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フランス下院選結果と今後のフランス政治

はじめに

フランスの国民議会(下院)選挙(日本でいうところの総選挙)の決選投票の開票結果は、1週間前に実施された第一回投票の結果とも、事前に広く予想されていたものとも異なり、左派連合(新人民戦線)の大勝、第一党への浮上というものでした。
1ヶ月前に行われた欧州議会選での仏選出議員の議席分布で顕著だった極右の躍進の流れは引き継がれませんでした。本稿は先行するnote論考「欧州議会選からフランス総選挙にかけての仏政局」(下記)を踏まえ、フランスを含めた欧州の政治の両極化の趨勢の下での今回の選挙結果の位置づけを行うものです。多数派の存在しない議席分布により、組閣後も遠からず訪れるであろう政治的混乱と大統領による再度の解散、さらには2027年の大統領選までを見通しています。適宜、前稿と併せ読んでいただけましたら幸いです。
なお本稿の最後に、今回の開票結果を第一回投票の数日前の時点で見事に予言していたアナリストのコメントを紹介しますので、お時間のない読者はどうか、末尾の補論だけをご覧ください。唸らされること、請け合いです。


1. 下院選の開票結果

国民議会選挙の結果は、現状でのフランス極右(国民連合)の国政選挙での限界をあらためて露呈した形となりました。中道の与党と左派連合による、選挙区ごとの候補者の1本化調整によって勢いを削がれた形です。

図版出所:
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR050200V00C24A7000000/

選挙戦は「三つ巴」の争いとなりましたが、いわゆる「どんぐりの背比べ」よりは左派連合がアタマ一つ抜け出した結果となりました。この状態では、どの勢力が首班を出したところで、政治は安定しません。

1.1 国民連合

国民連合にすれば、今回は過半数は取れないにしても、初の首班を出して組閣し、遠からず訪れる次の総選挙につなぐステップにしたかったはずで、期待外れの結果といえます。

ただ同会派にとって欧州議会選後に展望された議席には届かなかったにしても、国民議会選での過去にない躍進となったことは事実です。左派連合や中道連合はいずれも、過去に今回の結果をはるかに上回る、過半数を越える大勝を収めたことがあるからです。

大統領選と同様に、決戦投票前に候補者調整を行って二択に持ち込む余地のある現行の下院選の制度 注1)の下では、なかなか極右の勝利は難しいといえます 注2)。

※注1) この独特の制度はフランスの伝統的な多党制と、政治の安定を両立するために導入されており、今回の選挙結果から、この制度が意外に強靭であることが示されたといえる。
※注2)
 これは極左にとっても同じことがいえるが、いかんせん極左には単独で政権獲得するだけの力は今日的にはないことから、この詮議は不要である。

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