セブンイレブンのDX敗戦から思う、「デジタルチームはコミュニケーションができない?」
先日、週刊ダイヤモンドの特集で「セブンDX敗戦」という記事を読み、その生々しい暴露とポリティクスに驚きつつ、僕もビジネスの現場で「どこかで見た景色」だと感じた。個人的にものすごーくよくわかるので、今日は久しぶりにちょっと熱くなり、考察してみた。
特集記事のポイントを簡単にまとめると、以下になる。
1.まず、そもそも本当にデジタル戦略が失敗したのか、客観的かつ、顧客視点での考察はない。(売上とかCSといった対外的な指標はないので戦略や事業そのものではなく、社内政治的な観点から完全に敗北した、という内容であったことがわかる。)
2.DX戦略本部は「評判」が悪かったこと。(「コミュニケーション」の課題)
3.勝者側は外部コンサル企業を起用し、これまでのDX戦略全般の取り組みを否定する目的の報告書が作られたこと。(流出した内部資料)
4.結果、DX戦略本部トップは社員の前で「あいさつ」し、会社とお別れすることになる。(DX戦略本部の敗戦)
上記ポイントの1つ目に書いてしまったが、記事を読んでみて僕の真っ先の疑問が本当に失敗したのか、というもの。個人的にはそれがさっぱりわからなかった。評判とかガバナンスとか、ポリティクスのことも大事な要素なのはわかるが、客観的な数字での説明もしてほしいと思う。メディアとして、双方の意見を入れるべき、といった指摘はよくあるが、そもそもビジネスとして何がうまくいって何がダメだったのか、エンタメ要素だけでなく、客観的事実に基づく分析というのもビジネスパーソン読者への本質の理解促進という点で重要な視点だと思う。
「DXはIT論ではなく、組織論」とは最近はよく言われるようになったし、僕も10年以上、デジタルと向き合ってきているので、肌感としても非常に身に染みてわかっているつもりだが、一方でビジネスの客観的事実である数字でも検証してほしい。(一方で、昔はデジタルは組織論とは別のところにあったので、最近、組織論にまで昇格したのだと思っている)
デジタルはツールであり哲学であるので、それを用いて、どうやって組織を変えていくか、がDXの本質である。だからKPIや実績ではなく、上記ポイント2の「評判」によって左右されてしまうことがあるのはよくわかる。これは実際とても悔しいが現実であり、最大の乗り越えるべき課題である。
とはいえ、ポイント1は僕もデータがないので実際はよくわからないし、ポイント3・4は本記事に書いてあるし、これを語ると長くなるので一旦置いておいて、今日は、個人的に気になったポイント2のデジタルチームの「評判の悪さ」について考察したいと思う。
ポイント2の「評判が悪かったこと」は、記事の至るところで言及されている。「採用しすぎ」「給与レンジが高い」といった恨み節的なものもあれば、「システムありきで事業会社のビジネスを考慮できていない」「課題だった事業会社とのコミュニケーションや関係性の強化は・・・」「コミュニケーションに課題を残したが・・・」「コミュニケーションが取れない」と、コミュニケーションを課題とする表現が随所に言及されていた。
ここで言う、コミュニケーションが取れない、というのはものすごく主観的な態度で、他者に対して、自分の思うように、かつ、納得しやすいことを言ってくれない、という、ほぼほぼ単なる不満だと思う。そもそもコミュニケーションは双方の問題であって、一方だけに集中して責任をなすりつけることが許されるなら、それは単に人数の多い「変化させられる側」が圧倒的に有利なパワーゲームである。従って、変化させられる側は、DXチームに対して、ビジネスの本質を理解しない、そしてカタカナ言葉でわけのわからないことを話す「コミュニケーションのできない人達」というレッテルを張り、それを数の力で事実認定していく鉄板のフレームワークを駆使していく。
僕は個人的にも、このような現場は何度も見て来た。実績や客観的な結果ではなく、「コミュニケーション」を理由に、攻めてくる人たちはどんな組織でも多かれ少なかれいると思う。
でもどこにでもいるから、対処いないといけない。僕も、表向きにはリテールの現場にSalesforceやMA、Tableau等の最新のイケてるツールを入れて、フレームワークをもとに現場に落とし込んでいく、ということをやっているが、実際は、そこに割く時間はわずかで、大部分はパソコンが不得意な年配の方に、「Control + C」のコピペを教えたりとか、レポートの見方を教えたりとか、そもそも何で数字を見る必要があるのかを説明したりとか、一方で現場でどんな仕事をしているか何度も同じ話を聞くとか、そういった対話で、「コミュニケーション」を解決していくというに力を割いている。
実際に、いわゆる一般的なコミュニケーション(対話・会話)が苦手な人もいるけど、人と話すのは苦手でも、機械との対話力に優れている人はいくらでもいる。そういったハイレベル人材を、村ルールでの「鉄板のコミュニケーション作戦」に落とし込まれて、否定されてしまうと、とがった人は育たないし、その人は評価されず、結局もっと合理的な米系外資系とかに流れていってしまうのでは、と思う。だからこのテーマに対して問題意識を持っているので、この特集を読んでちょっとだけ熱くなってしまった。当然ビジネスなので失敗することはあるけど、変えようとする側にももっと報いる社会に意識的になっていかないと日本は厳しくなってくる。
長くなってしまったが、とにかく言いたかったのは、
「コミュニケーション」というのは数と主観がモノを言うパワーゲームであること。基本、村社会ルールで優劣が決められるという現実を理解し、特に経営者の方は「あの部署はコミュニケーションができない」と言われたらそれは黄信号で、客観的に身構えるように意識してほしい。そして客観的な事実とともに議論ができるようなゴール設計も。
で、もう一つは、コミュニケーションが苦手と思っている、あるいは言われている人は、何も恐れる必要はなく、機械とのコミュニケーション力を磨いてください。あるいは「コミュニケーション」も頑張ってくれるなら、古くて何れ廃れる村政治ではなく、顧客(=利益)に対して結果を出しているか否か、つまり客観的な情報とセットでコミュニケーションしてください。
最後に、まったく面識もないし、この記事でのことしか知らないけど、このDX戦略本部の米谷さんという方には頑張ってほしいと思った。次の新天地でライスプロジェクトを始動し、日本のDXを前に進めていただければ感謝しかないです。