小説家を目指す若者たちへ
初めに断っておくと、僕はプロの小説家ではない。しかも一度筆を折って、20年近く執筆から離れていた人間である。
20年前、小説家を見限った理由は簡単で、当時デビューした数人の知り合いが、2冊か3冊ほど出版した後、消えてしまったからだ。僕から見て凄まじい才能があると思った人たちが、である。
そして、専業を選択した知り合いから漏れ聞こえてきた収入も、極めてシビアだった。
現実に打ちのめされた僕は、専業小説家の道をあきらめ、就職して今に至る。
今でも、かつての僕のように、専業を目指す若者は多くいるだろう。実際、オープンチャットに浮かんでいると、そういった若者をたくさん見かける。
だが、その中の何割が、新人小説家の収入の実態を知っているだろうか?
これから話すのは夢のない話で、僕が筆を折った一因なので、知りたくない方はここまでにしていただきたい。
さて、では、収入の比較対象として、まずはフリーターの収入を考えてみよう。
時給:1000円
労働時間:8時間
1ヶ月の稼働日:20日
この場合の収入月額は、
1000円×8時間×20日=160,000円
となる。ここから年金、国民健康保険、所得税、住民税などが差し引かれ、手取りは13~14万円程度になるだろう。
ちなみに、年収にすると192万円ほどになるのだが、小説家で192万円稼ごうと思うと、年間何冊ぐらい本を出せば良いだろうか?
文庫の価格:600円
発行部数:1万冊
印税:7%(通常7%~10%程度)
通常、出版時の発行部数で、印税が支払われる。新人の場合は1万冊を下回る場合もあるそうだが、とりあえず1万冊で考えてみよう。
600円×1万冊×7%=42万円
公募の場合は、賞金だけで印税が支払われない場合もあるが、それ以外で出版した場合はこんな感じである。つまり、小説だけでフリーター以上に稼ごうと思うと、
192万円÷42万円=4.57……
となり、年間5冊出版する必要がある。
もちろん、予約が多くて初版発行部数が増えたり、単価が高かったり、印税率が高かったり、重版すれば収入は増える。
コミック化や映像化でも収入は増えるだろう。
出版冊数が増えて行けば、すさまじい収入になることもあるかもしれない。
だが、20年前の知り合いの小説家さんたちの中で、小説を3冊以上出して、今も生き残っているのは1人だけだ。(多分もう忘れられていると思う)
作家でごはんを食べていくのは、かなり厳しい世界なのである。
だから、僕は若者に言いたい。小説家になりたいなら、ちゃんと仕事を持てと。
専業になるのは、兼業後何冊か出して収入が安定してからでも遅くない。
(なお、一番良いのは在学中に2,3冊出版してしまう事だったりするが)
というわけで、がんばれ若人。