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あの友達の話。
あの友達と出会ったのは高校一年生の時です。第一印象は『怖い』でした。
仲良くなったのは学級委員に二人して立候補したからです。僕が先に立候補したのか、あの友達が先なのかはもう覚えていません。学級委員が決まらないと帰れない状況が嫌で立候補した次第です。あの友達が立候補した理由は覚えていません。ちなみにこの時も印象は変わらず『怖い』でした。
学級委員だけでの集会。学年ごとに代表、副代表を選出しなければいけませんでした。またか、と思いながらも再び立候補しました。友達も副代表に立候補してました。
教室へ向かう帰り道、「一組は優秀だね。岩上も私も代表になっちゃったよ」そういって笑う友達が印象的でした。全然怖くないじゃん。
学級委員といっても主な仕事は列の誘導や授業の号令。最初の集まり以来話すようなことはあまりありませんでした。それからの僕は部活に明け暮れて、授業中は本を読むか寝る。休み時間もひとりで本を読んでいました。いまでも高校の時の友達と呼べるのは同じ部活メンバーを抜いてその友達1人な気がします。
僕のとがっていた高校生活の話は置いておいて、再びその友達と関わり始めたのは3年生になってからだと記憶しています。様々な理由からSNSのアカウントを消しては作り消しては作り、でもその度にフォローしてくれていました。不思議に思ったんです。なんでこの人はフォローしてくれるんだろうって。なのでDMを送ったのがきっかけです。
「おすすめの友達欄に出てきたからだよ」
理由はいたってシンプルでした。でもそれが嬉しかったです。
よく会うようになったのは性格診断がきっかけだったと思います。自分のことを知りたいという友達からMBTIについて教えてくれないかとお願いされたのです。
性格を知ることってつまりその人の根本的な部分を覗き見ることだと思っています。行動原理を突きとめる作業です。
その過程でお互いの家庭環境や思い出、将来に対する考え方など、色んなことを共有しました。
この子は真っ直ぐに生きているんだなと、その時は思いました。自分のできる範囲で自分の周りをよりよいものにしよう。考えが逡巡としてしまって一向にまとまらなかったり、先の見えない不安に圧倒されてその場で立ち尽くしてしまったり。痛いほど気持ちがわかるから、僕が連れ出さなきゃなって考えていました。
芥川龍之介の遺書に書かれていた
「自殺するのには複雑な動機が絡んでいる。が、少なくとも僕の場合はただぼんやりした不安である。何か僕の将来に対する唯ぼんやりとした不安である」
この一節をよく彼女は引用していました。私もすごくこの気持ちがわかる、と。
当時の僕は将来こそが僕の生きる道だと意気込んでいたので、共感はできませんでした。今ならその気持ちわかるよ。
それからも仕事終わりに会っては2人でいろんな話をして、真冬に花火へ連れ出したこともあります。歯をカチカチ鳴らしながら2人で花火してたっけ。ビビリな友達は警備員さんがいつでも来ていいように周りをキョロキョロ見回してたなぁ。
転機が訪れました。ネットで知り合った共通の友人とその友達が付き合い始めたのです。そこからは瞬く間に同棲やら婚約やら話が進んでいきました。僕から見た友達は明らかに嬉しそうでキラキラしていました。2人とも音楽が好きで2人でカバーしたりオリジナル曲を作ったり。
ただ実際に会うことが減って、連絡頻度も減っていきました。(その友達の彼氏から、色々と釘刺されたりしたのもあってなおさら)
まあ、それでも本人が幸せそうでよかったなって。彼女の中の唯ぼんやりとした不安は取り除けたのかなって。そんな風に考えていました。
2年前くらいに別れたのかな。特に友達の方からそういう報告があったわけではなく、前まで更新されていた2人の音楽chが更新されなくなったり、彼氏さんのSNSが後悔に塗れていたり。
この時にきちんとしつこいくらい連絡をこちらから取っておけばよかった。
気づいた時には友達のSNSはすべて削除されていて、唯一残された連絡手段のLINEはいつまで経っても既読がつかなくなってしまいました。僕の世界から忽然と姿を消してしまったのです。高校時代の自分を恨めしく思います。もっと僕の交友関係が広ければ、人づてに辿り着けたのかもしれない。
こうして書いているように今でも友達のことを考えてしまいます。将来に対する漠然とした不安と直面した時、こういう気持ちで過ごしていたのかなって、友達に重ねてしまいます。すごい苦しいじゃん。徐々に呑み込まれていってしまいそうな感覚。その中で、自分のできることをしようって行動していたあの友達がどれだけ強かったのか、逞しかったのか、今ならわかる。しんどいことも後ろめたいことも話してくれてありがとう。笑った時の声が好きでした。たまに頓珍漢な感想が出てくるところが好きでした。
このまま生きていればきっとまた再開できると信じているから。それまで絶対に忘れないから。僕はいつまでも実名で活動するからさ、またいつかフォローしてほしいな。待ってます。
本人が読んだらきっと色々思うところがあるんだろうなぁ。この文章。僕も記憶が曖昧で、友達が立候補した役職は書紀だったかもしれない。話し始めたきっかけももっと違うものだったかも。ピアノを弾いていたからそれでかな。徐々に記憶が薄れていってしまうのが嫌だな。でもまた話す時にこれを含めて笑い話にできたなら。それでいいから。
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