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禁煙 超短編

 俺は今日停学になった。3日間の自宅謹慎、自宅学習らしい。
 理由は高校の近くでタバコを吸っていたのが見つかったたからだ。

 両親にはもうタバコを吸うのは止めなさいと言われたが、それ以上は特に怒られ無かった。

 3か月後にまたタバコを吸っているのが見つかって停学になった。今回は一週間だった。

 流石に両親に怒られた。

 何故タバコなんて吸うんだ?別に若いうちから吸わなくても大人になってから好きなだけ吸えば良い。身体にも悪いし背も伸びないから、とにかく止めなさい、と。

 違う。
 まるで逆だ。早く成長したいから吸うのだ。

 俺は早く大人になりたかった。

 テレビの中では俳優やミュージシャンがいつも格好良くタバコを吸っている。教授と呼ばれている人も先生と呼ばれている人もタバコを片手に激論を交わしている。

 タバコは大人の象徴だ。

 タバコを吸う事で手っ取り早く大人になれる。

 高校を卒業して大学に入ってからも当然の様に俺はタバコを吸い続けた。大学生にもなると基本的に誰にも怒られる事は無い。
 駅や映画館やレストラン、何処でも自由にタバコが吸える。

 俺は少し大人の仲間入りをした気がした。

 社会人になって少しした頃、周りの人間が少しずつタバコを吸うのを止めだした。
 健康志向ブームなのか?

 健康など、どうでも良いし関係無い。俺はまだ途中だ。

 そんな気持ちとは裏腹に街ではどんどん喫煙出来る場所が減って行った。

 禁煙席と喫煙席に分けられたかと思ったら、次々と喫煙席自体が無くなり、店ごと、ビルごと、気が付けば、街ごと、国ごとタバコが吸えない様になっていた。

 思い返せば先進国を中心に禁煙を始め、それを進めていた。

 そう、彼らは成長する事を止めたのだ。

 発展途上国では相変わらず昭和時代よろしくでプカプカ吹かしている。

 つまりタバコとは人類にとって、ボディービルダーのプロテイン、アイドルの美容整形みたいなもので成長と進化の象徴そのものなのだ。

 言わばバベルの塔だ。皆が高みを目指して上に、天に向かって背伸びをする。

 小さな自身を大きくする事が出来るのだ。

 いや、バベルの塔ならば積み上げ過ぎれば、いずれ崩されてしまう。

 なるほど。
 だから、禁煙か。

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