夜と友人と会話
夜に野暮用で近くに来た友人と散歩をした。
外は涼しくて一年の内の希少部位などと言われている数日だろう。
話ながら歩いて、歩道橋の上まで上がった。
自分は歩道橋に上がって立ち止まる時、どちらか眺めたい方がある。
その時も、眺めるならどっちの方角か?という話をした。
何となく真っすぐ伸びている方を見たくなるね、という結論に達した。
自分は街に向かっていく方を見たくなるけど、
友人は山に向かっていく方を見たくなるようだった。
それから不意に一人の女性が酒を片手に上って来たと思ったら
「こんにちはー」
と声をかけてきた。
自分と友人はわずかに驚いたが、「こんにちは」と返した。
その後彼女はまた「こんにちはー」と言う。
陽気な人かと思って、「すみません、お邪魔してます」と返した。
その後彼女はまた「こんにちはー」と言う。
さすがに3度も挨拶されると何を返したらよいか分からない。
仕方ないので、友人と会話を続ける。
彼女はしばらく横で反対の方角を眺めて酒を飲んでいたが、やがて降りていった。
彼女はどんな特性を持つ人だったのか2人でしばらく会話をしていた。
もしかしてこの歩道橋は彼女の行きつけだったとしたら悪い事をしたと思う。
それから歩道橋を降りてまた歩き始める。
その時間には特に街というわけでもないこの地元にも
ぽつぽつと外で過ごしている人がいる。
1人で、あるいはカップルで、または数人の仲間で。
ここ最近外で場所を選ばずたむろする人が増えた気がすると友人が言う。
自分もそう思う、それも意外と若い子が多い。
自分はそれはきっと、彼らの野性がそうさせるのだと自説を話した。
何故なら彼らがたむろしている、何もないそこには、大分前にはベンチがあったのだ。
駅前のその場所にあったベンチにはいつしか住所不定のような人々が集まって日向ぼっこをして酒を飲んだりしていたのだけど、
だんだんとその人数が増えてきた時、苦情があったのだろう、ベンチは撤去されたのだった。
そしてそこは騒がしさと共に表情も消え、人々がただ通り過ぎるだけの場所になった。
友人と、子どもの頃よく遊んだ公園に入って近道にして歩いていく。
昔あった遊具は何一つ無い。
ブランコも、すべり台も、砂場も、サッカーをする壁も、バスケゴールも。
そこはフェンスに囲まれた、ただの場所になっていた。
誰も傷つかない場所を目指し、公共には何も無くなったのだと思える。
そうして傷つかない代わりに、表情も無くなったのだ。
今何も無くなったその場所で、経緯を知らない世代が集まりだしている。
野性の勘で思うのだ。「何かここに座りたくね?」と
今無くなってしまった公共の空間を、本能で欲しているんじゃないか。
あった頃を知っている人々よりも強く。
そんな勝手な会話をして夜を歩き続けた。
何とその日はその後もあの歩道橋で会ったビール姉さんに3度も遭遇した。
3度目に見た時は歌っていた。
彼女も何かを感じて夜に歩くのだろうか。