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透明プレパラート(理科人の詠める稚拙なる和歌)

昔書きためていた和歌の真似事のようなものを、ここに保存も兼ねて記します。

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平行線の行き尽く果てを無限遠点と定義せし夢多き数学者あり

目眩覚ゆ数の深淵は人間てふ奥深き魂にこそ宿らん

一次元の意伝えんと白墨もて黒板に直線引きし老数学教師ありき

無限なる循環小数割れども尽きず恐ろしきまで

女神より毎夜半ダースの定理受信せしインドの数学者あり

宇宙の透明な闇を近似せし音列はバッハかな

宇宙の調和覚えしは鍵盤四季星の軌道かな

平行の合せ鏡の間(ま)に立てば無限に続く我に慄く

阿僧祇那由他不可思議と無限を想う人の心ぞ果てなき

透明プレパラート載せ接眼レンズ覗く君の凛とした横顔忘れ難き

秋の陽光プリズムに受け純粋な七色を眺めん飽きもせず

青白きシリウスの光寒夜に瞬く生命あるもののごと

ペガサスの四辺形巡り来てまた秋の訪れを知るらん

エメラルドグリーンの瞳亜麻色の髪もて恋の遍歴せしロシアの女流数学者あり

入試に敗れ恋に破れ決闘に敗れしも神の如き理論創造せしフランスの数学者あり

言葉操るより前に我計算しおりと豪語せしドイツの数学者あり

骨肉の争いそのままに互いに牽制し闘いしスイスの数学者一家あり

世紀の難問解きしのち栄えある賞も辞退し見ざる言わざる聞かざるとなりしロシアの数学者あり

億年の時間一瞬にして氷りつきしごとあり黄金の琥珀のなかの蜻蛉よ

天窓の微光受け秘かに呼吸始めんと思ほゆアンモナイトの化石の群よ

真夜中の天体観測独りにても淋しからずや星の光が心の友なれば

理由もなく己が身体のみは透明の如き気がしておりし幼少の頃

土星の環初めて見し夜はブリキの玩具の如き姿に虚を突かれし

腸内細菌見て人間も宇宙てふ一の生命のなかの細菌と変わらずと思ほゆ幼少の頃

手にとれば数秒の命なるも天の意匠の如き六方対称の雪結晶に永遠を覚えん

ひらひらと舞い降りる冷たき雪のひとひら我執といふ熱病も冷やさんかな

七色スペクトル微かに反射せし雪片恍惚として眺めん

水といふ物質の美しさ神秘なる振舞いに森羅万象を統べる大いなる存在を予感す

水といふ物質なかりせばなべての生命存在しえず有り難きかな

周期表の整然たる秩序眺むれば想い宇宙の調和へと誘われん

数学とは生命の燃焼であると岡先生云ふ

数学に命賭け得る才能と決意持てし人は幸せかな

ニュートンの「光学」ひもとく眩しき雪景の一日

真昼のアルクトゥルス薄水色の空にダイヤモンドの如く輝けり

数論幾何天文音楽の自由四科への憧憬は畢竟宇宙への郷愁なり

全宇宙を掌のうえの小さき透明球に射影したきは如何なる感情なりや

冷たく澄みし玻璃の夜空に微かに浮かぶは冬銀河

耳には聴こえずも音する如く天空に大円弧描くはオリオンかな

億年の時間旅し来し星の微光我が網膜に結像す

素数ゼータの音楽は宇宙の鼓動数学の美しき夢は膨らむ

宙宇は絶えずわれらに依って変化すると賢治云ふ

吹雪の襟裳岬に立ちておれば卒然として距離の観念失せにけり

星の名を呼べかし意識は光年の距離を超え汝と一つになるらん

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