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サウンドなのか?オーディオなのか?

ゲーム業界における職種などの呼び方に関しての議論が最近良く起こっている気がします。例を挙げていけば「ゲームデザイナー」「レベルデザイナー」「ナラティブデザイナー」とか色々ありますね。

こういった職種などの呼び方に関する混乱はゲームオーディオ界隈でも起こっていて、というか多分他の界隈と比較しても結構凄いと思うんです。

例を挙げてみると、

  • 職種領域 (セクション) を表す名称として海外では「ゲームオーディオ」「オーディオ」が普通だけど国内は「ゲームサウンド」「サウンド」

  • 「サウンドプログラマー」と言われても、「音に関するプログラマー」なのか「音楽の打ち込み担当者」なのか分からない

  • 「サウンドエンジニア」と言われても、「サウンド関連のゲームエンジニア」のつもりなのか、普通に「レコーディング、ミキシング、マスタリングなどを行うエンジニア」なのか、はたまた「サウンド関連の技術者全般」を指してるのか分からない

  • 「サウンドエフェクト」だと効果音なのに「オーディオエフェクト」だと音に掛ける効果

あたりが代表的で、界隈の人にはあるあるとして親しまれています(いない)。

しかし、これらの混乱を解決するために議論しよう!という流れは一向に生まれません。

これは多分ゲームオーディオ界隈の人の性格の良さ (又は制作以外への興味の薄さ) を表していると感じていて、それ自体は個人的には界隈のとても好きなところです!(笑)

とはいえ結果的に誤解を与えやすい表現が残り続けるのは悲しいので、ゲームオーディオ界隈外の人も多少は入りやすい形で議論のタネを作ってみることにしました。ちょっとだけ議論しませんか?

単語の意味より組み合わせた時の意味に注目

タイトルにあるようにサウンドとオーディオを比べる前に、個人的に一番誤解の元になっているように感じている所に注目します。

「〇〇デザイナー」「〇〇プログラマー」「〇〇エンジニア」などと呼ぶ時の意味についてです。

これ、「ゲームデザイナー」を「ゲーム分野のデザイナー」と読んでしまうという話を見かけて感じました。「デザイン」という単語の「意味」に誤解があるというよりは、言葉の持つ「機能」に誤解がありそうです。

「デザイン」は他動詞で使われる事が多く、自動詞としての「デザイン」は「何をデザインするか?」が明らかで省略できる際の用法です。

それを踏まえると、「ゲームデザイナー」は「ゲームをデザインする人」が自然な解釈で「ゲーム分野の(グラフィック)デザイナー」と読むのはちょっと無理があることが分かると思います。

「プログラム」「エンジニア」も同様に基本他動詞です。なので、基本的には下記のような解釈が自然ということになります。

  • 〇〇デザイナー : 〇〇をデザイン (意匠の設計) する人

  • 〇〇プログラマー : 〇〇をプログラミングする人 (プログラミング対象が〇〇)

  • 〇〇エンジニア : 〇〇をエンジニアリングする人 (エンジニアリング対象が〇〇)

サウンドとオーディオの違い

続いて、サウンドとオーディオの違いです。「音」としての 2 つのニュアンスの違いは (文脈などによって色々揺れはありますが) 下記のようになっています。

  • サウンド

    • 素直に「音」のこと

    • 現象として鳴る「音」

    • 表現として鳴らす「音」

  • オーディオ

    • 信号としての「音」

    • コンテンツの「音」部分

    • ヴィジュアル等との対比としての「音」

サウンドとオーディオの使い分け

上記を踏まえて、色々な例での「サウンド or オーディオ」を見ていきます!

ゲームサウンド or ゲームオーディオ

まず、デカい所(笑)です。国内では「ゲームサウンド」が多いですが、海外では「ゲームオーディオ」が多いです。

  • ゲームサウンド : ゲームの「音」

  • ゲームオーディオ : ゲームコンテンツ内の「音」部分

こう見るとゲームというコンテンツの性格上「ゲームオーディオ」のほうが自然といえそうですが、「ゲームサウンド」もそこまで誤解を招く表現ではないように感じます。

サウンドデザイナー or オーディオデザイナー

  • サウンドデザイナー : 「音」をデザインする人

  • オーディオデザイナー : 「音響信号」をデザインする人

となります。「効果音の制作者」を意味したい場合は前者になります。海外だと全体的にオーディオになるという訳では無いことも分かると思います。

後者は「技術的に音響信号をデザインする人」と取りたいなら「テクニカルオーディオデザイナー」と明記したほうが分かりやすいですし、「ゲームの音部分全体をデザインする人」と取りたいなら (1人で全部やってる場合を除いて)「オーディオディレクター」のほうが分かりやすいです。

サウンドプログラマー or オーディオプログラマー

  • サウンドプログラマー : 「音(による表現)」をプログラミングする人

  • オーディオプログラマー : 「音響信号」をプログラミングする人、(ゲームの)「音」部分に関してプログラミングする人

となるので、「ゲームの音を制御するプログラミングをする人」を意味したい場合は普通後者が選ばれる事が分かると思います。

前者の場合、プログラミングの意味が打ち込み (演奏情報などをシーケンサーなどに入力すること) とも取れますし実際そちらで良く使われる呼び方なので、混乱の元になりやすいです。

コンピュータープログラミングの意味で取っても、直接効果音や音楽を出力するプログラミングを行う場合は前者で呼べそうな気もしますが、割とレアケースでしょう。

サウンドエンジニア or オーディオエンジニア

  • サウンドエンジニア : 「音(による表現)」をエンジニアリングする人

  • オーディオエンジニア : 「音響信号」をエンジニアリングする人

こちらは「エンジニアリング」が「~に対して技術を駆使する」的な意味で広く取れすぎるのでどちらも大して意味が変わらないように見えます。

実際、音楽制作などの分野では「サウンドエンジニア」と「オーディオエンジニア」は両方レコーディング、ミキシング、マスタリングなどの音響技術を駆使する職種の呼び方として定着しているので、ゲーム分野で別の意味に取るのは止めたほうが良いと思っています。

テクニカルサウンドデザイナー or テクニカルオーディオデザイナー

  • テクニカルサウンドデザイナー : 技術的なサウンドデザイナー

  • テクニカルオーディオデザイナー : 技術的に「音響信号」をデザインする人

「サウンドデザイナー or オーディオデザイナー」の所でも触れましたが、「技術的な音響デザイン」を意図したい場合は後者がしっくりきます。

前者は「サウンドデザイナー」という結びつきが強く、「技術を駆使するサウンドデザイナー」に見えそうですが、そうだとしてもゲームオーディオ分野においては大してやることは変わらないので混乱自体は少なそうです。

サウンドディレクター or オーディオディレクター

  • サウンドディレクター: 「音(による表現)」の制作に関して指針を示す人

  • オーディオディレクター : (ゲームの)「音」部分の制作に関して指針を示す人

割とどっちでも良さそうに見えますが、海外だけでなく国内でも何故か殆ど後者で呼ばれています。国内で職種が定着したタイミングとかの問題でしょうか?

前者はゲーム以外の業界ではあるみたいです。

サウンドエフェクト or オーディオエフェクト

  • サウンドエフェクト : 効果「音」

  • オーディオエフェクト : 「音響信号」に対してのエフェクト

これは職種などではあまり見かけないのですが、意味が全然違ってしまう上に代替の言葉があまり無いため、ゲームオーディオに明るくない方に資料の翻訳をお願いしたりすると大混乱を招いてしまう場合があります。(実体験に基づいています。参考に挙げておきます)

使い分けまとめ

「サウンド」と「オーディオ」はニュアンスが違い、与える印象などが変わる場合があります。

多くはそこまで気にする必要が無いのですが、特に「ゲームの音を制御するプログラミングをする人」「ゲームの音を制御する技術者」を意図したいはずの場合は「サウンドプログラマー」「サウンドエンジニア」「オーディオエンジニア」ではなく、「オーディオプログラマー」「テクニカルオーディオデザイナー」を使用するほうが誤解が少なくなると思います!

(おまけ)長音符の省略について

「プログラマ」「デザイナ」のように末尾の長音符を省略する表記が採用される場合があります。

これに関して、あんまり一発で全体像が掴める良い資料が無かったので、興味がある方は「長音符」「学術用語」「内閣告示」「JIS規格」あたりを調べてみてください……。

昔は学術用語を発端として長音符省略が強かったのですが、近年内閣告示でもJIS規格でも長音符の省略可能記載は消えて、時流的には省略しない流れになっていると言えます。

とはいえこれはどっちでもいいじゃん?って思ってたんですが、検索エンジンによっては (某SNSとか) 長音符の有無で検索ヒットしない場合があるようなのでちょっと統一したほうが良いかも派に傾きつつあります。

おわりに

ほんとにこれで議論になるんかなぁ?という不安が拭えないですが、よろしくお願いします!!

ここまで書いておいて身も蓋もない話ですが、個人的には意味などについて考察して納得するより、より強い文化的な理由が無い限りは「海外でも通用するようにしたい」という理由だけで用法を揃えたら良いような気がしてます。

本稿の内容は個人的な調査などによるものではありますが、業界内ローカライザーの友人 (GDC でもお世話になった) にも意見を聞いて調整しております。この場を借りて感謝いたします!!

参考

身も蓋も無いですが英語版の Wikipedia 見るだけで大抵解決します。

Sound - Wikipedia

Audio - Wikipedia

Programming (music) - Wikipedia

Audio engineer - Wikipedia

Director of audiography - Wikipedia

Sound effect - Wikipedia

Audio effect - Wikipedia
(英語ですら Sound effect と混用されてる、カオス……)

Part 1: The spatial acoustics of NieR:Automata, and how we used Wwise to support various forms of gameplay | Audiokinetic Blog
(サウンドエフェクトとオーディオエフェクトが混在する例)


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