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#47 「産業医の中立性と独立性にモヤモヤ」

産業保健もやもやハレハレ

この番組では、産業保健についてモヤモヤするけれど、身近に語れる人がいない!そんな孤独な産業保健職と一緒に、現場にありがちなモヤモヤを3人のパーソナリティと共に深掘りしてみます。


「パーソナリティの最近のモヤモヤ-よーた編」のもやもや🌥️

いが 今日はよーたさんと2人で「最近のモヤモヤ」について喋っていきたいと思います。よーたさんがモヤモヤしているらしいので、お話しいただければと思いますけど、いかがですか?

よーた 今に限ったモヤモヤではないんだけど、今日はいがちゃんと僕だけのせっかくの機会なので、“産業医“に焦点を当てて、その中立性と独立性に関するモヤモヤを話したいなと思ってます。

いが ほうほう笑

中立性と独立性とはなんぞや?

よーた 厚生労働省の産業医に関する資料でも一番最初に書いてあるし、様々な参考書にも「産業医は中立性と独立性を保つんだ」という書き方があったり、ガチ産業医のノートにも書いてあったり、、

よーた 有料記事だからあまり読めないんだけどね笑

いが 笑笑

よーた でも産業医として、中立性や独立性ってかなり根底にある概念なので、それぞれがどう考えてたり解釈しているのかを話したいなと思ってます。まず僕のモヤモヤから言うと、産業医の理想系としては確かに中立性や独立性があってもいいよなとは思いながらも、僕の本の「産業医はじめの一歩」でも川島先生と書いたんだけど

川島先生はどっちかというと中立性のところに倫理感を強く持たれていたけども、私は中立性をなくした形での考え方がそもそも本質的な話として産業医にはあるんじゃないかなと思ってるんですよね。だけどみんなが中立性とか独立性っていうもんだからちょっとモヤっちゃうみたいな。ここについていがちゃんどう思う?

いが 僕がめちゃめちゃ大好きな話題ですね😍

よーた そうなの?笑

いが 大好物っす😋

中立性<独立性?

よーた 産業医科大学の先生たちは意見分かれるの?もしくは中立性、独立性の一本なのかでいうとどんな感じなの?

いが 産業医大でも統一したことは言ってないと思います。僕の出身教室では、「中立性」という言葉を使わずに「独立性」だけっていう感じですね

よーた なるほど。独立性だけっていうのはどういう意図なの?独立性っていうと、確かに中立とはちょっと違うなと思いながらも、例えば、独立した監査みたいな感じで捉えるイメージかな?

いが そうですね。確かに外部者っぽいところもありますが、厳密に言えば「独立性」は労働者とか使用者から判断の干渉を受けないというか、産業医としての自分の考えに基づいて意見(助言・指導・勧告)を言うっていう意味合いも含めてると思うんですよね。例えば、監査法人みたいな。もしくは裁判所の裁判官たちが、両方からの訴えに関してどっちかに偏った判断をしちゃいけないわけです。この辺りが独立性としてイメージしやすいと思います。

よーた それは「中立性」と何が違うの?

いが 「中立」は真ん中っていうイメージで日本人は使いがちなんですけど、さっきのよーたさんの本にも書いてあるように、確か記憶では川島恵美先生が労働者と使用者が50対50、よーたさんが51対49って書いてたんでしたっけ?

よーた いやいや、僕は9対1だよ笑

いが そうか(笑)産業医の中でも、使用者対労働者は、51対49、50対50、9対1とかいろんな話がありますよね。「中立性」はどっちによるのか?真ん中に立つのかという文脈で使われてるんだけど、厳密に言えば「中立性」はどちらにも干渉しないっていう意味なんですよ。スイスは中立国として戦争国のどちらにも加担しないじゃない。つまり加担しないことで「中立性」を守るっていうことなので、両方に口出ししないっていう立場ですよね

よーた なるほどなるほど、それは面白いしわかりやすい。

いが 一般的には「中立性」っていうと、中間に立ってどちらにもフェアに関わるみたいな感じで使われていると思うんですけど、そうではなくて、本当の意味での「中立性」ってのは、どちらにも干渉しないし、その代わり向こうからも干渉してくるな、という立場です。でも、産業医の場合はちょっと違うじゃないですか。産業医ってどちらにも深く関与するし、両方からフェアに情報を収集しながら、なるべく産業医として独立した判断とか、職業倫理に立ち返った上で判断をすることが求められるので、そういう意味だと「中立性」よりも「独立性」という言葉の方が適してるよねって僕らは考えています

お金を企業からもらっているのになぜ独立性と中立性を担保できるんだ?

よーた なるほどね。確かに「中立性」って言葉の中に、労働者と使用者のそれぞれに対して消極的な意味があるのであれば、確かに「中立性」はそぐわないなと。一方で、「独立性」って言葉にも、さっきいがちゃんが「何らかの問題が発生した時に独立した判断で、産業医は職務を全うする」っていうような多分言い方をしていたと思うんだけど、それも僕は違和感あるんだよね

いが おお?

よーた なんでかというと、例えば法律では “事業者は〜“ みたいな主語があるじゃない。その “事業者は〜“ という主語の文章の中に “産業医は〜“ って役割が明記されていることを考えると、我々は企業が目指す方向性の中の一つのピースとしての役割だから、独立もクソもねえじゃんと思うわけよ

いが ふむふむ

よーた だって “企業が“ 労働者の安全と衛生に関するところを考えなきゃいけないわけで、手段として例えば健康診断、ストレスチェックみたいなものがありますと。その際に専門家である産業医に事後措置含めてやらせなさいよという文脈なので、 “事業者は“ っていう主語がある以上、そもそも産業医ってのはその中の一つのピースでしかなくて、独立した形で産業医はこれに対してどうのこうの〜、なんて書いてないわけ。って考えると、そのロジックからも独立性って言葉に違和感あるし、給料も国からじゃなく企業からもらうって観点で考えても、やっぱり独立しようがないんじゃないの?って思っちゃうんだけど、いがちゃんどう思う?

いが いや、まさにそう思うでしょう

よーた 思うよね笑

いが 「給料もらってるんだから無理でしょう」とか、「もう企業の犬なんじゃないの?」って言われることすらあるよね(笑)僕は実際に経営層から「お金払ってるんだから言うことを聞けよ」みたいなことは言われたりもしますし、独立性を保つのって実際すごく難しいんですよ。

よーた そうだよね

いが でも、例えば監査法人も、企業からお金をもらいつつだけど、決して企業に忖度せずにやっているわけなので、お金をもらっているからダメではないと思う。それと、産業医はお金はある程度稼げるので、別にその会社をいつでもやめてもいいみたいな立場があるからこそ、産業医は独立性を担保できるのかな?って個人的には思いますね。

よーた 確かに産業医は公認会計士や監査法人とも似てるなと思った。お金は企業からもらいます、ただ、監査法人も独立性っていうものは極めて強く、金融庁からも求められてますと。・・でも実際、色んな粉飾に手助けしたりとか色々あるわけじゃない(笑)だから実態としては「独立」っていうより企業に寄り添ってるんじゃないかと思ってて

いが 笑笑

よーた だからそれが本質じゃないかなと思ってる。産業医も本来、その企業の事業活動に伴走しながら、企業で働く人の健康の課題っていうものに専門性を発揮する。で、その職務を全うする際の「倫理観」が「中立的な立場」とか「独立的な考え方」を持つだけであって、職務を全うすること自体は別に「独立性」でも「中立性」でもないと思ってんのよ。ここも違いはあるかなと思ってて。

いが なるほど

よーた 実際の産業医活動は働く人の健康を守ることで、これは企業から求められているから全うしましょうね、一方で、その意思決定の判断軸はどっちかっていうと「倫理的」で「中立的」な考えを持った方がいいよね、みたいな感じで "活動" と "判断" で僕は切り分けてる。だけど、ここをごちゃってしちゃうと活動自体も「独立性」や「倫理性」が必要だよね。それだとうまくいかない気がするんだけど?とか思っちゃうんだけど、同じこと言ってんのかな笑

いが 僕もよーたさんと同じことを思っているというか、大筋は一緒だと思ってて。例えば、企業の安全衛生をより良くすることの方向性は、事業活動の方向性と同じですよね。“企業は社会の公器“と言われる通り、社会のためになるような事業活動を支えていくんだと思うんです。普段からものすごく独立した態度を取り続けたら、そもそも事業活動に寄り添えないし、情報収集もできなければ、産業医としての活動も全然できないと思うんですよね。ただ、社会に反する、労働者の健康を害するような事業活動が行われるような、本当の意味で独立した判断を求められる局面において、自分たちの判断軸として職業倫理に基づいて、独立して行動しなきゃいけない部分があると思う。ある局面においては、独立した態度・立場で物申さなきゃいけないんだと思いますね

よーた 結局、でもそれって別に産業医だけに限った話ではなくて、普通の社員も同じ倫理観じゃないかなと思うわけよ。だって、社員が不正を発見しました、その時に、じゃああなたは中立性・独立性の倫理観があるから報告しなさい、じゃないでしょ。当然ながら普通に働いている人たちだって思ってるのに、わざわざ産業医だけそれを強調して、職務の責務に載せる必要あるんですか?って思っちゃうわけよね(笑)もちろん、理由はわかるし、理解もするよ。事業活動の中で働く人がどんどん癌になってしまうと、それに対して会社は何も手を打たないと、その時は声を上げて、専門性の中で働く人の健康を守るためのアクションをしなさいよと、それもわかりますと。でも別に産業医じゃなくてもそうじゃんって

いが うん。でも例えば医者の守秘義務だってあえて強調して書いてるじゃん。ある程度守秘義務に準じた対応が求められる職種ってたくさんあるけど、その中でも特に強調しなきゃいけない職種ってあるから、それをあえて強調することが社会からの要請であり、社会的使命であり、我々の職業倫理上のものなのかなって、僕はそう解釈してますけど

よーた なるほどなるほど。つまり、極めて重要で当たり前なんだけども、産業医という専門性の中で、社会的にもそういったところを知らしめるというか周知徹底するっていうことが極めて重要であるという意味で、それを書いていると

僕らは法律のために仕事してるわけじゃない

いが あと、もう1つ。さっきよーたさんが法律では“事業者が〜”みたいな主語の話をしたじゃないですか。でも、あれってあまり関係ないと思ってて。

よーた なんでなんで

いが なんでかっていうと、産業医って確かに法律に規定されてるし、それに基づいて仕事してる人も多いと思うんだけど、本質的には、産業医は法律があるから存在するわけじゃなくて、社会のために存在すると思うのよ。もちろん根拠となる法律もあるよ。でも、我々の職業の使命は法律があるから生まれた存在ではないんですよ。法律が全てだたら、法律にすべて基づいて仕事をする、みたいに読み取れちゃうし、そしたら極論僕らは法令以上のことはしちゃいけないってことになっちゃうじゃないですか?それは産業医としての活動をあまりに狭めると思うし、職業も職業倫理も範囲を狭めてしまうと思うの。あくまで、法律は後付けとは言わないけど、僕らは法律のために仕事してるわけじゃないって感じだね

よーた 確かに、わかるわかる。言ってしまえば、あの法律はミニマムの産業医の職務を規定しているんだと思っていて。だから究極の話、産業医っていうルールみたいなものを作った時に、それはなんなんですか?って言ったらでもそれは法律なわけじゃない?

いが うーん、、企業の安全と健康を守る立場の人は、やっぱり独立した立場が必要なんだと思うんですよ。例えばインシデント・コマンド・システムという海外の危機管理標準システムでは、産業医に近いようなセーフティーオフィサーという機能はそのシステムにおいて指揮命令社(コマンダー)に直接ものが言える立場に置かれているんですよ。なぜなら、その人が忖度してセーフティーな発言ができないシステムになっちゃうので。なので、そういう独立した立ち位置はシステム上必要なんだと思うんですよね。法律云々じゃなくても、システム上セーフティーやヘルスに関することは、そういう立ち位置じゃなきゃいけないっていうのが僕なりの解釈ですね。

よーた うん、なるほど。だからその独立性っていう観点で考えると、逆に言うと、使用者と労働者の方向性をつなぐ役割でもあるわけだよね。つなぐっていうのは、労働者側の状況と企業側の状況を十分によく理解しながら、場合によっては対話を促しながら、働く人の健康が害されないような環境や仕組みを作っていきましょうねと。そこに産業医があるわけだよね。でもその環境自体は企業によって作られたりするわけなので、そう考えると、企業っていうのも当然ながら無視できない。かといって労働者側に100%振り切るかと言えばそういうわけでは絶対ないわけで。そういう観点で言うとやっぱり言ってること同じような気がしていて(笑) 僕の中では「独立性」・「中立性」って、専門職としての倫理観にのっとった形で確かにありますと。ただ、活動ないしは職務を全うするってなると、企業がいく方向性としっかりとアライメント、伴走していくっていうことを通じて働く人の健康をつくっていくと。ここを明確に分けた形で考えないと、産業医のアクティビティが変になっちゃうなってモヤってたんだよね

いが 分けるっていうのは融合させながら?

よーた そうね。でも融合すると、意思決定とか職務自体もすべて独立ですからとか言い始めるわけよ笑

いが そうだね笑

よーた 融合なんだけど、違う色が混ざってるってニュアンスに近いというかね。勝手に自分だけハレハレしちゃったけどね笑

いが このあたりって、まさにあえて強調しなきゃいけないぐらいものすごく難しいんだと思うんですよ。もともと事業活動って、リスクを取らなきゃいけない場面では健康や安全ってないがしろになりがちで、その中で専門性を発揮するってものすごく難しいことだと思うんですけど、産業医教育の中で独立性とか職業倫理に関する教育や研修ってものはほぼないし、業界の中での統一した見解っていうのはかなり少ないので、そういう教育や研修をもっとやらなきゃいけないんだろうなって改めて僕は思いましたね

よーた うんうん、なるほどね

「パーソナリティの最近のモヤモヤ-よーた編」のはれはれ🌞

よーた じゃあ一旦エンディングに行きますか?w

いが 今日はハレハレなしでいいか笑

よーた このテーマはそれぞれの産業医が自分らしく答えて模索していくことなのかなと思ってるんだよね。医師の倫理観もそうだけど、産業医としてのあり方みたいなところなので。勝手に私自身はハレハレしちゃいましたけども、いがちゃんはもともとあるからね。これを聞いているリスナーの方々もちょっとモヤモヤしながら、自分なりのハレハレしてくれたらいいかなと思ってます

いが それぞれがそれぞれなりに解釈して、業界でばらつきがありすぎるのはとても良くないことだとも思うんですよねー

よーた オッケーオッケー笑

いが 産業衛生学会の中でも職業倫理に関する指針はあるんだけど、ほとんど誰も見てないし、普及させようとする努力も足りないなと思っているので、みんなの解釈に委ねるってよりは業界としてちゃんと統一して持っておく必要があるし、そのための普及や教育研修は必要だと思ったのでそれをできるように頑張りたいと思います!💪

よーた なるほどね。おそらくそれが進まない最大の理由はみんな僕と同じようにモヤってるからと思うけどね。「お金を企業からもらっているのになぜ独立性と中立性を担保できるんだ?」っていう最大の論点がね(笑)とは言っても、それを善意ある活動としてやっていく必要があると思うので、ぜひ今後もいがちゃんに乞うご期待でございます!

いが はい!がんばります!

よーた ではエンディングにしましょうかね笑 今週も聴いてくださりありがとうございました!また次回お会いいたしましょう〜!

いが&よーた またね〜!👋



音声ソース

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