『小説家になろう』のサイト改善提案

 まず初めに断っておくと、僕は『小説家になろう』というサイトを尊敬している。

 発足当時は、ケータイ小説のヒット作を何本か出した『魔法のiランド』へのチャレンジャー的存在であったものの、今では日本国内の全サイト中、アクセス数ランキング15位という脅威的な実績を叩き出し、FacebookやInstagramや5ちゃんねるなどの大手を凌駕しているからだ。

 GAFAクラスのトップ企業や、同規模のアクセス数帯の企業と比較して、人員数や技術力において不利であるにもかかわらず、これほどの結果を叩き出したことが、これまでの『小説家になろう』がとってきた戦略が正しかったことを証明している。

 私は作家としても投稿しているが、内容さえ良ければ、ちょっとした工夫でたくさんの読者に読んでもらうことができるあたり、『小説家になろう』はもはやなくてはならない存在だ。

 ただ、なくてはならない存在だからこそ、たまに不安になる。

 その原因が、なろうの企業としての収益力の低さ。

 『小説家になろう』の運営会社であるヒナプロジェクトは、従業員40名以下の小企業で、なろう以外にも複数のサイトを運営している。
 そして、最近はメンテナンスが実施されても、それが外から見えるレベルの機能追加を目的としていたケースは少なく、だいたいがレスポンスタイムの改善という基盤レベルの改善に留まっているのだ。おそらく、人員が足りていないのだろう。

 ヒナプロジェクトの求人情報を見ても、給与水準が低めの募集しかかかっておらず、例えばテキストと相性の良いAI系技術者や、神懸かり的な実力を持つ基盤技術者は、あの給与では入ってこない。むしろ、内部の既存技術者が他社へ引き抜かれる可能性すらあるだろう。

 その原因が、収益力の低さに繋がる。収益が低すぎて給与や人員を確保できず、現状維持に留まってしまう悪循環だ。

 だが、アクセス数の規模や同業他社の動向から見て、潜在的な収益力は今の3倍はあるのではないだろうか。

 というわけで、今回は小説家になろうの収益改善に関する提案、それも可能な限り現在の人員+α程度で実現可能な簡易的な収益化手法を提案していきたい。

現状の確認

 『小説家になろう』の収益モデルは広告型である。にもかかわらず、現状収益の柱である広告の扱いはおざなりになっている。

 これは、広告が読者にとってうるさすぎたり、広告主の意向が無視できなくなって経営方針がぶれたりすることを防ぐための方針とも考えられるが、これだけなろう発の物語が増えた昨今、その方針と収益性を両立した広告システムを構築することは可能だと思う。

 だが、その話をする前に、現状をおさらいしてみよう。

 ヒナプロジェクトの売上は2019年の段階で約8億円、純利益は1.5億円程度と言われている。

 肝心の収益源となる広告についてだが『小説家になろう』のトップページには、マイクロアドが提供する追跡型のディスプレイ広告が組み込まれていた。広告スペースはいくつかあるにも関わらず、トップページ内の広告は統一して同じ会社から提供されている。
 一方、『小説を読もう』のトップページはi-mobileが提供するディスプレイ広告で統一されており、『小説家になろう』のトップページとは異なる会社となっている。
 さらに、本文中に表示される広告を提供しているのはCriteoとなっており、こちらも他の2社とは異なる会社だ。

 このように複数の会社が広告を提供している理由は、おそらくリスクヘッジだ。広告提供元を統一していて、その会社が倒産した場合、収益源を断たれて連鎖倒産してしまう。ヒナプロジェクトは非常に慎重であまり冒険をしない会社なので、卵を同じ籠に入れてはならないという経営の原則を、きっちり守っているのだろう。

 この他、なろうのトップページには『書報』のコーナーがあり、その中にはAmazonと連携したアフィリエイト型のリンクが組み込まれている。このリンクからユーザーが書籍を購入した場合、紙書籍で3%、電子書籍であれば8%程度が紹介料として運営会社の収入になっている。

 これらを踏まえて、改めて広告システムの改善点を見てみよう。

改善点1:書籍化作家を支援する

 『小説家になろう』からは、そのサイト名から、小説家になりたい人を支援するシステムを作りたいという理念がうかがえる。

 小説家というのは、小説を書いて、それで生活していく人のことを指す。もちろん、多様ななろうの投稿者の中には、金のために書いているわけではない作家志望者も多くいるだろうが、なろうから巣立っていった小説家はおそらく3桁程度は確実に存在する。

 そして、その小説家たちのファンが最も多いサイトもまた、なろうであるはずだ。

 しかし、書籍化作家の小説のページに表示されている広告は、作家本人とは全く関係ない広告である。なろうから枝分かれしたコンテンツは、紙書籍、電子書籍、コミック、アニメ、映画、音楽等多岐にわたり、作家の書籍化を支え、楽しんだ読者たちにとって、それらはすべて興味の対象だろう。

 広報戦略の『知ってもらう』『愛着を持ってもらう』『買ってもらう』『買い続けてもらう』というフェーズのうち、『愛着を持ってもらう』という段階までどっぷり漬かっているターゲット層ど真ん中の人たちが、書籍化作者の作品ページにはたくさんいるのである。

 ここにアフィリエイトリンクを置かずして、どこに置けと言うのだろう?放置されている理由が、まったくわからない。

 作品が売れれば、出版社は売り上げをあげることはもちろん、出身作家の生活は印税で潤い、ファンたちは推しの作品を楽しめ、運営会社も共に潤う。

 業界全体の繁栄が実現可能な上に、損をするものが誰もいないのである。

改善点2:業界を支援する

 日本国内のアクセス数ランキングで15位になっている『小説家になろう』のトップページの広告価値は、とんでもなく高いものだ。
 しかも、利用者の属性はある程度共通していて、非常に広告を打ちやすい。

 例えば、なろう発のテレビアニメの広告を打つ立場になって考えてみよう。TVCM、不特定サイトへのネット広告、YouTubeへの広告。いろいろあるだろうが、それらと比較して、なろうのトップページの広告効果は劣るだろうか?
 根拠はないが、存在を知ってもらうことが目的の広告ではなく、視聴してもらうことが目的の広告なら、効果はなろうのトップページの方が圧倒的に高いだろう。

 それほどの価値を持つなろうのトップページに、その他のサイトと同様の、ユーザーにとって見慣れてしまった価値のないランダム広告しか掲載されていないのである。

 業界全体の盛り上がりを考えると、遊ばせておくには惜しい広告スペースであるにもかかわらずだ。

 そしてその結果が、純利益1.5億円である。日本においてFacebookやInstagramを凌駕するサイトを運営している会社とはとても思えない。

 まずはトップページへの独自広告の道を模索してみてはどうだろうか?

 ちなみにGAFAやTwitterなど、なろうと同じく広告型の収益モデルをとるICTの大手は、独自の広告部門もしくは関連会社を持っている。

 なろうほどの大手であれば、人任せの広告を利用するだけでなく、広告部門をもっと強化したほうがよいかもしれない。

改善点3:読者を支援する

 なろうはWEBで開いた際、横書きだけしか表示することができない。縦書きのPDFを出力する機能は備えているが、使い勝手は非常に悪いのだ。
 また、更新時の確認から閲覧に至る操作も迂遠で、文字フォントなども変更できず、痒いところに手が届かない仕様となっている。

 では、それを気にする読者はどう対応しているかというと、第三者が開発したスマホの閲覧アプリを使っていることがほとんどだろう。

 なろうは非常に優秀なAPIが完備されており、それを使えば対応した閲覧アプリは比較的簡単に作成することができるのだが、これが落とし穴となってしまった。

 何度も言っているが、なろうの収益モデルは広告型である。

 しかし、「なろうAPI」を使ってアプリを作った場合、なろうの収益源には一切繋がらない。アプリで広告を表示した場合の報酬はアプリ開発者のものとなり、完全なフリーライド状態だ。

 しかも、大半のアプリはなろう上のブックマーク操作や評価操作に対応できていない。

 つまり、読者は読む分には問題ないが、推し作品を応援するには、直接サイトに接続し、ログインして操作するという手間暇がかかってしまう。

 もちろん、なろうの運営はこの状態を認めているので、アプリ開発者は何も悪くない。しかし読者にとっては、どちらの選択肢も不完全な代物になってしまった。

 読者に痒いところに手が届く読書環境を提供し、正常な応援環境を用意し、機会損失を起こしていた広告費を回収する。これらを実現するため、公式の閲覧用のスマホ・タブレットアプリを開発してみてはどうだろうか?

改善点4:素人作家を支援する

 界隈には『小説家になろう』では作品が読まれないと主張する人たちがたびたび観測されている。往々にして、彼らは自作品を良くすることだけに腐心し、読まれるためのステップを他人任せにして放棄しているケースが多い。

 一方でガチガチの分析勢も多数在籍しており、なろうAPIでは取得できない情報を分析をしたいと考えている人はたくさんいる。

 例えば、僕であれば、長編連載作品の過去二週間の各話閲覧数をグラフ化できれば、読者は狙い通り流入しているか、きちんと最後まで読まれているか、どこをきっかけに読者が読むのをやめてしまったか、その作品がもっと読まれるにはどうしたら良いか等をグラフの推移から大雑把に把握できる。

 おそらく、SEO対策を学んだ事のある人なら、僕でなくてもできるし、多分AIでもできる。

 しかし、『小説家になろう』はそういった機能を公式には提供していない。規約内のグレーゾーンに触れず実現しようと思うと、カササギの部分別から各話のアクセス数をExcel等に手動でコピーしなければならない。

 なろうの収益モデルは広告型だが、別にそれだけにこだわる必要はないはずだ。

 例えば、自作品をもっと読んでもらうためのAIからの助言や、統計データをダウンロードする機能を、月200円で利用することができたとしたら、もしもそれを1万人が利用したとしたら、売り上げは年間2400万円になる。

 なろう界隈には地雷も多く、どこかで金返せ運動が起きる可能性も高いが、そういった有料の作者支援サービスを考えてみても良いのではなかろうか。



 と、いうわけで、これで4,300文字オーバー。そろそろくどくなるのでこの辺で。hisaからの提案でした。(お読みいただきありがとうございました)