくん:でも、同僚の問題行動を報告するのは勇気がいりますよね...。

ゆうたま:その通りです。だからこそ「内部告発制度の整備と保護」が重要です。ある法人では匿名で報告できるホットラインを設置し、報告者のプライバシーを厳守する仕組みを作りました。また、内部告発をした職員を不当に扱わないという方針を明確にしていることも大切です。

ほいくん:外部からのチェックも必要かもしれませんね。

ゆうたま:その通りです。「第三者機関による定期的なチェック」は効果的です。例えば、ある放課後等デイサービスでは、年に2回、外部の専門家によるスーパービジョンを受けています。客観的な視点で支援の質を評価してもらうことで、気づかなかった問題点が明らかになることも。

ほいくん:職場全体の文化も変えていく必要がありそうですね。

ゆうたま:その通りです。「虐待を見過ごさない文化」を育むことが大切です。ある施設では「見て見ぬふりをしないことが最大の愛情」というスローガンを掲げ、気になることがあればすぐに声に出して話し合う習慣を作りました。その結果、小さな問題が虐待に発展する前に対処できるようになったそうです。

5. まとめ

ゆうたま:今日は虐待発生のメカニズムと防止策について話し合いましたが、いかがでしたか?

ほいくん:とても参考になりました。虐待は「悪い人がする」ものではなく、普通の支援者が様々な要因で加害者になり得るということが分かりました。自分自身のストレスや認知バイアスにも注意していきたいです。

ゆうたま:その気づきが大切です。虐待は個人の問題ではなく、組織や環境の影響が大きいのです。たとえ善意を持った支援者でも、バーンアウトや知識不足、組織文化によって、知らず知らずのうちに不適切な対応をしてしまうことがあります。

ほいくん:職場全体で虐待防止の仕組みを作ることも必要ですね。

ゆうたま:その通りです。職員のストレスケア、適切な教育・研修、オープンな職場文化、そして通報・監視体制の整備。これらが揃って初めて、虐待のない支援環境が実現します。

ほいくん:一人ひとりが「支援とは何か」を問い直すことも大切ですね。

ゆうたま:その通りです。支援の本質は「その人らしく生きることを援助すること」。ときに厳しく指導することも必要かもしれませんが、それは相手の尊厳を傷つけるものであってはなりません。一人ひとりの支援者が自分の行動を振り返り、「これは本当に子どものためになっているか」と問いかけることが、最善のケアへの第一歩です。

ほいくん:今日学んだことを現場に持ち帰り、同僚とも共有したいと思います。ありがとうございました。

ゆうたま:こちらこそ、大切な話し合いができて嬉しいです。子どもたちの笑顔のために、これからも一緒に最善の支援を考えていきましょう。


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