スペクトラムアナライザのまめ知識 - FFT とフィルタバンクの方式の違いについて -
オーディオ関係の人にとってスペクトラムアナライザ(以下スペアナ)は重要なツールの 1 つだと思いますが、その特性や種類についての解説はあまりされてきていないと感じました。
特に表題にもある FFT とフィルタバンクの方式の違いについてですが、出力結果への影響が非常に大きい違いであるのにも関わらず、あまり前面には出てこない情報となってしまっています。
個人的にはスペアナには譲れない思い入れがあり、自分で使いたいものを何度か作っているうちにそれなりに精度が高い知見が得られてきましたので、徐々に共有していきたいと思った次第です。
FFT
FFT の説明をまともに始めてしまうとそれだけでお腹いっぱいになってしまいますし、FFT 単体での解説はそれなりにありふれたものなので、かなり端折ったものにします……。
FFT は高速フーリエ変換 (fast Fourier transform) の略称になっていますが、離散フーリエ変換 (discrete Fourier transform) の高速化版になっています。何故 discreate が抜けたかは不思議ですね……。
離散フーリエ変換は有限のサンプルデータを有限の sin 波/cos 波の重ね合わせとして表現しなおす変換 (直交変換) で、いろいろなものの周波数分析やデータ圧縮などに使われるものになっています。
スペアナと聞くとこちらが浮かぶ人が多いのではないでしょうか?
フィルタバンク
フィルタバンクについては割と簡単に説明でまきす。
BPF (バンドパスフィルタ) と RMS 計測を計測したい周波数バンドの数だけ用意します。基本的にはそれだけです。
FFT が流行る前は一般的な手法 (アナログ回路での実装) でしたし、ごく最近逆に DAW などにこちらの方式のスペアナが搭載されていることが増えている気がしているのですが、方式についての説明があんまりないので知名度は低いと思います……。
方式の簡単な見分け方
ホワイトノイズで平坦になるのが FFT、ピンクノイズで (大抵) 平坦になるのがフィルタバンクです。
ホワイトノイズは線形軸でみた等間隔な周波数バンド内のパワーが大体均一なノイズです。つまり 100-200, 200-300, 300-400 間のパワーが均一です。FFT の出力結果は同じく線形軸でみた等間隔の周波数帯毎のパワーなので、このノイズに対して平坦な結果が得られます。
一方ピンクノイズは対数軸でみた等間隔な周波数バンド内のパワーが大体均一なノイズです。 100-200, 200-400, 400-800 間のパワーが均一です。フィルタバンクのフィルタ群は (大抵) 対数軸でみて等間隔で等幅になるように並べるので、このノイズに対して平坦な結果が得られます。
またサイン波スウィープに対してのピークはどちらも同じ程度の高さを示しますが、FFT は高域にいくにつれ山の裾が狭くなっていくのと、同程度の音域でも裾の広さに揺れがあります。(裾の揺れの理由の説明は別の機会に……)
お手元のスペアナがどちらに相当するのか、是非確かめてもらえればと思います!ハイブリッド的な方法など亜種の場合も考えられるので、どちらかにちゃんと合致はしないかもしれません……。
FFT の特徴
FFT は名前にも fast が付いている通り、多くのサンプル点を高速に計算できる手法です。特に高域の細かさに優れているため、倍音構成を正確に見たい場合等で重宝します。
反面、窓幅を設定する都合などで低域の正確性は高くなく、周辺の音に埋もれて取りこぼしが発生してしまうこともあります。
低域を別処理するなどの工夫も考えられますが、全体の一貫性としては下がってしまうので注意が必要です。
フィルタバンクの特徴
フィルタバンクはピンクノイズ的な帯域毎パワーが基準になるので人間の聴感と合わせやすく、ミックスの確認などで優れていると思います。
超低域に強く、超低域ノイズなども正確に拾うことができます。
超高域は FFT と比較するとバンド幅が広く混ざりやすいですが、聴感と比較して広いわけではないので、より詳細に見る必要がある場面でなければ問題ない程度です。
理想的な BPF を構成するのが難しく、バンド数を増やすのが難しいのが欠点ではありました。
おわりに
スペアナの FFT とフィルタバンクの方式の違いについて短くまとめてみましたが、どうだったでしょうか?
自分が基準にしやすいものを選ぶのが一番ですが、方式の違いを知っていることで、より良いスペアナライフ(?)の助けになればと思います!
おまけ?
Prismaton Analyzer (仮) というフィルタバンクスペアナを (主に自分のために) 制作しているのですが、せっかくなので紹介してみます。
◆ 8-24k Hz の超広範囲帯域を半音毎の 139 バンドでアナライズ
◆ 高精度、高反応かつ非常に低負荷な BPF を実現
◆ LR の相関を解析して空間的広がりを確認 (未実装)
◆ etc...
公開や販売の予定等は決めていないので、興味がある方がいましたら是非ご意見をお願いします!ちょっとした応援だけでも励みになります!
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