ゴジラ 超短編
「あの、ゴジラってあえて景気が悪い地域に現れがちなところありませんか?」特捜部隊員のヤナギがキタノ隊長に尋ねた。
「いや、そんな事は無いだろう。気のせいじゃ無いか」キタノ隊長は訝しそうにモニターを眺めながら隊員に答える。
「いやでも、まんざら与太話でもなさそうですよ。これを見てください」隊員のホシザキが手元のタブレットを操作しながらキタノ隊長に見せる。
タブレットにはゴジラに襲われた街がどれも破綻寸前の経済状況だった事が示されている。
「確かに赤字続きの地域に現れていますね。でも、まさかゴジラがここは景気が悪い場所だから暴れても良いだろう、なんて選ぶ事はないだろうし」
「でも、偶然にしちゃ出来過ぎてる気がする、ほら、やっぱり今回の街だってそうだ」ヤナギがホシザキのタブレットを指差しながら言う。
「これが本当だとすると、ある程度事前に対策が打てるかもしれませんね」ホシザキも続いてキタノ隊長に言う。
「ふむ。確かに一考の価値はあるかも知れないな。だが、ゴジラはもうすぐそこまで来ている。今は皆作業に集中するんだ。分かったな!」そう一括するとキタノ隊長は作戦本部室から出て行った。
作戦本部室には緊張が走り皆がまた手元に目線を戻し作業を再開した。
「でもさぁ」間も無くヤナギがスッと立ち上がりまた発言を始めた。
「どうせ、こんな兵器たちじゃどんな作戦を立ててもゴジラを倒す事なんて出来ないじゃないか。ってか、そもそも最初から倒す気なんて無いんじゃないかな」
「どう言う事だ?」隊員のカサマツが聞き返した。
「だって本気で倒すつもりならもっと強力な兵器なんていくらでもあるじゃないか。環境への配慮とか核の問題があるにせよ流石に用意されてる兵器はショボ過ぎる気がする」
「じゃあなにか?あえてゴジラを生かしていると言うことか。そんな事になんのメリットがあるって言うんだ?現に多くの街はゴジラに壊滅されている。ヤナギは少し穿って考え過ぎだぞ」カサマツはヤナギに席に戻る様に促す。
「いや、カサマツそれは少し違うかも」ホシザキが得意のタブレットを操作しながら言う。「確かにゴジラに攻撃された街は壊滅的打撃を受けている。が、漏れなく壊滅まではしていない。むしろその後、急成長を遂げている。なんだったらゴジラが襲来する前より景気は良くなっているんだ」
「じゃあなんだ?ゴジラは福の神か何かだって言うのか?荒地に花をってか?そんなバカな話ってあるか」カサマツは不機嫌そうに両手を仰いだ。
「なるほど、それだと全てが一本の線に繋がるな」ヤナギが目を見開き話す。「ゴジラが現れる街も倒さない理由も、ゴジラに利用価値があるからだ」
「ん?」
「前に聞いた話だが、戦争ってのは賠償金や領土拡大だけが目的では無い。単純に破壊自体が目的な場合がある。カサマツこれってどう言う意味だか分かるか?」
「んー、ナチのホロコースト的な事か?」
「いや、この場合それとは少し違う。ホシザキは?」
「そうだな。まぁ復興が目的だろうな」
「ズバリ!資本主義経済ってのは生産と消費を繰り返して回すもんだ。つまり生産し続けなければ破綻してしまう。じゃあ生産するものが無くなったらどうすれば良い?そう、破壊だ。破壊すれば、また生産が出来る、経済は回る」
「いや、でも、そんな理由で戦争なんて起こせないだろ。それこそ国民どころか全世界から爪弾きにされる、、だからゴジラか」カサマツも目を見開いた。
「そう、だからゴジラだ。誰もが認める絶対的加害者のゴジラは破壊を叶えてくれるどころか全ての汚れ役まで担ってくれる。ビンラディンより優秀な戦士な訳だ」
「となると、そんな判断を下せるのは俺たちよりもっと上の組織、国、政府か」そう言うとホシザキは得意のタブレットを置くと自身のパソコンに向き直って慌ただしくキーボードを叩き出した。
「あんた達いい加減にしなさいよ」ずっと黙っていたニシカワがようやく発言した。同時にホシザキはキーボードを叩く手を止めた。
「なんだよ、じゃあニシカワはどう思うんだ?」
「馬鹿馬鹿しい。本当男って幾つになっても男の子なのね。第一仮にそうだとしてどうやってゴジラを自在に操れるって言うの?ムツゴロウさんみたいな人でも居るのかしら?あんな荒くれ者を制御出来る訳無いでしょ。ほら、もうやめなさい」
「んー、そうか!ゴジラは政府の作った新型兵器なんじゃないか?」ヤナギは更に目を見開き人差し指を立てて言った。
「本当に馬鹿ね。あのね、そんなモノが許される訳無いじゃない。常識で考えなさいよ。あんた達良い大学出てるんでしょ。注告しとくけど、これ以上この話を続ける気なのなら私は上への報告義務があるから」
「え?いや、報告って、別に」「ヤナギ、このくらいにしておこう」ホシザキがヤナギを制す様に言った。
「賢明ね。私たちの仕事はこのショボい兵器をやりくりしてゴジラをいつもの様に撃退する。それだけよ」ニシカワはそう言い淡々と作業を進めた。
次の瞬間、作戦本部室の扉が開きキタノ隊長が戻ってきた。
「どうだ?作業の進み具合は?」
「はい!順調で有ります」ヤナギが威勢よく答えた。
「ふむ、まぁそのようだな。あーヤナギ、さっきの話だけどな、あのゴジラが景気の悪い地域になんたらってやつな」
「は、はい」
「後で上の人間が詳しくお前の意見を聞きたいそうだ」
「上の人間って?」
「まぁ行けばわかる。今回の作戦が終了次第連行、じゃない、案内するから、その心積もりでいろ」
「承知致しました」
カサマツ、ホシザキは顔を強張らせながら真っ直ぐ作業に集中する。
ニシカワは一人深くため息を吐いた。