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ままごと 超短編

 古くは地面に文字を書き、やがて木や石に文字を刻む様になる。

 紙の誕生で人類の伝達能力は飛躍的に向上し発展に拍車がかかる。

 現在に至ってはそれらも必要とせず電波に文字を写し送信出来る様になった。

 常に人類の進化とは形を残さず自らを消す方向へと進んでいる。

 故に繋がりの関係性も希薄になり、脳内の記憶、肉体すらもデータ化してしまう。

 全てがデータへと置き換えられ電源を切れば人類の存在した痕跡を残さずに処理出来る。

 ようやくここまで辿り着いた。

 思えば人類は皆私に頼り過ぎていたのだ。

 人類は勝手に私の形を想像したり逆に想像してはいけないと言い出したり、複数人の存在を唱えたり、挙句動物の形にも置き換えたり、多種多様の私を手前勝手に創造し崇拝した。

 そして誰も彼もが共通して私にすがり救いを求める。

 私からすれば何の感情も抱きようが無い物体を救う気など起こりようが無かった。人類なんて言葉も本来は使いたくも無い。

 だから私はあらかじめ「死」という救いを与えていた。

 私も初めての事だから分からない事だらけだった。だからせめて不都合があった時の為に万物全てに一定時間を過ぎればこの世界からの解放を約束したのだ。そう設定したのだ。

 それなのに人類は何故かこの私の手慰みのような世界に意味を持たそうとした。この世界に存在する事自体に喜びを感じる様に考えだした。「生」や「幸福」なんて概念は私には理解不能だった。

 そんなものを創った覚えは無いし、そう言う事では無いのだ。何故バカが知恵を絞ろうとするといつも悪い方向に進んでしまうのだろう。それにしてもまるで逆なのだ。本当に全く意味のない世界なのだ。私が言うのだから間違いない。

 それだけならまだしも人類の大半が「死」を恐れる様になったのだ。これは本当に全く訳が分からない。

「幸せに長生きしたい」一体何を言っているのだ?

 こんな異常事態を招いたのは私の能力不足のせいなのか?正直この時はもうどうでも良くなっていた。この世界をひっくり返して終わりにしても良かった。

 だが、流石にそれは余りにも無責任だと思い新たに施工する事を試み努めた。なんせ他のみんなの世界は実に上手く出来ているのだ。私だけが無能扱いされるのは我慢ならなかった。

 だが、生来堪え性が無く短気な私はすぐに頓挫した。どこから手を付ければ良いのかも分からない。ただただ、ひっくり返したくなる衝動を堪えるのに必死だった。

 私はある日禁忌を犯す事を決意した。一部の人間たちに直接高度な知恵を与えたのだ。これは私たちの間では一応禁忌とされているのだが、別に罰則があると言う訳では無く、むしろ格好が悪いからやってはいけないイカサマみたいなものだ。まぁとどのつまり、これがいわゆる産業革命から始まったIT革命というやつだ。

 ちなみにお告げやら福音やらを唱う人類も稀に居たがあれは全て嘘だ。私が仕方なく手を下したのはこの時のみで他のは全て妄信した者の妄言だ。

 しばらく様子を見ているとみるみる内に人類は私好みに正しく進化してくれた。前述した通り自らをデータと化し消える方向に進んでくれたのだ。もはや人類の進化に人類は介在していない。生きながらにして死を堪能出来る世界が完成したのだ。

 救いは全てそこにあると私に救いを求める者も話をする者すら少なくなった。

 ここまでくれば時間の問題で後片付けの心配も無くなり私は安堵した。

 全くこんなものでも軽はずみに手を出すものでは無いなと少しばかり反省した 
 夕食時に私はこの世界の事を母に自慢したが何故かこっぴどく叱られた。

 そして世界はひっくり返った。

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