映画「マチネの終わりに」を観て
美しい音楽と風景、言葉に包まれながら、甘くてほろ苦い大人の物語。
愛がメインテーマではあるものの、単なる男女間のそれではなく、過去と未来の生き方、幸せにとって望んだ形でなくとも。愛はそれぞれに必要な形で残り続ける。
■こんなタイミングにおすすめ
・レイトショーにちょうどよい
館内は30代男性お一人での鑑賞も多いように感じました
■こんな人にオススメ
・ふらっと映画を観たい人(原作を読んでいなくとも楽しめる)
映画を観てその情景を浮かばせながら、原作を読むのが好きなのですがそれにすごく合いそうな作品です
・観る人の立場、考え方によっていろんな解釈ができる映画が好きな人
もう一度観たくなる映画の必須条件と思いますが、恋愛がテーマでありつつも仕事、政国際問題、時間(年齢の重ね方)など様々な角度から物語が織り成されているため、観る場所や相手によって違った気持ちを抱けます。
■物語のあらすじ
※ネタバレも含みます
※映画公式のあらすじと個人の感想をMIX
ジャーナリストの小峰洋子(石田ゆり子)と世界的なクラシックギタリストの蒔野聡史(福山雅治)の会話を出会い、再会、邂逅の3つの時間軸で展開されます。出会いは心が通じ合いながらも洋子に婚約者がいる事実に対して、大人の対応を見せて別れる。再会は、フランスで自爆テロの現状をジャーナリストとして伝える洋子に蒔野が安否を確認するメールを送ったところからより惹かれ合い、洋子は大きな決断を下す。そして、邂逅。お互いそれぞれの人生を歩みながらも、最後は二人の出会いの原点である場所と音楽を通して、お互いの愛を確かめ合う。6年の歳月で、付かず離れず、でも別々の道を歩む二人、幸せとはなにか、愛のゴールは何なのか?
■感想
・まずは早苗
ここはネタバレも大いに含みますが、物語のキーパーソンとして蒔野のマネージャー(後の妻)である早苗。彼女は、蒔野の才能に惚れ込み、彼のためなら何でもすることを決めた女性。
劇中も洋子と蒔野の会話を遮ったり、蒔野のiPhoneから別れのメッセージを送ったり、洋子の電話番号として自分の電話番号を渡したりして二人の想いを引き裂き、蒔野と結婚、子どもにも恵まれる。
挙句の果てに、罪悪感から開放されたいために、離婚して親権も失った洋子のもとにアポ無し突撃し、「全部、私がやりました(蒔野のために)。私は、幸せです」と宣う始末。
最も敵対視される主人公とヒロインを邪魔する存在として、これまでの映画の中でもトップクラスのクオリティーでした。
蒔野のためといって浅慮で短絡的な犯行(あえてこのワード)に手を染めたのは百歩譲って、何で結婚した?支えるは分かるけど、それだとただの嫉妬じゃない?(実際、ただの嫉妬)というイライラと、それに至るまでの蒔野の鈍感な対応(同じ男性として同情する場面も多々あり)も相まって、早苗に対する愚痴だけで酒が進みます。
・早苗の存在を通して、愛の理想形をどう捉えるか**
上記は、洋子の報われなさや蒔野の後悔に対する共感もあってそのやり場のない消失感を怒りに昇華して、ぶつけるべき存在=早苗として脳内処理した上で、エンディングの二人の表情から、私はこう考えました。
二人は理想の距離感を悟った。
一般常識としては、結婚(場合によっては出産まで)が愛のゴールであり、家族を愛し合いされながら毎日笑い合って過ごすのが愛の理想形であり、その視点では二人の愛は叶わなかった、と言えます。
しかし、結婚も出産も言ってしまえばライフイベントの一つでしかなく、それがなかったから愛が成立しないというわけではないと感じました。
**「もし洋子さんが、地球のどこかで死んだって聞いたら、僕も死ぬよ」**
二人の愛の理想形は、このセリフに全てが凝縮されているような気がしていて、**毎日同じ場所で一緒にいられるわけではない、話をできるわけではない、互いに守らなければならない現在がある、でもあなたが世界のどこかで生きていてくれる、それだけで良い。**
そんな純粋で無償の愛、「容疑者Xの献身」の好きな言葉で**「人は時に、健気に生きているだけで、誰かを救っていることがある」という表現がありますが、その誰かが洋子にとって蒔野であり、蒔野にとって洋子である。それだけで二人は、これから過去を慈しみながら、お互いを支えに生きていけるのではないかと思います。
■結末が「べき論=正解」でないのが素敵
いわゆるハッピーエンドともバッドエンドとも言えないアンニュイな結末であるものの、それ故に感想を言い合ったり、自分のことに置き換えて回顧したりと一度の鑑賞で長く楽しめるのが、「マチネの終わりに」の素敵なところです。
また、景色や音楽(Spotifyでオリジナル・サウンドトラックあり)は映画の後に体験したくなるので、そういう意味でエンターテイメント性の高い映画でもあります。
↓ 物語の冒頭(コンサートのアンコール)で蒔野が弾いているのが2.大聖堂 第3楽章、エンディング(コンサートのアンコール)で弾いているのが3 幸福の硬貨
■終わりに
映画に感情移入して、感情発散させたい(対象は早苗)、失恋してしまった、とりあえずボーッと映画観たい、福山雅治が好き、石田ゆり子が好き、音楽・パリの景色が好き、伊勢谷友介のCOCO塾を彷彿とさせる英語が好き(違、等、ラブストーリーと言ってもそこまでドロドロしていないので敷居高くなく、誰でも楽しめる映画だと思います。
ぜひ、ご覧いただいて解釈を語り合えればと思います
PS… 主人公は蒔野ですが、文章はあえて洋子メインで書きました。同じ選択でも、女性側がリスクが大きい(離婚や親権、仕事など)もあって、このあたりは、戒めとして。