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【プリズンライターズ】「心の雫」短歌15首 vol.9

拝啓
 残暑が和らぎ秋風を頬に感じる九月となりました。昨夜は仲秋の名月で雲間から覗く月がことさら秋のさわやかさを感じさせます。いかがお過ごしでしょうか?
 コロナ第七波もやっと終息に向かったようで、感染者数を新聞で見てほっとしています。しかし、私たちの刑務所は8月30日から1週間又は十日間の工場閉鎖となり、大変な思いをしました。男子刑の工場閉鎖はこちらにも聞こえていましたが、もう私たちのところは大丈夫だろうと油断をしました。工場閉鎖のときに読む本がないと困るので漢字検定の本を借りて準備をしていたのですが、今回の本の借り出しは小説ばかりを3冊借りてしまいました。それも借りてすぐの金、土、日で3冊全部を読んでしまう、という愚を犯してしまい、翌週の火曜日からの工場閉鎖では同じ本を2回読むはめに陥りました。

 途中で2冊ほど購入本が届きましたが、それもあっというまに読み終え、2回目も終わりました。あ~あっていう感じです。工場閉鎖のときは、読書(雑誌や漫画、料理の本などは読めません)又は、勉強のための本、ノートを記入するときは、事前に申し出てある本の勉強のためのノートだけです。ノートと本が一致しないと、注意されます。私は、漢検の1級と準1級を申し出ていますので、その勉強ならできたのですが、本を借りていなかったため、とても不自由な思いをしました。
 そういうとき、プリズン・ライターの読者の方から本の差し入れがあり、本当に助かりました。いろいろな検閲があり、まだ手元には届いていませんが、受刑者にとって本は希望の光です。新刊ばかりを購入できる人は恵まれた一部の人たちで、そう多くはいないと思います。私も領置されているお金と相談しながらの購入です。BOOK OFFで安い本が購入できるといいのですが、そのためには外の人の手助けが必要となります。
 短期の刑ならば家族もあれこれと面倒を見てくれますが、超ロングとなりますと、いつもいつも私の希望をいうわけにもいきません。他人の温かいボランティアの心がそういう私たちを救ってくれます。もし私が出所したら、頂いた思いを忘れず次の人に返していきたいと思っています。

 前回のプリズン・ライターズの冊子でカエルさんのお薦めの本『生か死か上・下』マイケル・ロボサムの本を購入しました。先週の木曜日に届き上・下ともに1日ずつで読み終わりました。私は洋画が大好きですが、この施設の環境では、洋画は望むべきもなく、図書にある外国文学もほとんど読み、最近は外国の作家とも離れていましたが、この本を読み、改めて自分の好みを再確認しました。
カエルさんの書評どおり、この本は面白いです。出所の前日に脱獄をするなど、常識はずれです。どんな理由も思いつきませんでした。そうしなければいけなかった理由、場面、場面の描写が洋画仕立てで想像力をかき立てます。FBIの中の善と悪、結末はいったいどうなるのか、私もお薦めの1冊としたいです。
もう1冊『誠実な嘘』もお薦めでしたので購入してみました。ちょっと価格が高く驚きました。文庫本ですが1,450円+税と、翻訳されている分が割高なのでしょうか。これは、BOOK OFFの出番だなと思いました。来週はこの本に挑戦です。

 前回の投稿で歌集を出したいと書きましたが、短歌の手引き書を改めて読み直しますと、私の短歌はとてもとても、そんなレベルではなく、カエルさんの“小説を書こう”から、“まだ書けない”移行した心の揺れがまさに今の私の心です。短歌の900首や1000首なんて自慢できるものでなく、一首、一首の組み立て、言葉の選び方などなどが未熟です。今まで気づかなかった、甘い部分が目につき、歌集は、断念することにしました。
 社会復帰後に誰かしっかりとした人の許で勉強し直します。今は、独断と偏見で作歌をしていますのでプロが見ると、平板でつまらない残念な歌が多いかと思います。素人の趣味の域を出ていません。歌集を出したいという思いは、懲罰明けの無理矢理作った目標のようなものです。自分の力量を再確認するいい機会になりました。
 
 懲罰から2か月が経ち、落ち着いてはきていますが、まだ人間恐怖症で、人前に出るのが嫌になりました。ちょっとした引きこもり症候群です。来年の4月、類も戻り、クラブにも参加すれば少しずつ平常に戻っていきます。あと6か月ちょっと、試練が続きます。
 もうすぐ十月です。半年に一度ある転室の月です。誰もが人間関係に疲れています。問題があってもほとんどがそのまま半年を過ごします。工場担当さんによっては変えてくれる場合もありますが私の工場ではほとんどの場合懲罰を起こし部屋を変わるくらいしか方法がありません。ですから誰もが次のメンバーを気にします。嫌な人と同室にならないよう神仏に祈るしかありません。一喜一憂の大変な月です。
 どうかお体に十分気を付けてお過ごしください。  
かしこ    
 令和4年9月11日 

短歌15首です
① かにかくに社会恋しと想う女いずこにありても空は広がる
② ペチュニアの花の蜜より出で来たる蜂のひと目は忙しく過ぎる
③ エアコンの涼しき風を探りいてトランプ遊びの拠点とすべし
④ 工場が休みとなれば坐すだけのひと日となりて本と親しむ

⑤ 国道の見えぬ部屋へと越し来れば耳にやさしき外の細波
⑥ 雑草の中より立ちぬ穂の波にエノクログサと遊びし記憶
⑦ 山鳩の長く鳴きたる今朝の庭何かありたか抑揚をつけ
⑧ 飛びたちた鳥の行方はわからねど残る桜樹清々と佇つ

⑨ 第七波遅れて届く受刑者の日々を変えゆく隔離の怖さ
⑩ 霧立ちて我が身にまとうはかなさか脆き心に棘の刺りぬ
⑪ 蜉蝣の生に似たるか我がひと世残りわずかと刻を楽しむ

⑫ 隔離され外に出ぬ日の続きたば蔓草伸びて秋草の咲く
⑬ 台風が通過したらし街の朝恵みのごとき秋風の吹く
⑭ わずかなる窓より見える青き空雲の形に秋のおとずれ
⑮ トランプの勝負の世界激しくてわが席迫る熱波の嵐


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プリズンライターズ / ほんにかえるプロジェクト
【PRISON WRITERS】投稿へのサポートに関して/ 心が動いた投稿にサポートして頂けると有り難いです。お預かりしたお金は受刑者本人に届けます。受刑者は、工場作業で受け取る僅かな報奨金の1/2を日用品の購入に充てています。衣食住が保障されているとはいえ、大変励みになります。