【P+Bインタビュー】株式会社Oshicoco代表 多田夏帆さん(前編)「推し活を世界一理解している企業です」
いまや社会現象にまでなりつつある「推し」文化。かつてはネガティブなイメージもあった「オタク」という言葉も、Z世代はポジティブに捉えている向きもあります。推す、つまり好きという力は、自分を元気づけて前向きに生きる力にもなり得るでしょう。そこで、自身ももともと「オタク」で、推しがいる人に向けてメディアや通販を展開し、BtoB事業も手掛ける株式会社Oshicocoの代表取締役の多田夏帆さんに、前編・後編にわたって「好き」の力が生み出す推し活事業についてお話を伺いました。
つらくても、「推し」の存在が支えに
―Oshicocoの事業と多田さんの自己紹介をお願いします。
多田:最初に自己紹介をさせていただくと、私は1998年生まれで現在24歳、大学を卒業してOshicocoを2021年の1月からスタートしました。もともと自分自身がオタクで、いわゆるアニオタやジャニヲタというものにカテゴライズできないタイプのオタクでした。例えば新撰組やお城めぐりがものすごく好きとか、マイナーな70年代80年代のUKロックを聴いて生きてきたのです。なので、同じ「オタク」でも私が新選組の隊士を好きな気持ちとみんなが山Pを好きな気持ちは全く一緒なのになんでこんなにわかってもらえないんだろう? ということを抱えながら学生時代を過ごしていました。
また、高校時代にいろいろ不幸が重なってすごく苦労していた時期があったのですが、推しがいることによってすごく助けられました。傷つくことがあっても推しから背中を押されて立ち直った経験があるので、推しの存在がいることの素晴らしさや、自分の好きなことを好きと言える大切さを発信する立場にならなきゃいけないと思い、大学1年から4年間、MERYというWEBメディアライターとしてで働く日々を過ごしました。そこで良い成績も収めたのですが、たくさん記事を書く中で、5万ビューで終わる記事と100数十万ビューも読まれる記事があり、その差は何かを考えていた時に、伸びる記事はコンプレックス克服についての内容のものが多いということに気がつきました。それこそ美容やファッションで、どう自分のコンプレックスを克服していくかという内容やメッセージの記事が、桁違いにビュー 数が伸びたのです。
それを見て、いかに日本人が自分に自信がないかということを痛感しました。現代の若者は 本当に自分に自信がなくて、この自己肯定感の低さは、現代人がSNSなどで人と比べる機会が多くなっているからこそ、社会的に大きな問題だということを感じています。どうしたら自己肯定感が上がるかを自分なりに考えた結果、自分が一番落ち込んでいた時期に助けてもらったのが「推し」だということを思い出しました。本当に苦しい時って、友人や家族にも言えないことってありますよね。
―そういう時に助けてくれるのが「推し」なのですね。
多田:はい。その「推し」は人間の場合もあればキャラクターだったり音楽だったりしますが、どんな形でも推しがいることで何かすごくつらいことがあった時に立ち直る力が出てくるのではないかと。それによって自分のことを少しずつ好きになっていけるのではないか、と自分なりに思い、大学4年の半ば頃にこのOshicocoの事業について本格的に考え始めました。当時はまだ推し活という言葉が一般的ではありませんでしたが、まずはインスタだけ先に始めました。
推しは一時的な流行りではない。「好き」の力は人生で大事なこと
―それが現在は「推し文化」が社会現象になるほどまで大きくなりましたね。あらためて推しがいることの素晴らしさについて、具体的に教えていただけますか。
多田:「好き」の力で誰もがもっと自分をエンパワーメントできるということです。力強く前向きに生きていけて、かつ多様な生き方が肯定されるような世界を作りたいと思っているのです。それをやるためには、まだ「オタク」というものにつきまとっているマイナスのイメージを変えていかないといけないとも考えています。
今、オタクや推し活が一時的な流行りという潮流がすごくありますが、そうではなく、人生において自分が好きなものを好きでいられることは一番大事なことだと私は思っています。そういった認識が多くの人の中に広がり、当たり前になる世界を作りたいと思い、Oshicocoの事業をやっています。
―事業内容について教えてください。
多田:「世界一オタクに優しい」をコンセプトに掲げておもにメディアと通販の運営をしています。メディアと通販はDtoC で、推し活をしている10~30代ぐらいの女性がターゲットです。ここで得た知見やデータを活用してBtoBで企業様にも「推し活」の熱量を使ったプロモーションや、SNSの運用 代行サービ スを展開しています。弊社のSNSのアカウントは、フォロワー数はまだ7万ぐらいですが、動画が500万回再生だったり、1投稿で多くのリーチや保存数があったりすることが結構頻繁に起こります。そこが一番大きな特徴です。
―ありがとうございます。ちなみに社員数は現在何名ですか。
多田:私と社員が6人の計7名で、全員がZ世代の女性です。今もう決まっている2023年に入社予定の社員は専門学校卒でまだ19歳です。
―全員がZ世代。あえてその世代のメンバーを集めているのですか。
多田:はい。やはり若い人のほうがターゲットの視点がずれないですし、何よりSNSの運用などに関しては、大人にはわからない最先端の流行に敏感で、私よりも詳しいです。なので若い社員が良いと私たちは思います。その子たちがマーケティングについてしっかり考えたわけではなくぱっと作ったものがお客様に喜んでいただいたりすることもあるので、すごく価値があると考えています。
―なるほど。事業としてはBtoCでメディアと通販、BtoBでSNSの施策やインフルエンサーによるプロモーションなどもやられているということですね。Oshicocoで販売している推し活グッズは、全て自社で企画制作されているのですか。
多田:自社で作っているものと、委託販売で他の会社のものとで、半々くらいです。あと一番多いのが、弊社が企画して、制作は他社で行うというコラボレーション形式です。
日々のアンケートで、お客様の声を拾いあげる
―グッズを選んだり企画を通したりする際、何が決め手になりますか。やはり推し目線でこれは売れそうだと判断するのか、あるいはSNSなどでしっかりマーケティングをした上で売れると判断しているのか、どちらでしょうか。
多田:どちらも大事ですが、一番大事にしているのは、お客様からの声です。どんな商品が欲しいかなどについて日々Instagramなどでアンケートを取っています。でもそれと同じくらい、自分たち自身もときめけるかというのも大事にしています。
例えばこれは一番人気商品のクッキーなのですが、弊社はメディアも運営しているので、お客様の感覚に一番近いというのが強みだと思うのですよ。なので、他社では思いつかないようなアイデアもすごく大事にしながら企画させていただいています。
―サービスのファンを増やすために行っている施策はありますか。
多田:「世界一オタクに優しい」をコンセプトにしているので、それに対する私の思いを長文でインスタのストーリーズに上げることがあります。オタク向けのアカウントやサービスは弊社以外にもあると思うのですが、弊社はおそらく独自路線。私だけではなく他の社員もインスタライブで自社の商品への思いやこういう思いで作ったという話を語っていて、そこに共感してくださる方がたくさんいます。オタクや推し活は今流行りもののようになっていますが、大人が自分たちを食い物にするためにやっているのではなく、本当に同じ目線なんだというところを支持してくださっているのだと思います。
―多田さんご自身が前に出て発信されたり、インスタライブとかをされたりしていますが、これまで炎上や誹謗中傷などはありましたか。
多田:不思議なことに今までアンチもなくやってこられています。自分にも社員にも「人を傷つける可能性がある言葉を使わない」ということをものすごく徹底して言っていることがひとつの要因だと思います。例えばインスタの運用している社員が少しでもトゲがある言葉を使っていたら、私が「それはダメ」と厳しく指摘をして。その背景には、私がもともとMERYというメディアにいて、そこの経験から学んだことがベースになっています。4年間みっちりライターをやっていて数百本記事を書く中で、私は数千回校閲の赤字をもらっているのですよ。その際個別でいろいろ指摘を受けてきた経験がすごく役に立っていて、現在社員たちにもそのノウハウを伝えています。
支持される背景 「何を好きか」ではなく「どう好きか」
―ありがとうございます。ちなみに「推し」「オタク」と一口に言っても、その対象はさまざまなジャンルに分かれていますよね。それによってニーズが異なってカバーしきれなくなる懸念などについてはどうお考えでしょうか。
多田:それでいうとどんな推しがいる人でも、役に立つ情報を必要としていて、そここそがOshicocoのテーマであり強みでもあります。例えば同じ「オタク」なのにアニヲタ、ジャニヲタと分断されています。にもかかわらず、コンサートに持っていくものや双眼鏡の種類などは一緒なのですよね。そういった共通の情報やニーズがどこにもまとまっていないので、それを作ろうというのがOshicocoの始まりでもありました。自分もマニアックなものが好きなので、推しの対象は二次元でも3次元でも2.5次元でも、なんならモノでも私達は応援しますよとずっと発信していますし、商品開発をする際も共通してみんなが使えるものにしたいとか、偏りが起きすぎないようにしないととはずっと考えています。
―なるほど、では「これは○○ヲタ向け」「これは××ヲタ向け」と分けずに考えているのですね。
多田:はい。何を好きかではなく、どう好きか。それを私の信念として続けています。
ご自身にオタクマインドがあるからこそ、多田さんの言葉からは「推し文化」への敬意と「推し」が持つ前向きに生きる可能性の説得力が感じられ、そこがユーザーから支持されているのでしょう。後編では、BtoB事業についてや今後の展開についてお届けいたします。
「推し」の力で心を動かす仕事術のポイント
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