いわゆる"デスボイス"についての個人的総括
メロディのある滑らかな歌声ではなく、荒々しいディストーションサウンドで発声する、いわゆるデスボイス。
(この呼び方への賛否はいったん置いといてください)
今や令和日本を代表する歌い手のAdoですらそうした歌唱法を披露するほどに一般に浸透する概念となりつつある一方で、まだまだ色物としての印象も強い。
そのデスボイスについて、音色についての解説は多いもののあまりきちんと"歌"として解釈分析しているのを見かけないので、最近質問されることも多いし一度文章にしてみようと思い立ち今noteを書いています。
経歴的にはデスボイス出し始めて17-18年、まぁWill Ramos (Lorna Shore)完コピしろとかの無茶振りでなければだいたいなんでもできます。
逆に楽譜とか読めないぐらい理論とかはわかりません。
まず、自分はデスボイスというか歌の要素を大まかに3つに分解して理解しています。
①音の高低
②音の長短
③音の大小
これに加えてデスボイスではもう一つの要素が加わります。
それが
④歪みの粒度
あとは息の量とか他楽器に対する音の相対位置はありますが今回はがっつりは触れません。
この四つの要素を理解して試行錯誤すれば、デスボイスをただの"音"ではなく"歌"にすることができます。
①音の高低
基本的に、デスボイスを出し始めたときは音の高低を表現することがそもそも難しいです。
まず歪ませることでせいいっぱいで、コントロールができない。
ある程度慣れてくると2種類の声が出せるようになります。
高いギャー!と低いヴォー!みたいなやつ。
ほとんどの人はここまででデスボイスの音の高低についての理解が止まります。
デスボイスでの音の高低とは、つまるところ声色の変化である、と。
わかりやすい例としてはSuicide SilenceのMitchですね。
しかし本来、歌における音の高低とはもっと滑らかにグラデーションのように切り替わっていくことができるものです。
デスボイスでそうした滑らかな変化を付けるためには、少しずつ地声の割合を混ぜていく必要があります。
代表的なのがLamb of GodのRandy。
かなり上手いボーカリストはこの域に達していますね。The Black Dahlia Murderの故Trevorはパッと聴くと極端な高低だけの表現のように思えますが、実際にはかなり色彩をもった歌になっています。
(これを聴き分ける耳を養うことが一番難しい点)
しかし音の高低を滑らかにするとアンダーグラウンド性が薄まってしまう、という難点もあります。オールドスクールデスメタルやスラムデス、デスコアといったジャンルでは必ずしも歓迎されない表現となっています。普通の歌に近付きますからね。
デスコアでは、過激さと音の高低についての技術表現を両立させるために声色のバリエーションを増やす、という方法が取られることが多いです。
ホイッスルやピッグスクイールといった極端な歌唱法もその一端でしょう。
あくまで"歌"としての歪んだ声と、技術として多彩な"音"を歪んだ声で出すこと、この2つに優劣はないのでどちらも身につけて損はないです。
②音の長短
これはもう単純にロングトーンか細かく切るか、という感じですね。
ある一定以上細かく切るとなると、後で説明する歪みの粒度(=強度)が犠牲になってしまうので、デスボイス始めたてのころはロングトーンを多用することが多いです。
歪みの粒度を維持しながら細かく切るには、
・小さい(息が少ない)声で喉と舌のコントロールで早口にする
・大きい(息が多い)声を腹筋でコントロールする
のどちらかになります。
前者はInfant AnnihilatorのDickie Allen、
後者はDisturbedのDavid Draiman。
③音の大小
これがエクストリームメタルというジャンルの中では最も苦労するポイントです。
なんせ小さい音は埋もれるし、マイクで拾おうとゲインを上げすぎるとハウリングを起こしてしまったりそこまでいかずとも他の楽器の音を拾ってしまってバンドサウンドの濁りが強くなります。
なんとか小さい音に基準を合わせても、今度は全力のシャウトをしたらバランスが崩れてしまいます。
音源ではいいけどライブでどこまで表現できるんだ……と思ったのがKing 810のDavid Gunn。
専属PAさんが完璧にコントロールしていないとライブではなかなか拾いきれないと思います。
一方、この問題を自分のマイクハンドリング技術で解決してしまったのはSlipknotのCorey。
この熟練のマイク捌きによる表現力はトップofトップの貫禄を感じますね。
実際にライブで観た中でPAさんが凄まじくコントロールしていたのがWhitechapelのPhil。
過去の来日公演の際、彼の発声の癖とマイクの位置に合わせて巧みに音量を操作していました。
あと、デスコア系の発声をしようとすると、
・歪みの粒度(=強度)を保ちつつ
・様々な声色のバリエーションを
・喉と舌のコントロールを高めて早口を交えながら
歌う必要があるので、自然と声は小さめになります。
逆にオールドスクールな感じを出そうとすると息多め声デカめのほうがいいです。
ライブでより再現性が高く他楽器の音も被りなく出せるのは後者ですが、完璧なPAさんのコントロールによる前者は圧巻のプレイングになるかと思います。
④歪みの粒度
デスボイス特有の要素としての歪み、その粒立ちがどれぐらい細かいかによって受ける印象としての"強度"が変わってきます。密度とも捉えられますね。
粒立ちが粗いと、印象としては弱めになります。地声に近いほど弱い、テクニカルではないという傾向です。そのぶん間口も広く真似しやすい。
Children of BodomのAlexiは粒立ちも粗いし声の高低や大小の抑揚もめちゃくちゃつける(そもそも地声に近い)ので、デスボイス初心者の方でも聴きやすいものになっています。
粒立ちをかなり粗くすることで逆にその要素を際立たせてエクストリームな表現に昇華したのがスラムデス系で、ジャンルを確立したDevourmentはまさにその権化です。
普通に聴くとちょっとショボく聴こえますがこれがいいんです。
一方で密度を高めれば高めるほど"巧い""モダンな"印象を与えることができます。
All Shall Perish/Suicide Silenceの"Eddie"Hermidaのハイシャウトはかなりの粒度/密度でめちゃくちゃ巧いですね。
そしてデスボイス現代最高峰、Lorna ShoreのWill Ramosはそれをさらに発展させて「密度を維持しながらその上層レイヤーの粗い粒立ちを強調する」という美味しいとこどりなプレイで世界を圧倒しています。
正直このレベルまでいくと基礎としている技術体系が違いすぎてどう再現すればいいのかよくわからん!となります。
さて、いわゆるデスボイスにおける(自分なりの)四要素について参考音源を交えながら解説してみました。
これらの要素を扱うための喉、筋肉、肺活量、なにより耳を鍛えることで、かなり自由にデスボイスで"歌"うことができるはずです。
そしてここからは「どうやって習得するか」と「どうバンドサウンドの中で活かすか」について。
あくまで自分の話になるので参考程度に。
習得方法としては、基本的には出したい声のボーカリストの姿勢や表情や喉の動きを動画でよく見ながら自分なりに発声して近づけていくことです。
ライブ映像とかレコーディング風景、生に近い歌ってみたとかがあるととても参考になりますね。
ただ、体格や性別や筋肉の付き方によっても差があるので、追いすぎないことも大事です。オリジナリティは自分の身体にこそ宿っていますし、誰かの完コピができても本当の表現にはならないので。
そしてバンドサウンドの中での活かし方ですが、
・ボーカリストを中心に据えるなら、その自然な声質を邪魔しない音域で他楽器が鳴るように作曲する
・楽曲を中心に据えるなら、そのメインフレーズを邪魔しない音域にボーカルが声をチューニングして出す
のどちらかになるかなと思います。
もちろん既存の楽曲とボーカリストの自然な音域がマッチするとめちゃくちゃいいですね。
自分で言うとBurden of Despairでのボーカルワークがそれで、楽曲が重低音を基調としているのでボーカルに与えられた遊べる音域が広く、結果として低い声の中での微細な高低表現も出しやすいです。
Vesper the Aerialではギターが主役なので、そのメロディやリフを最大限映えさせるように歌のほうを調整しています。
どちらにも共通してるのは、バンドの印象として「デスコアっぽくなりすぎないように」していることで、声色のバリエーションは控えめにして粒度を詰めすぎず、息の量が多めにしています。オールドスクールさを維持したい。
あと声はデカいほうがいいと思ってます。ライブでの音被りは他楽器の美味しいところ損なうのでゲインが小さくなるように。
出し方として意識してるのは全身を大きな空洞-管楽器のように捉えて、指先まで音を響かせて跳ね返った音も含めて喉を通して出すようなイメージです。
Burdenのほうは最近共演だったり生で観る機会が増えたので、COFFINSのTokitaさんに影響を受けて少しまたスタイルを調整している最中です。
大きく深いブレスの中に歪みを置いていくような。
他の人がデスボイスについてどう理解してどう出しているのか、の話も聞いてみたいですね~。