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王座 超短編
北の山の上には、遥か昔からそびえ立つお城がある。
この国は代々王が中心となり治めていた。初代の王から今の王まで代々受け継がれてきた事は、王の仕事はまず王座に座る事だと教えられた。
王座に座ることが一番の使命なのだと、王座に座る為にはまず、それに値するに相応しい人物にならなければならない。ありとあらゆる知識を身につけ国全体が幸せになるような政治をしなければならない。
民の支持を得れなければ王座には座れない。
また王座に座り続けるためには強くなくてはならない、弱い王もまた民の支持を得る事は出来ない。その為には武芸の鍛錬も怠ってはいけない。
民の事を第一に考えれば王座に座るとはどういった事なのかが見えてくる。
王座を通して民を見つめなさい。だからこそまず王座に座る事から始めなさい。そして、座り続ける努力をしなさい。
そして、たちまちに国は栄えていった。
初代の王の言いつけを守り、民を大事にする王を皆は慕い日々懸命に働いた。他国から攻め込まれた時も王と民が一体となって戦いこの国を守り抜いた。
そんな噂を聞きつけてか、遠方からも、わざわざこの国に移り住む者も現れた。他にも商売をしに来る者、芸術を志す者、様々な人々がこの国を、そして王を慕い集まった。王も新たに集ってくる民を快く受け入れ歓迎した。
そして益々この国は繁栄した。
いつの時代も繁栄を極めるとほころびが生まれる。それは主に為政者の驕り高ぶりから生まれがちだが
ある日、隣国から大群の兵が送り込まれてきた。
人々は混乱し逃げ惑うばかりだった。混乱に乗じて盗みを働く者や乱暴する者まで現れる始末だった。
かつてのように王と共に戦うような民は一人もいなかった。
王は常に王座に座る事だけを考えていた。明けても暮れてもそればかりに努め、政治や鍛錬などはおざなりにしていた。
民はそんな王に呆れていた。全く馬鹿の一つ覚えだと。もっと国全体の事を考えて欲しいものだと。
代々引き継がれていた初代の王の言いつけは代替わりで伝える度に少しずつ変化していたのだった
例えば、こんな話がある。由緒正しきお寺で本堂の炎を絶やす事なく消さないように日々皆が気を配っている。でも、なぜこの炎を絶やしてはいけないのかと尋ねると、理由はよく分からないですと返答された。
伝統や文化には案外こんなことが多い。なんとなく続けられ守られている。
こうして200年以上続いた初代の王からの伝言ゲームは終わりを迎えた。
やがて城にまで火が回り始めた。城内も混乱し皆が我先にと避難した。
だが、王は王座から動かなかった。王は王座に座り続けた。
王は生まれてから王座に座る事だけを学び育った。王は王座に座り続ける。
ほどなくして城は敵の攻撃により落城した。
隣国の兵士たちは、民も家臣たちも逃げ出したこの国に、もう価値は無いと城にある金や財宝を全て持ち出し引き上げていった。
国はかつての繁栄が嘘のように一夜にして景色を変えた。荒れ果てた城で一人、王は王座に座り続ける。
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