映画「夜明け」〜感想
2019年に公開された作品で、小林薫さんと柳楽優弥くんのW主演で話題になった。事故で妻と息子を亡くした中年に男が、川辺で倒れている青年を助けるところから物語が始まる。
小林薫さん演じる中年男の哲郎は、工務店を営んでいて、助けた青年を自分の家で住ませ、そして会社にも迎え入れる。柳楽優弥くん演じる青年は、自分のことを語りたがらない。かろうじて名前はシンイチだと名乗ったが、それより他は彼のことを全く知らないまま生活を共にする哲郎だった。哲郎はシンイチに亡くなった息子の姿を思い浮かべるようになり、そしてシンイチもそれに応えようとするのだが、再婚する哲郎のお祝いの会の最中に、自らの素性をあかし、そのまま出て行ってしまった。踏切の前に佇むシンイチが映し出されて、映画は幕引きとなる。
印象に残ったシーンは、これ以上迷惑をかけられないと、哲郎のもとを離れようとした時に、
「俺がお前が必要なんだ。」
と言って引き留めたシーン。
他人の目には哲郎が行く先のない青年を助けてあげていると映っていても、実のところ、哲郎はシンイチと共に過ごすことで、過去の悲しい記憶を忘れようとしていたというストーリー。このシーンは、スクリーンでは哲郎ではなく、シンイチの姿が映し出されたことも、興味深い演出だと思った。
小林薫さんも大好きな俳優さんの一人だ。小林さんがいることで、この映画に重厚感がプラスされていると思う。話したくないという青年の意思を尊重し、距離を置きながらサポートしている様子が、そっけないけど温かい、哲郎の人柄が絶妙に演じられていた。
柳楽優弥くんの演技からは、心を閉ざしている青年シンイチの闇の部分、そして哲郎の思いに応えたいという優しい一面を見事に表現していた。自信がなくて、自己嫌悪の念にかられているシンイチ像が柳楽くんにぴったりだった。
あくまでも個人的な感想だが、作品自体はあまり印象に残るものではなかった気がする。主人公の心の中を、視聴者に自分で読み取ってもらうように作られた映画のように思えた。主人公たちの心情がよく理解できなかった点もいくつかあって、このストーリーが書籍になっているものならば、ゆっくり読んでみたいと思った。ちょっと奥が深すぎてわかりにくいかった気がする。