【プリズンライターズ】前略 塀の中から
先日観たドラマの冒頭に、主人公の弁護士が殺人事件の被告人に対して痛烈な言葉を浴びせ、罵り、批判するシーンがあり、そのセリフ一言一言に心がえぐられました。
「あなたは今後一生、殺人犯として生きていかなければならない」
「あなたが更生しようがしまいが、社会では認められない」
「刑期を終えたからといって、償った事にはならない」など、厳しい言葉でした。
そこで改めて、「社会は甘くない」「自分の考えは甘すぎる」と思いました。
私は今までいくつかプリズンライターズに投稿させていただいていますが、その多くに「後悔」、「償い」、「更生」という言葉を書いています。
少し前に「刑務所は更生をさせる場所ではない」といった事を書きました。
これは更生するのは自分自身の気持ち次第で、刑務所では強制もしない手助けもしないという内容でした。
私自身、「更生し、人間として、人としてもう一度人生をやり直す」という目標を掲げ、受刑生活を送って、具体的には、自己改善、人間性の向上、人格形成で反省や理想を踏まえて、なりたい自分になる事、過去の自分から生まれ変わる事を「更生」と私は呼んでいます。
しかし、ドラマを観て、私の考え、思いは〝自己満足なのかもしれない〟〝独り善がりなのかもしれない〟
また、反省し、刑期を真面目に務め、更生すれば少しは償いになるのではないか、との考えは大間違いである事に気付かされました。
口では「社会はそんなに甘くない」と言いつつも、心では「しっかり更生をすれば受け入れてくれるのでは」と甘えていたのです。
それだけに、ドラマのセリフに現実の厳しさを見せ付けられました。
多くの受刑者は「早く社会復帰をしたい」と思っています。
社会でしっかり生活をしていく自信があるからで、必ずといっていいほど、社会での話をします。
「会社の社長だった」「良い大学を出てる」「有名企業にいた」このようなプライドからも社会復帰に自信が持てるのだろうと思います。
以前の自分もそうでした。
でも皆、知らないのですよ。逮捕され、被告人になり、受刑者となった、自分の社会での立場を。
逮捕されるまでは我々も普通の人でした。しかし、今後、社会に出る時には〝元受刑者〟という特殊な人となり、生活をしていかなければなりません。
「隣に殺人犯が住んでいたら誰だって嫌です」これもドラマもセリフです。
こういう世間の目、風当たりを経験していないし特殊な人として社会で生活していないので、過去の自分にすがりついて想像をしきれないのかもしれません。
我々は逮捕され、塀の中に居て、社会の目、声から守られています。なので社会の現実にに目を背ける事もできます。
だから社会に出て世間の風当たり、世間の目に晒され、その厳しさに耐えられなくなり、また刑務所に戻ってきてしまう。
現実に耐えられなかった弱者の逃げ場になっています。刑務所は過保護です。
当所はTV視聴がフリーチャンネルで好きな番組が観られますが、たまにフリーチャンネルが中止になる事があります。
その理由は告知されませんが、フリーチャンネルが中止になる時の番組内容を見ると、大体当所に収容されている受刑者の事件を特集した番組があるのです。
官からすればプライバシー保護の観点からこのような処置をとるのでしょうが(当該受刑者から訴えられるのを恐れている)、社会ではネットで検索すればすぐにわかってしまう事で、プライバシーもありません。
また、ネット等で不適切発言をすれば批判され炎上する昨今です。我々のような生命犯は批判されて当然。
それを刑務所が守るから、社会の厳しさ、社会の目に晒されず、現実を知ろうとしないです。
だから所内で弱い者をいじめ、権力争いに明け暮れるのでしょう。
という私も、懲役の端くれです。高い塀に社会から守られている身です。
社会は厳しい、とわかっていても、甘え、都合よく考えていました。だからこそ、ドラマのセリフが心をえぐったのでしょう。
今、社会復帰には希望もありますが、大きな不安も生まれてきました。
「社会は厳しい」その事を念頭に置き、今後しっかり考えていきたいと思います。
被害者遺族は、一生、私を憎み、許す事など無いです。私が更生しようが刑期を終えようが、私の罪は消えません。
「あなたが更生しようが人を死なせた事に変わりはない」そう言われても、社会の風当たりが厳しくても、侮蔑されても、目を背けず、しっかり耐えて、私は逃げない。その覚悟もしっかり持っていきたいです。
社会に、この文章を読んだ人に「甘い」といろいろ批判をされても、私は更生をしたい。更生を目指します。
人として本当にクズだったから、自分本位で他人を傷付けてばかりだったから、もう失敗を繰り返したくないから、他人の幸せを願いたいから、人に認められなくても、人に罵られても、人間になりたいです。
今社会では、元受刑者を受け入れようと、いろいろな政策が講じられていますが、社会が我々を受け入れられないのが普通です。
そうではなく、我々が社会に受け入れてもらえるように、一人一人が努力するべきなんです。
我々は社会に受け入れてもらう事は容易ではありません。相当な努力が必要なんです。
しかしこれが現実です。現実をしっかり受け入れる事が社会復帰なのです。
これも報いです。償いです。そう自分に言い聞かせています。
私はこのプリズンライターズも社会の厳しさを知る1つだと思っています。
我々の文章を読んでくれた、社会の人の忌憚のない意見が私達の社会復帰への大きな支援となります。
なので、今後も自分の考え、意見を投稿していきたいと思います。
どんな痛烈な批判も真摯に受け入れ、健全な社会復帰、受刑生活の糧にしていきたいと思います。
そんなことを決意した4月の終わりでした。
最後に一首
「桃色の花弁舞降り過ぐ春に 手を振り進む 娑婆への一歩」
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