【米政治】前代未聞のトランプ前大統領起訴、2024年大統領選にどう影響?
トランプ氏の起訴をがNY大陪審決定、罪状は不明。トランプ氏「歴史上最大の政治的迫害だ」と強く反発
トランプ前大統領が30日に大陪審の議決を受け検察に起訴された。今後戦いの場は裁判所に移ることになる。4月3日にトランプ氏が直接出向き初出廷と罪状認否を確認する予定。最終的に陪審員が審議し有罪か無罪か評決する。起訴に際しては、共和党からは司法当局を非難する声が、民主党からはトランプ氏を非難する声が相次ぐなどアメリカの党派対立が激化、2024年の大統領選をにらんだ動きが加速している。
(4月5日追記) トランプ氏がNY裁判所に初出廷し行われた罪状認否の中で、口止め料に関する事業記録改ざんの罪など34件の罪に問われていることが明らかになった。
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トランプ氏「元ポルノ女優への口止め料」問題で30日に起訴される
アメリカのドナルド・トランプ(Donald J. Trump)前大統領がおこなったとされる、2016年の大統領選の2週間前に不倫相手の元ポルノ女優ストーミー・ダニエルズ氏に対して口止め料として13万ドル(約1700万円)を自身の顧問弁護士マイケル・コーエン氏を通じて、支払ったとされ、ニューヨーク州マンハッタン地区検察が捜査していた問題について、起訴を許可するか決める抽選で選ばれた市民から成るニューヨーク州大陪審は30日、起訴を決定した。
これについてトランプ氏は30日に声明を発表し、捜査を担当していたマンハッタン地区検察の検事で民主党系のブラッグ(Alvin Bragg)氏を「恥ずべき検事」だとし「ジョー・バイデンの汚れ仕事を手がけている」と痛烈に批判した。また、起訴について「これは史上最悪の政治的迫害と選挙妨害だ。民主党は、まったく無実な人間を訴追するという想像を絶する行為に及んだ。この『魔女狩り』はバイデンにとてつもない形で跳ね返ってくるだろう」と述べていた。
トランプ氏の弁護士スーザン・ネケレス氏はトランプ氏が起訴されたことを認めた上で、同氏は無実であり「政治的起訴」に法廷で激しく戦うことを主張した。
4月4日初出廷、起訴内容「重罪」含む約30件
現在トランプ氏はフロリダ州の別荘「マールアラーゴ」に住んでおり、4月3日にはニューヨーク市に移動し、4月4日に初出廷し、刑事事件の手続きとして、指紋採取や顔写真の撮影が行われ、起訴された罪について認めるか認めないか表明する罪状認否がおこなわれる予定。その後今後の裁判日程の調整や渡航制限、保釈の条件などについて話し合われた後、保釈される予定だ。
通常、被告人は法廷で手錠をかけられ、世間へのアピールと犯罪予防の一環として捜査官とメディアの前に登場し撮影させる演出の「パープ・ウォーク(perp walk)」(《和訳》犯罪者の連行(引き回し))行う場合が多いが、元大統領ということやシークレットサービスによる警備上の都合、トランプ氏にかえって「司法の政治利用」がおこなわれてしまう可能性などこの件は政治的に慎重を要するものであるため今回は行われない可能性が高いとされている。
起訴された罪状について、通常罪状認否まで明かされないため定かではないものの米メディアによれば、元ポルノ女優への口止め料をトランプ氏の親族の企業トランプオーガナイゼーションにおける弁護士費用として不正に会計処理したことが犯罪隠ぺいするための財務記録改ざんにあたっているとされる。
トランプ氏の弁護士の1人、ジョー・タコピナ氏はトランプ氏も弁護団も「起訴に驚いた」と述べ、検察へ捜査や公判に協力する見返りに刑の減免や刑事免責を求める、司法取引に応じるつもりはないと述べ正面から検察と対決し「無罪」を主張する姿勢を示した。また、起訴自体について不当であるとして複数の「意義申し立て」を用意しているとしており、「裁判の打ち切り」を主張する可能性がある。またトランプ氏は有罪かを判断する陪審員に民主党支持者が多く含まれる可能性が高いと指摘し、民主党支持者の多いマンハッタンからニューヨーク市でも共和党を支持する声が強いスタテン島に公判場所を変更することを求めている。裁判が始まるまでにも時間がかかりそうだ。
4日の午後2時15分ごろに予定される罪状認否が終わり、保釈の条件に関する宣誓を行った後、保釈される予定だ。
元検事などはトランプ氏が仮に「有罪」判決が出たとしても罰金刑になる公算が大きく、懲役刑になる可能性はまずないとしている。それゆえ、トランプ氏はよほどのことがない限り裁判期間中に身柄を拘束される可能性はないと言われている。
トランプ派集結で危機感高まるNY・マンハッタン
4日の出廷ではニューヨーク市内も物々しい雰囲気になりそうだ。31日からニューヨーク市警察(NYPD)は職員全員をすでに出勤させ不測の事態に備え厳戒態勢を敷いている。31日時点ではマンハッタン周辺での抗議デモはそこまで活発化してはいないが、今後は大規模なデモが行われる可能性がある。マンハッタン裁判所周辺の道路などを閉鎖するなど警戒が続く。
トランプ支持派でQアノンなどの陰謀論者で知られる共和党マージョリー・グリーン下院議員(Marjorie T. Greene)が31日に明らかにした内容によれば、「魔女狩りを止める」ために4日にニューヨークで抗議デモを行うことを明らかにした。
トランプ氏は起訴が決定される前の声明で、起訴された場合「死と破滅」が訪れる可能性があると警告。トランプ氏の独自のSNS「トゥルース・ソーシャル」の中で「米史上どの現職の大統領よりも多くの票を獲得し、共和党の(圧倒的な!)最有力候補である前米大統領を犯罪で告発することができるのはどんな人間なのか」と述べ、「犯罪を犯していないことは誰もが知っており、そのようなえん罪によって生じる可能性のある死と破壊は、米国にとって壊滅的な事態をもたらすおそれがあるのではないか」と示唆している。
またトランプ氏は2日に事務所を通じ、4日に罪状認否を終えたのちフロリダ州パームビーチの邸宅「マールアラーゴ」で午後8時15分から演説を行うことを表明し、フロリダに一斉にトランプ氏の支持者が集結する可能性もある。演説の中で再び支持者に抗議を呼びかける可能性もあり、同氏やその支持者の行動のエスカレーションが懸念される。
元ポルノ女優「(トランプ氏起訴は)誇らしい」英紙タイムズのインタビューで
トランプ氏と2006年から不倫関係があり、同氏から2016年の大統領選直前に秘密保持義務の引き換えに口止め料を渡されるなど、今回の事件の主要人物の一人の元ポルノ女優ストーミー・ダニエルズ(Stormy Daniels)氏〈本名:ステファニー・クリフォード(Stephanie Clifford)〉は今回の起訴について、「画期的だ」として評価し歓迎していることを、3月31日掲載のイギリスの新聞タイムズ紙のインタビューで明かしている。
「トランプはもう手出しできない存在ではない」とし、今回の起訴について、「その背景には、国民の分断が深まり、武器を持って立ち上がる人が増え続けていることがある。彼はこれまで、うまく暴動を扇動し、死と破壊を引き起こしながら罰を免れてきた」とした上で、「権力者にも法律が適用される」と述べて、初めてトランプ氏の刑事責任を問うことになる今回の起訴の意義を強調した。
一方で「結果がどうであれ、暴力が起き、死傷者が出るだろう」とも述べて、今回の裁判がトランプ氏の支持者により妨害される可能性を指摘していた。
2018年にダニエルズ氏は2006年からトランプ氏と不倫関係にあったことをメディアで告発していて、性的関係が始まったのはトランプ氏の3人目の妻メラニア・トランプ夫人が息子バロン・トランプを出産した数か月後であったとしている。
今回のトランプ氏起訴を受け、ダニエルズ氏は身の危険にさらされていると主張していて、英テレビのインタビューを31日に予定していたが延期している。具体的には、SNSなどで罵詈雑言を浴びせられたり、殺害予告を受けていることを明らかにした。「トランプ氏自身が暴力をあおり、助長しているので、なおさら怖い」と述べ、トランプ氏がその支持者をけしかけて自身を攻撃しているとして非難した。
起訴に関する各党の反応 「起訴」に共和党は反発・民主党は歓迎、沈黙のバイデン氏
トランプ氏の起訴について、民主党は歓迎する姿勢を見せる議員が多くいる一方で、共和党は起訴について非難する声が目立った。大統領選挙や中間選挙でも明らかになった激しい社会の分断が再び顕在化した形だ。
ただ、両党の中でも反応に微妙なグラデーションがあり、民主党のバイデン大統領はいまのところ反応することを控えていたり、共和党内でもおおむね起訴に至った司法当局の対応について非難する一方で、トランプ氏への支持については口を濁すペンス前副大統領のようなものも少なくない。共和党も民主党も一枚岩ではなく、2024年の大統領選を見据え、それぞれの思惑が入り乱れる。
マッカーシー下院議長、ペンス前副大統領、など共和党の反応
共和党のケヴィン・マッカーシー(Kevin McCarthy)下院議長は、「アルヴィン・ブラッグは、大統領選への介入を目的として、この国に回復不能な損害を及ぼした」とし、ブラッグ検事について「彼は日常的に凶悪犯罪者を自由にし、国民を恐怖に陥れている一方で、この国の神聖な司法制度を武器にしてドナルド・トランプ大統領を狙った」と痛烈に批判。「下院はアルビン・ブラッグと、彼による前例のない権力乱用の責任を問う」として、下院議長としてトランプ氏を擁護したうえで援護射撃をおこなった形になった。2021年のトランプ氏支持者による連邦議事堂襲撃事件などの際に暴徒を制止するようマッカーシー氏(当時下院共和党院内総務)とトランプ氏(当時大統領)が電話協議を行った際に怒鳴りあったとされるなど、心の底からトランプ氏を支持しているとは思えないが、今年1月の下院における下院議長選出に際してはトランプ氏がマッカーシー支持を呼び掛けるなど、政治における戦略的パートナーとみなしていると思われ、今回のトランプ氏起訴に関しては極めて同氏に擁護的だ。
またトランプ政権では右腕の副大統領として政権を支える立場にあったマイク・ペンス(Mike Pence)前副大統領も今回の司法当局の判断に関して批判的だ。
CNNの番組の中でトランプ氏の起訴は「暴挙」であり「国に対する大きな不利益」としたうえで、「世界の独裁者や権威主義者が自国の司法制度の乱用を正当化しかねない。そうした状況を非常に不安に感じる」とのべ司法当局の対応が政治性を帯びることで、司法制度への信用性が揺らぎかねないと危機感をあらわにした。
ただしペンス氏は2020年の大統領選挙で副大統領が議長を務める上院が最終的に選挙結果を認定する際に、トランプ氏が選挙結果は不正であるとして覆すことを要求したことを無視してバイデン氏の大統領当選を確定させたことで、トランプ氏やその支持者から「裏切り者」として罵詈雑言を浴びたことや2021年の暴徒による議事堂襲撃の際は命の危険にさらされるなど、トランプ氏とはもはや犬猿の仲だ。
それゆえ、今回もトランプ氏に苦言も呈しており、「法廷で自分の面倒は自分で見られるはずだし、今はそれに集中すべきだ」と述べ抗議デモを呼び掛けるべきではないと主張するなど、トランプ氏との距離感が透ける。
下院院内総務のスティーブ・スカリス氏(Steve Scalise)も今回の起訴について「言語道断」とした上で「過激な民主党員が政敵を攻撃する武器として政府を利用していることを明確に示す一例だ」と述べ、起訴に関わったブラッグ検事が民主党員(アメリカの州の検察官は選挙で選ばれブラッグ氏は民主党候補として立候補し当選した。)であることをもとに今回の起訴は政治的なパフォーマンスと断罪した。
ポンぺオ前国務長官、テッド・クルーズ上院議員ら共和党議員からも「政治的起訴で法制度の悪用」の声
トランプ政権時代国務長官を務めた重鎮マイク・ポンぺオ氏(Mike Pompeo)「重大犯罪での起訴はアメリカ人を安全に保つが、政治的な起訴はアメリカの法制度を悪用の道具だと思わせる危険性がある」と述べ、起訴を批判。
テッド・クルーズ(Ted Cruz)上院議員は「司法制度の武器化における破滅的エスカレーション」と述べ、その他にも共和党執行部の女性若手のトランプ派議員エリス・ステファニック氏(Elise Stefanik)も「魔女狩り」として批判、共和党唯一の黒人議員ティム・スコット(Tim Scott)上院議員や、昨年11月共和党上院トップのミッチ・マコネル氏(Mitch McConnell)との上院の院内総務の選出をめぐりトランプ氏推薦で立候補し敗北したリック・スコット(Rick Scott)上院議員らもトランプ氏起訴に反対した。
彼らの反応からわかることは、トランプ派と呼ばれるトランプ氏を強烈に支持する議員らは当然ながら同氏の起訴に批判的かつトランプ氏を全面的に肯定的である一方で、共和党の反トランプ派や共和党の中でもミッチ・マコネル上院院内総務などの長老ら伝統的な保守派、そしてトランプ派にも伝統的保守派にも属さない中立派は、トランプ氏がというよりも共和党所属の大統領経験者が政治的な立場が対極にある民主党の現職大統領およびその政権に「政治的な思惑」で起訴された可能性があることが問題だというスタンスをとっている。
デサンティス・フロリダ州知事やヘイリー元国連大使など共和党内の反トランプ派や中立派の反応
トランプ氏と距離を置くその他の共和党の大物たちも同様の反応を示している。
トランプ氏から敵視されるフロリダ州知事で共和党内でも次期大統領候補と目される若手のホープ、ロン・デサンティス(Ron DeSantis) 氏は「非アメリカ的」とした上で「政治的な課題を前進させるために法制度を武器に変えるのは、法の支配を根底から覆すものだ」とツイートしている。加えてニューヨーク州の司法当局に現在フロリダ州在住のトランプ氏の身柄引き渡しを要求された場合も協力しないことを明言した。
両親ともにインド人でインド系の出自をもち、トランプ前政権では米国連大使を務め、前サウスカロライナ知事で今年2月に大統領選出馬を表明している保守強硬派の二ッキー・ヘイリー氏(Nikki Haley)も反応している。ツイッターの中で、トランプ氏の起訴は「正義というよりも復讐」だと短文でツイート。またFOXニュースのインタビューでは、「(トランプ氏を起訴した)ブラッグ検事は政治的な得点稼ぎをしようとしていた」とし「ニューヨークの政治家の政治的報復の相手をするよりも、国民の関心事を議論したほうが国はよくなるだろう」と今回の起訴は政治的なもので議論するほどのものではないと一蹴した。ヘイリー氏も公の場で議事堂襲撃を批判しトランプ氏について「あまりに落ちぶれてしまった」と批判を行うなどトランプ氏にかつて仕えながらも袂を分かち、反トランプ派に転向した人物の1人だ。
このタイミングで大統領選出馬表明の共和党反トランプ派ハッチンソン・前アーカンソー州知事
前アーカンソー州知事のエイサ・ハッチンソン(Asa Hutchinson)氏は、トランプ氏の起訴が発表された際、「前大統領の起訴はアメリカにとって暗黒の日だ」とし批判していたが、起訴は不当であるとまで踏み込まなかった。
そして、この機に乗じる形で、2日には2024年の大統領選挙への出馬の意向を表明。トランプ氏には2020年の議事堂襲撃事件の責任があるとして、共和党の候補者指名争いから同氏が退くべきだと主張した。「1月6日(議事堂襲撃事件の起きた日)は、われわれの民主主義や権力移行を損なった。受け入れ難いことであり、トランプ前大統領は大きな責任を負っている」と述べ、トランプ氏は大統領として不適格だとした。
トランプ起訴で一致団結する共和党
興味深いことに、共和党内のトランプ派と反トランプ派が行動原理や思惑は全く異なるにもかかわらず、トランプ氏の起訴に反対で結束を見せていることだ。共通の憎むべき敵「民主党」を前にしたからだろうか、共和党は驚異的なそして奇妙な団結を見せつつある。
また反トランプ派がこの機に乗じてトランプ叩きに走らない訳は他にもある。今や共和党は「トランプ党」ともいうべき事態に陥っているからだ。2016年にトランプ氏が大統領選挙に当選するという番狂わせが起き、共和党のそれまでの伝統的な保守政治家たちの支配構造が一機に崩壊し、ほとんどの議員がトランプ氏や同氏の支持者らの支持がなくては選挙に戦えなくなるなどトランプ氏の影響力が高まっていた。そういうこともあり、心の中でトランプ氏をよく思っていなくても、表ではトランプ支持を公言する「隠れ反トランプ」の議員は一定数いるといわれる。
民主党の動き
一方民主党はこの件では2つに大きく分断している。ここであまりトランプ氏を表立って非難することで2016年の大統領選の二の舞になるとして表立って発言することを控え距離を置くグループと、ここぞとばかりに徹底的にトランプ氏を糾弾しようとするグループだ。
ナンシー・ペロシ(Nancy Pelosi)前下院議長は「法の上に立つ者はおらず、誰にでも無実を証明する裁判を受ける権利がある。前大統領がその権利を認めている制度を平和的に尊重することを願っている」と述べ、トランプ氏への直接的批判は避けつつも、今回の起訴を支持した。
またジョー・バイデン(Joe Biden)大統領は記者団などにトランプ氏の起訴について問われても「ノーコメント」を貫き、言及を避けた。今回共和党などから浴びせられている「司法の政治利用」との批判を、自身の不用意な発言でエスカレーションさせてしまうことを避ける狙いがある。
民主党の上院院内総務の チャック・シューマー(Charles “Chuck” Schumer)氏は「トランプ氏の批判者と支持者の両方に、司法プロセスが平和的かつ法に従って進行されることを求める」とトランプ支持者と反対派双方の冷静な対応を求めた。
民主内で強まる対トランプ主戦論
一方、民主党内にはトランプ氏に攻撃的な声も強い。
アダム・シフ(Adam Schiff)下院議員は「大統領経験者の起訴と逮捕は、米国史を通して類を見ないことだ。それと同時に、トランプ氏が嫌疑をかけられているような内容で、大統領経験者が不法行為を問われるなどという事態も、アメリカの歴史で類を見ない」とツイッターで発言。トランプ氏を名指しで非難。
コーリー・ブッカー(Cory Booker)上院議員も反応。「私たちの法制度の根幹は、正義はすべての人に平等に適用されるという原則だ」として、「法を超えた者などいない」と発言。大統領経験者のトランプ氏にも正義は下されるだろうと挑発した。
ジャマール・ボウマン下院議員はツイッターで「(これは)彼への犯罪責任追及の始まりに過ぎない」と投稿。「トランプ氏は、ジョージア州の選挙結果を不法に覆そうとし、連邦議事堂で暴動を扇動しようとした。どちらも、彼のファシスト運動を推進し、政府を打倒するためだった」と述べた。
ジェイソン・クロウ(Jason Crow)下院議員もトランプ氏の起訴について「わが国にとって憂鬱な日」だったとし、「トランプ氏の起訴は、誰も法の上にいないこと、法の下で適正な手続きと平等な保護が与えられていることを示している」と評価した。
また、民主党内でも冷静さを保つよう呼びかける声もある。ブライアン・シャッツ上院議員は、「(トランプ氏の)起訴状を読む前に自分の意見を表明しなければならないという規則はないことを思い出してほしい」と述べ、トランプ氏への攻撃は時期尚早であるという認識を示した。
民主党は反トランプで一致しているが、戦略で足並みそろわず
民主党は表面上反トランプで結束してはいるが、対トランプ戦略をめぐり足並みが乱れている。
2024年の大統領選挙を前に、バイデン大統領らやペロシ氏らなど民主党執行部に近い主流派は、今後の裁判でトランプ氏が自滅するのを静かに見守ることで、同氏の挑発に乗り2016年の大統領選のように話題がトランプ氏で持ち切りになるのを避けたいという狙いが透ける一方、非主流派の民主党議員らはトランプ氏への復讐心から同氏の起訴を絶好の機会と捉え攻勢を強めたい思惑がある。
2期目続投を目指し波風を立てたくないバイデン大統領と、次回の大統領選を見据え民主党内の指名争いに向けトランプ氏への強気の姿勢を有権者にアピールしたい党内の非主流派との間で駆け引きが始まっている。
混沌(カオス)化する米国政治と2024年大統領選
2024年の大統領選をめぐり、民主党や共和党の対立構造は顕著になっていると同時にそれぞれの党内での対立も先鋭化している。
一番最悪のシナリオは両党で過激な主張や意見が良識派や穏健派を淘汰し、極端な2項対立に陥ってしまうことだ。共和党をトランプ氏が完全に掌握し、民主党ではバイデン氏やペロシ氏のような中道かつ穏健派が影響力を失いトランプ氏やMAGA(トランプ氏の標語Make America Great Again: 再びアメリカを偉大に、の略だがここではトランプ支持者のことを指す)を激しく攻撃する者が民主党を掌握することだ。
すでにアメリカ社会は世界でまれに見る社会的に分断された国家であるが、この先の民主党や共和党内の動きによっては取り返しのつかない、決定的な政治的破滅を迎えることになるかねない。一部識者はアメリカで内戦が生じる可能性を指摘する声もあり、実際、国際政治学者イアン・ブレマー氏(Ian Bremmer)が社長を務めるアメリカの調査会社ユーラシア・グループが2022年に発表した『世界10大リスク』の(PDF文書で閲覧できるので興味のある方は参照されたい)中で3位は米国の中間選挙があげられ、2023年のものでも8位に米国の国内政治がランクインしている。2022年の同文書の中で、注目に値するのは米国内政治の混乱が武力衝突を伴う内戦に突入する可能性が指摘されている点だ。現時点では根も葉もない話のようにも見えるが、アメリカは銃の所有が憲法で認められ容易に武器を入手できるし、2021年の議会襲撃で多くの人間がワシントンD.C.に集結し一部は銃やナイフ、バットなどを持ち込み体制の転覆を試みたということもある。
両極端な思想が社会の多数派になれば、そこに妥協や対話はなく対立と衝突しか残らない。SNSのエコーチェンバーなどを通じ自らの思想や考えをより極端にし、やがて武力でしか自らの政治的目的を達成できない、という考えに至る。
実際、ワシントンポストとメリーランド大学の2021年12月の調査によれば
(興味がある人は参照してほしい。日本語であればBusiness Insiderの記事が分かりやすい)
なんと全体の約1/3を超える(34%)米国民が市民の政府に対する暴力(行為)に賛成している。同様に、共和党支持者で40%、民主党支持者でも23%が支持するという結果だった。
既に政府を転覆したいと考える人やその意思、手段(武器)、火種(政治的対立)の3点がそろってしまっている。
2024年の大統領選挙ではバイデン大統領が出馬するのかしないのか、トランプ大統領は出馬するのか、いやできるのかといった短期的な問題もあるが、それはあまり重要ではなく本質的にどうアメリカ社会が融和できるか、現在の分断を癒し、すべての国民が政治に信頼をもてるようにできるのか、民主主義を守れるのかが問われている。
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