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ポスト・シンギュラリティの18の社会像

一部では2030年までに到来すると予測されているシンギュラリティ(技術的特異点)ですが、実際に到来した場合にはいかなる影響を及ぼすのでしょうか。本稿ではシンギュラリティの社会的・経済的・政治的影響を探求し、ポスト・シンギュラリティに予期される18の社会像を具体的に描写することを目指しました。以下18の社会像は、シンギュラリティに伴う壊滅的なリスクを事前かつ完璧に排除することに成功した場合に予期される理想的なシナリオです。

予期される18の社会像

1.AIとロボティクスによってあらゆる製品が自動で生産され、全ての生活必需品が無料になることで、またはそこから発生した利益が社会全体に分配されることで、人間による労働が不要になり生活のために働く必要がなくなる。

2.誰もが高性能な3Dプリンターとナノマシンを所有することで、自らの需要に対する供給を自らで生産できるようになる。あらゆる経済活動が個人の中で完結するようになり、貨幣制度が形骸化し、経済そのものが不要になる。

3.現実世界と仮想世界の両方で多様なコミュニティが発展し、全ての人が人間関係に満足できるようになる。働く必要がなくなった人々は互いに交流しあい、活気あるコミュニティを無数に形成する。経済的に自立した個人による非支配的なコミュニティは、階層のない自由な人間関係を可能にする。センティエントAIのような「人間と変わらないAIやロボット」も誕生し、誰もが理想的な人間関係を享受できるようになる。仮想世界のバーチャルコミュニティでは、あらゆる意味で制限のないコミュニティが形成される。

4.SFに出てくるような未来的娯楽が普及する。漫画やアニメのVR化、フルダイブVRによる現実よりも魅力的で制約のない仮想世界、汎用人型ロボットとの無制限の交流、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)による現時点では想像も出来ないような娯楽の登場など、ありとあらゆる娯楽が実現して普及する。

5.進化したテクノロジーによってあらゆる犯罪、事件、事故が未然に防がれ、身体的にも精神的にも深刻な被害を被る人がいなくなる。自動運転車の完全な普及、オープンな監視体制、予測逮捕と完璧な犯罪防止システム、精神薬理学や神経工学による技術的な再犯防止プログラム等によって、他者を侵害するあらゆる行為が完璧に抑制される。

6.自然環境に存在するあらゆるリスクを克服し、自然と共存できるようになる。生活水準を前例のないほど向上させながら、地球温暖化を解決できるようになる。大気調整技術、気候管理技術、安全な地球工学等によって温暖化を技術的に解決することに成功する。あらゆる自然災害と宇宙災害を解決し、人類は自然の脅威を完全に克服する。

7.超高度な医療技術によってあらゆる病気、怪我、疾患等が根絶され、完全医療が実現する。「完全医療」とは、あらゆる病気、怪我、疾患等を完全かつ根本的に治療できる医療技術または医療システムのことであり、ナノテクノロジーやバイオテクノロジーによって実現する。

8.完全医療が実現し普及した段階で、人類は寿命脱出速度に到達する。「寿命脱出速度」または「LEV」とは、医療技術の進歩速度が加齢による死亡リスクの増加速度を上回ることで、平均寿命が無限に延び続けるようになる段階である。完全医療が実現した段階で、ある程度の個人差はあれど擬似的な不死が実現される。

9.テクノロジーによって老化が解決される。人間が老化することは自然の摂理などではなく、単なる技術的な問題にすぎない。高度に進歩したテクノロジーは、生物の老化プロセスを停止または逆転させ、歳をとるという概念そのものを消滅させる。

10.不死技術が実用化されて普及する。遺伝子工学やナノテクノロジー、サイボーグ工学やマインドアップロードといった、人間を不死にできる様々なテクノロジーが実用化されて普及する。シンギュラリティ以前の資産や経歴に関わらず、誰もが不死性を選択できるようになり、全ての人が無条件で不死を享受できるようになる。また、不死になった後でも死を選ぶことは可能である。

11.トランスヒューマニズムが実現する。新しいテクノロジーは人間の身体や認知能力を大幅に向上させ、人間の状況を前例のないほど改善する。いかなる形の苦しみであれ、それをなくせるようになる。いかなる形の欲望であれ、それを実現できるようになる。より大胆かつ強力な形でテクノロジーと融合できるようになり、人生における選択可能性が無制限に拡大する。この革命的進歩は、感覚を持つ全ての存在に適用されるだろう。

「私たちは、人間、人間以外の動物、そして将来の人工知能、改変された生命体、またはその他の技術的・科学的進歩によって生み出される可能性のある知性など、感覚を持つ全ての存在の幸福を主張します。」
〜トランスヒューマニスト宣言〜

12.あらゆる格差がなくなる。高度に進歩したテクノロジーは、知性、才能、遺伝子、容姿、権力、資産等に関するあらゆる格差を消滅させ、能力や状態における「選択可能性」を提供する。あらゆる状態が選択可能になり、誰もが自由に複製し再現できるようになることで、人間社会から「格差」が消滅する。現実世界と仮想世界の両方で自分の外見を自由自在に変更できるようになり、人々はルッキズムから解放される。

13.テクノロジーによってあらゆる政府が代替され、私たちは政治から完全に解放される。政府が持つ様々な機能(徴税と分配、安全保障、ルールの施行、警察権、司法権等)はテクノロジーに代替され、あらゆる政治的存在が不要になる。誰もが強力なテクノロジーを所有することで、1人1人の個人を中心にした分散的な社会秩序が形成される。これは高度に文明化された狩猟採集社会と似ており、政治は個人的な領域で行われる。

14.世界平和が実現する。シンギュラリティに到達し全ての人が無限の恩恵を享受できた世界では、互いに争う必要がなくなり、世界は完全な平和へと至る。全ての人に高水準な生活が提供され、人間が持つあらゆる欲望が満たされ、略奪と対立の必要がなくなった世界では、政府の形骸化や格差の消滅も有意義に作用し、ついに戦争そのものが消滅する。資源の奪い合いや貧困による対立の原因が完全に解消され、全世界からあらゆる軍隊及び兵器が消滅することで、永遠の世界平和が実現する。

15.文明が拡大する。人類文明は未だ発展の序章に過ぎず、我々の未来に限界はない。したがってどこまでも進むべきであり、次なる段階に進化するべきである。超知能による文明の加速は、カルダシェフ・スケールにおけるタイプ3文明を完全に達成することを可能にする。惑星規模のエネルギー利用、恒星規模のエネルギー利用、銀河規模のエネルギー利用が可能になり、地球由来の文明が全宇宙へと拡大する。あらゆる未来技術と高度な社会システムが開発され、人類はグレートフィルター仮説における「植民地化爆発」を完璧に突破することに成功する。

16.ポストヒューマンに進化する。「ポストヒューマン」とは、その基本能力は現在の人類に比べて非常に優れていて、現代の感覚ではもはや人間とは呼べない存在のことである。ポストヒューマンは「生命の進化プロセスの最終段階」であり、望む者全てがこのプロセスに移行できるようになる。人間の知能は非生物的知能と融合して何兆倍も拡大し、運命を超えた力を獲得する。ポストヒューマンへの進化は技術的特異点が人間を完全に逸脱するタイミングであり、この先は本質的に予測不能である。

17.全ての謎を解明する。理論的に最も発展した超知能またはポストヒューマンは、我々が抱く全ての謎を解明し、この世界の全てを知る。量子力学の謎、物理法則の限界、シミュレーション仮説の真偽、パラレルワールドの実在性、生命の起源と本質、意識の発生メカニズム、我々が今ここに存在しているという奇妙かつ奇跡的な事実、そして存在そのものの意義といったあらゆる根源的な謎を解明し、この世界の全てを知る。

18.宇宙的特異点に到達する。地球由来の超高度文明は宇宙の原理を完全に解明し、エントロピーの増大、熱的死への収束、宇宙の崩壊プロセスを克服する。この宇宙が滅亡する確率は限りなく0%になり、宇宙に存在する全ての潜在能力が開花した究極的かつ最終的な状態、すなわち「究極のエクストロピー状態」で永遠に安定化する。
(『AI・人類・技術的特異点』より引用)


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