夜中の本屋さん

大きな満月の夜。トラオさんは、「今夜、本屋さんに、一緒に行く?」とタルボットの声をかけた。
「うん、行こうかな」とタルボット。

トラオさんと一緒に30分くらい、道を右に曲がり、左に曲がり、坂を降りて、橋を渡って、少し坂をのぼると、夜中の本屋さんに着く。小さな木戸をトラオさんが開けるので、タルボットは足元をすり抜けて、中に入る。
庭にはたくさんの敷物が敷かれて、その上に本が並べられている。色とりどりの光が、たくさん並んで吊り下げられているから、タルボットには、ちょっと眩しい。
店主のナオさんが出迎えてくれる。「いらっしゃい、トラオさん。タルボットちゃん、元気?」カビや埃のにおいとともに、ふわりと花のにおいがする。
お客さんは、トラオさんとタルボットのほかに、5人くらい。みんな、しゃがみこんで、気に入る本をさがしている。

タルボットは、黒やピンクや青に、銀色や金色でキラキラに彩られた本を手に取る。表紙には、読めない記号が並ぶ。開くと、小さな読めない記号がたくさんと、馬車や城、山の影が描かれている。次のページを見ると、ひげをはやして、ゆらりと立ち上がる、ワニのような、へびのような影。ひゃああ!と思わずタルボットは声をあげる。なんだろう、これ?
ナオさんがそばに来て、それはリュウと呼ばれるものだと教えてくれた。タルボットは、やっぱり詩集の方がいいやと思う。変な絵におどかされなくて済む。

タルボットが選んだのは、きれいな緑色の布の表紙の本。トラオさんは、どこかの国の女の人が、横をギロリとにらんでいる写真がついている本を選んだ。それに、小さな本が、紐で縛られているものを一連なり。

ナオさんは、タルボットにビスケットとお水をくれた。「いい本を選んだのね」とナオさんは言う。「それは、あるおじいさんが、毎日起きたことを書いた本よ。」
ふうん、とタルボットは思う。タルボットが気に入ったのは、おじいさんと孫の虫取の話。夏の森のなかで、二人は黙って、足を水に浸すのだ。

帰り道、トラオさんは、ご機嫌だった。これで、お客様が飽きずに過ごせるからね、とトラオさん。そんなにたくさんお客様が来るわけでもないのに、とタルボットは思う。でも、ビスケットはおいしかった。橋を渡りながら、また行きたいな、とトラオさんに言う。そうかそうか、タルボットも夜中の本屋さんが気に入ったか。また行こうねえ、とトラオさんは笑う。

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