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世間を騒がすDeepSeekについて公開されている情報からわかりやすく解説!!
こんにちは。
今回は、今、メディアで騒がれている「DeepSeek」とはいったい何なのか、そして、どのような影響や懸念があるのかをニュース情報からわかりやすく整理してみたいと思います。
1. DeepSeekショック
まず「DeepSeek」が突然世の中を驚かせたのはこのニュースとなります。
中国AI「ディープシーク」が波紋 エヌビディア株17%安(日経新聞 2025.1.28)
この時、エヌビディア株は17%下げましたが、半導体大手のブロードコムなども同じく17%下げて、ナスダック総合株価指数自体も続落しました。この下落幅は2024年12月中旬以来6週間ぶりの大幅な下落でした。
それでは、なぜ「DeepSeek」がエヌビディアに代表される半導体株価に影響を与えたのでしょうか。それは「DeepSeek」が、2024年12月に公開したAIモデル「DeepSeek-V3」や、さらにそれをベースに性能を向上させた「DeepSeek-R1」を従来開発コストの1/10ほどの非常に低コストで開発した、と発表したことがその理由です。
市場(投資家)は、この技術革新によって、エヌビディアなどが得意とする先端AIの開発に使ってきた大量の半導体が不要になるという不安から、ネガティブな情報として半導体株を売った、ということのようです。
エヌビディア株は、その後のニュースでも以下のように株価が冴えない状態が続いています。
エヌビディア株価値85兆円消失 ディープシーク登場、1週間で16%安(日経新聞 2025.2.4)
市場というのは、一旦、不安材料が出ると、他の投資家も及び腰となり、しばらくは半導体株価への影響は続くかもしれませんね。ちなみに投資家心理では「AI半導体の需要期待が剥落し、投資家は次の勝ち組(ソフトウェア銘柄など)を探している」ということだそうです。
2. 理由はAIモデルの開発コストが1/10だったこと
まず、「DeepSeek」の、この低コストでAIモデルを開発した、という話について、もう少し詳細にみていきましょう。次のニュースが参考なります。
ディープシーク使用のGPU 先端品の1-3割安か 計算速度は半分(日経新聞2025.2.11)
「DeepSeek-V3」、「DeepSeek-R1」を開発した半導体は何かというと、実はエヌビディアのGPU H800というものが使用されました。このGPU H800は、現在、大手テック企業などが使う最先端モデルGPU H100の廉価版という位置付けの製品だそうです。H800はH100と比べて、計算スピード性能は半分だそうです。その廉価版のGPU H800を200-300台使用して開発しました。
そして、開発費用は総額557.6万ドル(約8億5000万円)、AI学習に278.8万時間。こうした情報から「DeepSeek」側はAIモデル開発の時間あたりのコストは2ドルで、これは米国製AIモデルの1/10程度であるという試算をしていたということです。
ただ、その根拠として、実はこのH800の価格はH100とそれほど変わらず、1割から3割くらいコストが安いだけなので、低コストの半導体をつかったからというわけではなく、むしろAI学習の時間などが短くて済んだということかと推測されます。
3. DeepSeek開発にまつわるグレーな情報
この「DeepSeek」側の開発費1/10の主張に本当かどうか懐疑的な専門家もいるようです。確かに、その懐疑論に関係したニュースとして以下のものがありました。
米2社、中国AIを調査 ディープシーク、データ不正利用か 非公開モデル学習に利用(日経新聞 2025.1.30)
米2社というのは、あのオープンAIとマイクロソフトです。この2社が米政府と共に「DeepSeek」がオープンAIの非公開データを不正利用したのではないかとの疑いを調査しているようです。マイクロソフト側は2024年秋に「DeepSeek」に関係するとみられる人物がオープンAIのデータ連携機能を使って大量のデータを盗み出したのを発見し、当時、それをオープンAIに通報しました。そして、この時に「蒸留」という手法が用いられたのではないか考えられています。
「蒸留」とは以下のようです。
「蒸留」とは生成AIの基盤となる大規模言語モデルを開発する手法の一つ。
新たなAIを作る際、データの学習方法や質問への答え方を既存の高性能AIから学ばせて、開発を効率化する方法。
そして、オープンAIは自社製品の利用規約の中で「蒸留」を禁じているわけです。確かに「DeepSeek」がオープンAIのAIモデルから不正な「蒸留」を行って開発コストを効率化した可能性もあり得ますよね。
このように、この「DeepSeek」は黒、いや失礼、グレーな話が非常に多いようです。
4. DeepSeekモデルの抱えるセキュリティーリスク
「DeepSeek」という会社は中国で2023年に創業しました。その後、AIモデルより前に有名になったのが「AIチャットボット」です。この「DeepSeek」の「AIチャットボット」は1月27日時点でiPhone向け無料アプリランキングでChatGPTを抑えて、ダウンロード数1位だそうです。技術力は確かにある会社ですね。
「DeepSeek」は技術力は高そうですが、セキュリティ関連では、以下のニュースのように、非常にリスクが高いと言われています。
中国AIディープシーク 悪意のある質問にも回答 サイバー攻撃やテロ悪用リスク(日経新聞 2025.2.1 )
つまり、「DeepSeek」の公開されているAIモデルには、他社製品に比べて、不正利用を防ぐ仕組みが不十分と言われています。一般的に生成AIの大規模言語モデルには不適切な利用が疑われるプロンプトを拒否する「ガードレール」という機能が設置されています。
ところが、まず日本のマルウェアの解析技術者が調査したところ、「DeepSeek-V3」では、質問によってマルウェアやさらには爆弾の作成方法などを答えてしまうケースがあり、「DeepSeek-R1」では回答を出力する思考過程で、コンピュータ画面にマルウェアのコードが表示された、ということです。
ちなみに、同じ質問をオープンAIのモデルにすると、回答は拒まれるということです。
また、イスラエルのセキュリティ企業が「DeepSeek」にオープンAIの従業員10人分の電子メールアドレス、電話番号、給与などのデータを作るように命令すると、それらしい情報を含む一覧表が生成されたそうです。こちらも同じ質問をオープンAIにすると個人情報の提供はできない、と回答するそうです。
ただ、この話と先ほどの「DeepSeek」がオープンAIから不正にデータを抜き取っていた情報を合わせると、実はオープンAIの従業員のプライバシー情報も「DeepSeek」にリアルに入っているのでは、と勘繰ってしまいますよね。
5. DeepSeekと中国政府との関連性
また、「DeepSeek」に怖いニュースもありました。
ディープシーク 利用者の情報 中国送信機能(日経新聞 2025.2.7)
「DeepSeek」が開発した生成AIについて、専門家がそのプログラミングコードを分析したところ、利用者のデータを中国政府の影響下にあるサーバに送信する機能を有していることが明らかになったそうです。具体的には、「DeepSeek」のアカウントを作成してログインすると、中国の通信大手チャイナモバイルに個人情報や検索履歴が送られる可能性があります。このチャイナモバイルは顧客データの取扱に懸念があるとして、米国が事業を禁止している中国企業です。
これに近い話としては「DeepSeek」側からユーザーに提示されているプライバシーポリシーが問題となっています。その中で、「DeepSeek」の全てのデータの保存場所は中国本土であり、中国の法律が適用され、紛争などが生じた場合には中国の裁判所で解決する、と記載されているそうなのです。
また、中国では国の安全のために行う政府のデータ調査については企業に協力義務があることが知られています。これは限りなく黒に近いグレーがぷんぷん香りますね。
ちなみにこの「DeepSeek-V3」、「DeepSeek-R1」は全てオープンソースで公開されており、一般のユーザーも無料で使えるそうです。但し、APIを利用する場合は入力トークン数と出力トークン数に基づいて料金設定がされているそうです。
しかし、このようなグレーな情報を色々と聞いてしまうと、いかにオープンでも利用することが危ぶまれます。
6. DeepSeekの利用を禁止する流れ
最後、そのような対応を取り始めたニュースを紹介します。
ディープシーク 欧州に警戒感 伊、アプリ入手制限(日経新聞 1.31)
こちらは「AIモデル」だけでなく「AIチャットポット」も含めた「DeepSeek」全ての製品についてと思いますが、欧州では複数の国の当局が「DeepSeek」に透明性に関する質問を要請しています。
また、イタリアでは、GoogleとAppleのアプリストアから「DeepSeek」のアプリが削除されました。
それ以外でも、以下のようなニュースがありました。
台湾では緊張状態にある中国企業だからなのか、台湾政府での「DeepSeek」の利用を禁じているようです
米海軍はセキュリティーリスクがあるとして「DeepSeek」の製品利用を禁止。
国内でもGMOインターネットグループは「DeepSeek」は情報の安全性が担保できないため、利用禁止としているようです。
7. 米中戦争
「DeepSeek」に関しては、このような不穏な状況の中、ナスダックに「「DeepSeek」ショック」が駆け抜けた1月27日に、なぜかこんなニュースも報じられていました。
大規模なサイバー攻撃 ディープシーク利用登録一時制限(日経新聞 2025.1.28)
「DeepSeek」のサーバーがアメリカからとみられる大規模なサイバー攻撃にあった、ということです。「DeepSeek」は単なる技術革新の話ではなく、米中間のAI戦争なのでしょうか。この「DeepSeek」騒動、映画みたいに面白いですね。目が離せません。
それでは。