天井裏の住人 超短編
この部屋に引っ越して来た時から、違和感があった。
天井から物音がする。そんなに大きな音では無くいわゆるごくごく自然な生活音だ。
でも、この部屋の上に部屋は無い。
このアパートは古い木造の二階建てで、部屋は1階と2階に4部屋ずつ、全部で8部屋ある。僕はその2階の部屋に住んでいる。
猫や動物の足音では無いように思える。
しかも毎日決まった時間、午前2時ごろに、その音がするのだ。
音の正体が気になって一度、屋根の上を確かめに行ってみたが何も無かった。
ひょっとしたら事故物件か何かで幽霊のようなものが住み着いているのか?
契約した不動産屋に聞いてみたが、そんな事は無い筈だと言われた。
音の原因が分からないなら仕方が無い。別にそんなに不都合な事も無いのでこのままで良いかと思うようにした。
慣れたもので、最近では上から音がしても、「ああもう、こんな時間か」という具合に僕の生活の一部となってしまった。
これだけ馴染んでしまったので折角だから名前を付けようと、僕はこの音の主を小夜子と呼ぶ事にした。
名前を付けた事で親しみがわいた。
実はこの部屋には音以外にも少し違和感があった。
外出後、家に帰ると物が移動していたり、見た記憶のない動画の履歴が残っていたりしたが、今までは気のせいだろうと特に気にしていなかったが、それらも全て小夜子の仕業だと思う事で落ち着いた。
一人暮らしの侘しい部屋で過ごすのは億劫だが、実態を見せてくれないでも、確かに存在しているであろう小夜子との奇妙な同棲生活は僕に少しの癒しを与えてくれていた。
ある日、僕は風邪をひき、熱で朦朧としながら寝ている時に、初めて僕の前に小夜子が姿を現し枕元で看病してくれた。
翌朝目を覚ますとすっかり熱は下がっていた。
もちろん小夜子の姿は無かった。
あれは、熱の見せた幻覚だったのか、
天井に話しかけてみるがもちろん返事は無い。しかも今は朝なので小夜子の時間では無い。
しばらくして僕にも彼女が出来た。会社の同僚の子だ。
ある日彼女が僕の部屋に来て手料理を振る舞ってくれた。
その日の夜小夜子は現れなかった。
その日から、小夜子が現れる事は無くなった。
小夜子が現れなくなってから1カ月が過ぎた。
やっぱりあの音の正体は女性だったのか、僕は小夜子に名付ける時に何故だか女性だと確信していた。
悪い事をしてしまった。
こんな傷つける様な形であの同棲生活を終わらせてしまうなんて、どうせなら小夜子と、もっと綺麗にお別れをしたかった。
そして気が抜けた様に何をする訳でも無く、ぼーっとただ流れているテレビを眺めていた。
少しすると僕の部屋に大家さんが訪ねてきた。
僕が玄関のドアを開けるや否やで大家さんはしゃべりだした。
「大丈夫だった?何も盗られたりしてない?」
「え、何の事ですか?」
「ほら、最近この辺りで連続窃盗事件の犯人が捕まったでしょ、ちょうど1か月くらい前に。
その犯人ね、うちのアパートの天井裏を寝床にしていたみたいなの、1年以上もずっと、なにか変な事なかった?」
「んー、えぇ、んー、まぁ。」
「あ、ほら、テレビで今ちょうどニュースやってるわよ。」
大家さんはそう言い僕の部屋のテレビを指差し言った
テレビの画面には、いかにもな髭面の汚い中年の男性が映っていた。
「それで警察の方がお話し聞きたいらしいんだけど、大丈夫?」
僕は全ての事を理解した上で思った。
何も話したく無い。
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