インタラクティブミュージックだけじゃない!ゲームの音楽演出!
最近ではゲームの音楽演出として、「インタラクティブミュージック」が知られるようになってきました。楽曲だけではなく音楽演出に注目が集まるのは興味深いことで、個人的にはありがたく感じています。
一方で、「インタラクティブミュージック」は用語として一人歩きしている面があると思っています。「インタラクティブミュージックを導入するかどうか?」のような議論が音楽演出の前提抜きに語られてしまう場面にも遭遇することがあり、少しのやるせなさを感じています。
そこで本稿ではゲーム制作における「インタラクティブミュージック」の位置付けを分かりやすくするために、「ゲームの音楽演出」という広い枠で見たいろいろな演出手法を紹介してみることにしました!
各演出手法の紹介はある程度実例を交えますが、そこを掘り下げる趣旨ではないので簡単な解説に留めます。(詳しく知りたい方のために、関連する解説が Web 上にあるものに関しては最後にまとめました)
「ゲームの音楽演出」の可能性
「ゲームの音楽演出」が持っている特徴は、「不確定性」と「同期」だと思います。
「不確定性」はコンテンツの様々な要素 (音楽演出自体を含む) がプレイヤーの操作やランダム性による不確定性を持てることを指します。ゲームのインタラクティブ性に由来した特徴といえます。
「同期」はコンテンツの他の要素と音楽演出を合わせることを指します。こちらはゲームが映画などと同様に複合的な要素を組み合わせた作品であることに由来した特徴といえます。
「ゲームの音楽演出」はこの 2 つの組み合わせで構成されますが、その組み合わせは非常に複雑です。下記にいくつかパターンを挙げてみました。
他の要素に音楽演出を合わせる
場面に合った音楽演出
不確定性に音楽演出を合わせる
操作などによる状況変化 → 状況に合わせた音楽の変化
無操作時など状況が変化しない → 音楽のループ、飽きさせない工夫
音楽演出自体が不確定性を持つ
音楽を操作 (演奏) するような体験
ランダム性のある音楽演出
音楽演出を主体とした他の要素との同期
音楽と効果音の連携
音楽に同期した進行や演出
挙げてみただけでも多彩な可能性があることが分かると思います。
次項からは「ゲームの音楽演出」の具体例を技術的な面でなんとなく分類しつつ紹介していきます!
一つの楽曲の中で変化する演出
まずは一つの楽曲を条件に応じて変化させていく演出について紹介していきます。
ループ
ゲーム音楽が「ループ」するのは当たり前と思う人も多いと思いますが、これもゲーム (インタラクティブコンテンツ) 特有の音楽演出の手法の一つといえます。
よく知られているように多くのゲームで採用されていますが、ループ箇所の処理やイントロ付きループの実現などまで含めると案外ちゃんとやるのは難しかったりします。
縦の遷移、横の遷移
「縦の遷移」と「横の遷移」は「インタラクティブミュージック」の説明でよく言及される音楽演出です。そのため本稿では薄めに紹介します。
縦の遷移は「スーパーマリオワールド」でヨッシーに乗った時にパーカッションが追加されるというような、曲の展開自体は変えずにシームレスにアレンジを変えるような演出手法です。
「NieR Replicant」の最初の村では、音楽のアレンジが室内と室外で変化して、さらにデボルに近づくと歌が聴こえてくる演出となっています。縦の遷移を印象的に使っている例と思います。
横の遷移は曲の展開をいくつか作っておいて、その展開同士を遷移で繋ぐ手法です。例として「ゼルダの伝説 時のオカリナ」ではフィールド曲において 8 小説のフレーズを複数用意してランダムに遷移させ、飽きさせないように工夫された演出となっています。
横の遷移は状況に応じて音楽を進行させるために使われることが多く、戦闘曲で戦闘終了時にアウトロを流すなどシンプルな使用例はいろいろなゲームで見られます。状況に応じた音楽の進行という意味では「ベヨネッタ2」での使用例が分かりやすいと思います。
また、「Rez」ではレイヤーが変わるにつれて曲が展開していくという、処理としては横の遷移に該当する一方で表現としては縦の遷移の雰囲気を持った演出が採用されています。
時間軸の変化、エフェクト加工
縦の遷移と横の遷移は用意されたフレーズを組み合わせる手法といえますが、楽曲に変化をつけるという意味では再生速度の変更やエフェクトによる加工などのリアルタイム処理による演出も考えられます。
「ディグダグ」では自キャラを動かしていない時は音楽が一時停止し、モンスターが最後の一匹となった際に音楽の再生速度が上がるなど、時間軸の変化が演出に多用されています。
逆再生も時間軸の変化の一つです。使われている例は少ないのですが、「Braid」では時間を操る能力に合わせて音楽の再生方向や速度も同様に変化するという演出として使われています。
エフェクトによる加工は、潜伏時や瀕死などの時に音楽がこもったように変化する (ローパスフィルター) というような形ではよく使われる演出です。変則的な「縦の遷移」という見方もできると思います。
「NieR:Automata」では縦の遷移をより自然に行うためにエフェクトによる加工が使用されています。ハッキングが成功すると音楽が 8bit 版に縦の遷移をするのですが、ハッキングを試みている時にエフェクトを徐々に掛けていくことによって変化をより連続的に演出しています。
「スーパーマリオ ヨッシーアイランド」はワタボーに触れると音楽がぐにゃぐにゃに変化します。これはエフェクト的ではありますが、処理上はアレンジの変化と時間軸の変化の併用となっていると思います。この辺りは音楽の再生形式が音源の再生なのか波形データの再生なのかによっても手法が変わってきますね。
より細かいパーツの組み合わせ
音楽をより細かいパーツに分割して組み合わせる演出例もあります。リアルタイムに細かいパーツを組み合わせて音楽を生成するところから「プロシージャルミュージック」や「ジェネレーティブミュージック」と呼ばれる場合もあります。
「ファンタシースターオンライン2」では「SYMPATHY」システムという独自の仕組みが導入されています。細かいパーツを大量に用意し、状況に応じて鳴らして音楽を生成するという壮大なものです。
「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」ではピアノの短いフレーズをランダム性を持たせて組み合わせる「環境BGM」と呼ばれる演出が採用されています。
複数の楽曲を交えた演出
前項では一つの曲の中での変化に限定して紹介しましたが、ゲームの音楽演出は複数の楽曲を使用する場合が多いです。複数の楽曲を交えた場合どのような音楽演出手法があるのかについて紹介していきます。
楽曲の切り替え
ゲーム状況などに応じて楽曲を切り替えることも、音楽演出の手法の一つとして数えられます。
前項の「ループ」と同じように採用しているゲームが多いため当たり前のものとして受け取られがちですが、下記に一例を示すように、いろいろと工夫の余地があるところです。
フェードイン/フェードアウトの時間やカーブの設定など
音楽を完全に止める区間を挟む
あえて急激に遷移する
条件によって異なるイントロを再生する
条件によって楽曲の再生開始位置を変える
etc…
いい感じに繋ぐ
異なる楽曲同士の遷移であっても、音楽的なタイミングを合わせて遷移するなどの「横の遷移」の応用といえるような工夫が考えられます。
「ジェットセットラジオ」では、架空のラジオ番組が流れているという設定で、DJ プレイのようにいろいろな楽曲がいい感じに繋がって再生されます。
いろいろな条件
音楽の「変化」について触れてきましたが、今度は視点を変えて音楽を変化させる「条件」の側から見ていきます。
ゲーム状況
多くの場合はゲームの状況を元に音楽を変化させます。具体的にはマップの移動、戦闘の開始や終了、乗り物の乗り降りなど様々な条件が使われます。
(「インタラクティブミュージック」は「アダプティブミュージック」と呼ばれることもありますが、この「ゲーム状況に適応する」という意味合いから来ていると思います。)
ランダム性
音楽を変化させる条件として「ランダム性」を持たせることは、飽きさせない工夫として使用されることが多いです。
これまでに紹介した中でも、「ゼルダの伝説 時のオカリナ」のフィールド曲や、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」の環境BGMでは音楽の変化にランダム性を持たせています。
直接操作
音楽演出をコントローラーなどで直接操作できるようにする手法もあります。
「パラッパラッパー」のような音楽ゲーム (以前に怪文書を書いてましたが、本稿ではリズムゲームを指すことにします) はコントローラーで演奏しているかのような体験となっていて、操作と音楽演出のインタラクティブ性は非常に高いといえます。
音楽ゲーム以外でも音楽の直接操作による反応を楽しむような演出も考えられます。「スプラトゥーン2」のマッチング待機画面では、コントローラーを操作することで音楽に様々な変化が加えられるようになっています。
コンテンツ全体での連携
「音楽演出」は音楽を変化させるだけではなく、逆に他の要素を音楽演出に合わせるなど、双方向的に影響を与える演出も含んでいます。
音楽に合わせた進行
「東方妖々夢 ~ Perfect Cherry Blossom.」など「東方Project」のシューティングゲームは、音楽の展開に沿って敵が出現するように調整されていて、音楽に合わせたゲーム進行が多く見られます。
こういったゲーム進行を音楽と合わせる演出は、強制的にステージが進行するシューティングゲームでは実現しやすく、「ダライアス」シリーズや「斑鳩」などで培われてきました。
音楽同期
進行を合わせるのから更に進めて、音楽とゲームの他の要素をもっと同期していく演出も考えられます。
音楽ゲームにおいては当然に同期の仕組みが必要になり、音楽主体でゲームを動かすような形になります。
完全に音楽ゲームの形式を取っていなくても、音楽同期はゲーム体験の一体感を向上させ、良い演出となる場合があります。たとえば「Rez」は操作としては殆ど音楽ゲームの要素を持っていませんが、全編に渡って音楽同期が徹底されています。
「Hi-Fi RUSH」はアクションゲームと音楽ゲームを融合させ、音楽同期がゲームデザインの軸となっています。
こういった音楽演出要素の強いゲームは自然と他の音楽演出手法も取り入れやすく、いろいろな手法が詰め込まれていることが多いです。
効果音との連携
「コンテンツの他の要素」という時に忘れてはいけないのが同じくゲームオーディオの構成要素となっている「効果音」です。
「スーパードンキーコング」ではいくつかの楽曲に環境音的な音が含まれています。そもそも環境音が別に実装されることが少ない時代だったということでもあるのですが、音楽と環境音が狙った通りの連携で聴こえてくるのは気持ちの良い体験です。
「スーパーマリオ ヨッシーアイランド」は効果音に音程のあるものが多く、スケールも音楽と近くなっているため、効果音が音楽の一部であるかのように感じられる演出となっています。
また、「音楽同期」のあるゲームでは効果音との連携による演出が特に多く使われています。
Diegetic Music
「物語世界の中で鳴っている音楽」は Diegetic Music と呼ばれています。
これをゲームの音楽演出と連携させるのも、よく使われる演出手法です。例えば前述した「NieR Replicant」でのデボルの歌は近づくと鳴り始めることで物語世界内で歌っていることとの繋がりを強調しています。
Diegetic Music をゲーム内で鳴らす場合、効果音と同じく「世界で鳴っている音」として馴染ませる「音響空間表現」のアプローチも有効になる場合があります。
「NieR: Automata」の移動型ショップの演出に使われる例では、スピーカーからなる音の再現や立体感の強調などに加え、ドップラー効果も再現しています。
音楽の視覚化
スペクトラムアナライザーの表示など、音楽を視覚化するのも演出の一つです。
「Hi-Fi RUSH」では背景にスペクトラムアナライザーのようなデザインがそこかしこに見られ、実際に音楽に合わせて動いています。こういった表示は動きを楽しむためのものなので、正確な周波数特性分析よりは動きのそれらしさが優先されています。
ところでゲームでスペクトラムアナライザーといえば「テイルズ オブ ファンタジア」のサウンドモードで表示されていたのを思い出します。スペクトラムアナライザーだけでなく他にもいろいろな表示が出ていたり、DSP が付いていたりと謎の充実ぶりでアツいですね!
(筆者もスペクトラムアナライザーは大好きで良く仕込ませてもらっているのですが、またそのタイトルかよってなるので紹介は自重?しました……笑)
「ゲームの音楽演出」を決める
いろいろな音楽演出手法を紹介したところで、どの手法を使えばいいのか?ということについて考えます。
紹介した音楽演出は全てゲームの持つ特徴からして順当なもので、それぞれに明確な優劣はありません。(難易度的な意味でなければ) 基本と応用に分けられるわけでもありません。
そこでまず、ゲームの内容と合うかどうかが重要になってきます。
音楽を主体にしたゲームでは音楽同期などの演出に強い必然性が生まれます。また、オープンワールドのようにいろいろな場面がシームレスに繋がっているようなゲームでは、音楽演出もそれに合わせてシームレスに変化するほうがプレイの邪魔になりにくくなります。
楽曲と手法の相性という要素もあります。クラブミュージックの要素を取り入れた楽曲で演出する場合は条件による遷移を取り入れやすかったり、現代音楽を取り入れた楽曲で演出する場合はランダム生成が自然になりやすかったりなどがあり得ると思います。
また、想定するプレイヤーの経験や好み、文化や流行などの文脈も大きく影響してきます。
極端な話で、例えば映像の音楽演出という前提がなくゲームを異世界への没入と捉える場合、音楽は無いほうがいいという結論になることがあります。(その場合でも逆に自身の経験から音楽が無かったり薄かったりすることを寂しく思う人は出てきます。難しい選択です)
なんにせよ、「どんな音楽演出にしたいか?」「どんなゲームにしたいか?」を考えてこそ使用する音楽演出手法が決められるようになるわけです。
「インタラクティブミュージック」の「定義」?
あまり本題ではないのですが「インタラクティブミュージック」という言葉が指す範囲にも触れておきます。
よく見かける解説からすると、狭義には「ループ」を除いた「一つの楽曲の中で変化する演出」に挙げたような演出手法を指していそうです。
ですが、実際に音楽演出を考えてみると「複数の楽曲を交えた演出」のような内容も自然と組み合わせたくなることがあり、これを敢えて分けて考えることには疑問を感じます。
さらに文脈によっては音楽同期や Diegetic Music なども組み合わせたくなってくるので、個人的には最早「インタラクティブミュージック」=「ゲーム (インタラクティブコンテンツ) の音楽演出」としてもいいんじゃない?と思っていたりします。……とはいえこの辺の議論は誰かに譲ります、笑。
(そういえば、少しだけ参加させていただいた 「Ludo-Musica」というゲーム音楽展では「ゲームならではの音楽」という括りが使用されていました。個人的には好きな括りですね!)
「ゲームの音楽演出」の難しさ
本稿で紹介してきた音楽演出は、割と自然にやりたいと思えるものが多くなっているのではないかと思います。ですが、実際にこれらを実現しようと思うと様々な難しさに直面します。
特に難しいと感じていることについて列挙してみます。
音楽演出の魅力を高める難しさ
楽曲らしい魅力と遷移の自由度の兼ね合い
「楽曲遷移」「楽曲のエフェクト加工」などの楽曲制作以外の音のセンスを必要とする実装作業
楽曲制作と実装作業の協力(兼任)体制の確立
音楽演出を実現する技術的な難しさ
ストリーミングなどによる制限への対応
遷移条件の複雑化への各種対策。短時間に遷移が集中する場合など
テンポの異なる楽曲同士の遷移など複雑な時間管理
音楽同期。フレームレートや遅延などを含む多くのノウハウが必要
オーディオ処理のクオリティコントロールの難しさ
魅力的なエフェクトの制作(調達)
Diegetic Music などインタラクティブミキシング要素の強い音楽表現の品質の担保
音楽演出の魅力や難しさを (制作チーム内で) 周知する難しさ
音楽演出の魅力の周知
音楽演出の品質を担保する意義の周知
音楽演出のツール制作など何かと手間がかかることの周知
音楽演出の様々な難しさの周知
これらはものによっては本当にびっくりするほど難しく、現在のゲーム制作において本稿で挙げたような手法を全て自由自在に駆使できる制作チームは存在しないと言っても間違いではありません。
また、制作チームや制作環境による差も大きく、オーディオミドルウェアなどで簡単なインタラクティブミュージックであれば気軽に挑戦できることもある一方、環境を揃えなければちゃんとしたループすらできないこともあります。
おわりに
本稿は今後の仕事のためにゲームの音楽演出技術をまとめた「インタラクティブミュージック マニアックス(笑)」のようなものを作ろうとしていたところに、世にあまり出ていない挑戦的な内容をカットするなど一部調整を施したものです。
音楽演出は「新しい感覚の体験を提供する価値」を持つ側面があり、ユーザーの見える所でネタバレ的なことは避けたいという気持ちはありつつも、ゲーム制作側に回る可能性がある人たちに広く知ってほしいとも思ったので公開することにしました。
ゲームの音楽演出の手法は当然にゲームの音楽演出のためにあります。まずは「どういう演出にしたいのか」をしっかり狙えるように、いろいな演出を知ることが大切だと思います。
一方で、技術的な面が軽視されてしまうと演出として良いものにすることは難しくなってきます。筆者としては、そういった難しさを業界として乗り越え、ゲーム制作における音楽演出を切り拓いていくようなことができたらと考えています。(そんな仕事あったらください!笑)
参考
不確定性の音楽 - Wikipedia
Ludo-Musica Stage 2「ゲームならでは」の音楽体験
「スーパーマリオワールド」、「ゼルダの伝説 時のオカリナ」など
GDC 2007: Koji Kondo - "Painting an Interactive Musical Landscape" の記事です
「スーパーマリオ ヨッシーアイランド」
「東方 Project」関連
「NieR Replicant」
CRIWARE 導入に関してのインタビュー記事です
「ファンタシースターオンライン2」
「ベヨネッタ2」
「NieR:Automata」
「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」
「Hi-Fi RUSH」
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