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この秋のプレイリスト 3 【YUI It's happy line】


景色というものは、いつかは変わってしまう。
悲しいことだけど、自分が歳を重ねる中で、周りも同じように時は流れる。たまに吸血鬼くらい変わらない人とかもいるが、その人たちだって歳はとっている。

先日、福岡天神の待ち合わせスポット「大画面」がリニューアルするというプレスリリースが西日本鉄道より発表された。

2008年に福岡に来てから今まで、あそこは「大画面」だという認識でしかなかったので、ステージ広場ビジョンが正式名称だと初めて知った。
今のサイズのビジョンが、9倍の大きさに変わるそうだ。
大画面って、言うほど大きくないよねぇという福岡県民が心の中で抱いていたモヤモヤが、ついに近い将来解消される。
と、同時に「大画面」の景色が変わってしまう寂しさを覚えた。

街は常に変化し、進化している。
天神の景色は、福岡市の尽力により実現した高さ規制の緩和により、「天神ビッグバン」という名の再開発が行われている。
西鉄本社の入っていた福岡ビル(TSUTAYAによく行ってたしビアガーデンも行った)や、天神コア・天神ビブレ(シアトルズベストコーヒーのお姉さんが好きで友達と通った)などがどんどんと生まれ変わり、渡辺通りの景色も常に変化が起きている。

学生時代は、バイト代が入れば大名に洋服を買いに行き、背伸びしたオシャレを楽しんだ。
新卒から数年は天神で働いていた。上司との飲み会で飲みたくない焼酎をこっそりほぼ水まで薄めて飲んで先輩にこっそり怒られたのもこの街。終電まで仕事して、バスで帰りまたバスで通った。だんだんめんどくさくなって、車で行くようになった。
毎日観ていた景色も、転勤や退職でなかなか拝むこともなくなった。
その後再度福岡に戻ってきたが、天神は働く場所から行く場所になった。
いろんな感情をこの街の至る所にタイムカプセルのように埋めてきた。これから、掘り起こすことはできるのだろうか。
変わっていったのは、天神だけではない。
いつまでも同じ景色なんてものは存在しない。
ただ、その時の流れが割と小さく、緩やかになる場所は確かに存在する。


福岡出身の歌手はたくさんいて、特にカリスマ的人気を誇る女性歌手が多い(主観)。
間違いなく日本の音楽界のトップを取ったといえる浜崎あゆみさんや、わが国を代表するアーティストの1人となった今もなお、福岡を想い歌う曲も多い椎名林檎さん。
僕らの同世代でちょうど、思春期に少年から大人にかわる(©️徳永英明)ころに、キラキラと輝きを放っていたのが、YUIさん。

デビューシングル「feel my soul」がいきなり月9ドラマの主題歌。鮮烈なデビューから映画「タイヨウのうた」で映画主演。役名を含んだYUI for 雨音薫名義のGood-bye Daysは映画の表題曲にもなり、流行曲となった。あの頃の女子高生は多分みんなカラオケで歌っていたと思う。
その後も「Rolling star」はアニメ主題歌、「CHE.R.RY」はauの音楽サービスのCM曲となり、彼女の代表曲にもなった。(CMにも登場して、出窓に座ってアコギを弾き歌う姿が印象的だった)

デビューから華々しく、当時のティーンの代弁者として活躍した彼女が、デビュー前にインディーズからCDを出した曲が「It's happy line」。地元九州限定で1,000枚だけ販売された楽曲だ。
この曲も後に「YUI for 雨音 薫 」名義でタイヨウのうたにも登場する。
そして、この曲にはPVが存在する。

彼女の育った福岡が舞台で、アコースティックギターを掻き鳴らし歌うPV。
漁港の防波ブロック(※1)に、天神へと繋がる、西鉄の終着駅(※2)、電車が走り、いくつかの工場が後ろに見える田んぼ道(※3)、かつての彼女の姿そのまま、天神の街中でギター1本で座り歌う姿。

「誰の為に生きているの?
  さえない日々を過ごして
   弱さも痛みも
    どのくらい感じてるの?」

彼女がこの町で過ごした時間は、豊かで楽しかった思い出ばかりではないだろう。

「何を信じていけばいい?
  見えない日々を過ごして
   どんな夜を見ても
    もう暗い顔しないで」

いろんな葛藤、本当ならば高校に通う歳の彼女も、これから東京に出て、ひと足早く1人のシンガーソングライターとして社会に出る。

「明日への想いを胸に
  赤い目を見て
   笑ってみたの」

「Tomorrow never knows,It's happy line.」

優しい歌声と歌詞と裏腹に、
少女の小さくも力強い、決意表明。
明日?んなもんなってみなきゃわかんねえよ、かかってこいや(超意訳)

自分自身で勝負する覚悟の現れ。
この町のいろんな場所に、いろんな気持ちや覚悟を埋めてきたのだろう。
もしかしたら、単に町内でそれなりに画が映えてる場所で撮った、それだけなのかもしれない。ただ、20年が経ちこの町の景色は、大きく変わった。
現に、PVの中でもサビを歌う印象的な(※3)の映像の場所には新駅が建ち、町の中央公園が整備され、マンションが建ち、そしてちょうど彼女の歌っていた場所にはIKEAが建った。

それでも、彼女が埋めた感情はまだその場所に埋まってくれているのだろうか。

なんだか、よくわからないけど
大画面のニュースをみて、夜の散歩をしながらなぜだか聴きたくなったこの曲。

そんな、よくわからないことを思った夜だった。


【参考】
(※1)防波ブロックの漁港(新宮漁港)

(※2)西鉄の終着駅(西鉄新宮駅)

(※3)かつて田んぼ道だった場所(IKEA福岡新宮)


(おまけ)
YUIさんのサインが飾ってあるお店(酒のNAGASAKI)


デビューのきっかけになったオーディションを主宰していたカラオケ(サウンドパーク新宮店)



⭐︎今日の一曲⭐︎
YUI  - It's happy line

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