アドラー心理学の6つの特徴と活用方法
アドラー心理学は、オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラーが提唱した心理学理論です。
アドラーは「人間の行動にはすべて目的がある」という目的論とともに、「すべての人生の決定は、自分が選択している」と考えます。これをアドラー心理学の基本理論では自己決定性と呼びます。
たとえば、「この仕事をしたくない」と思っていても、最終的に「やる」ことを選択しているのは自分だという考え方です。
アドラー心理学を理解するために、重要な6つの特徴について理解する必要があります。
1、目的論:人間の行動には目的がある
目的論とは「人は自ら定めた目的に向かって動いていく」という前提を持った考え方です。目的論では、過去の出来事が現在を作り出しているのではなく、目的を達成するために、今の状況を作り出していると考えます。人は、どんなカタチでも「将来に対する夢」「なりたい自分」といった目的を持ち、自分の人生に意味と価値を与え生きています。
アドラー心理学では、この目的に向かって動くという、個人の内発的傾向に注目し働きかけを行います。もし、人は過去の出来事や外部の環境のみに縛られて今を生きているのであれば、過去に心の傷を負った人は、今も未来もその傷に縛られてしまいます。アドラーは、過去のトラウマは絶対的な存在ではなく、本人が意識的・無意識的に保持しているものであり、その目的を自覚することで変更する可能性が生まれるとしています。
目的が変われば、今の状況や自分を変えることができる。こうした自己決定の余地を生み出す目的論を採用し、アドラー心理学は自己をどのように変えていくのかを説いています。
2、ライフ・スタイル:人間の生き方には、その人特有のスタイルがある
ライフ・スタイルとは、人が生きる上で持つ、個人の考え方や価値観、行動の傾向などを指すアドラー心理学の用語です。生活の仕方を意味するライフ・スタイルではなく、どちらかといえば性格や性質に近い意味で使われます。
アドラーは、人は幼少期にライフ・スタイルの「原型」を身に着け、大人になるにしたがってライフ・スタイルを成熟させるのだと説きました。
ライフ・スタイルは、「自分のことをどう思うか(自己概念)」「他者を含む世界の現状をどう思うか(世界像)」「自分と世界についてどんな理想を抱いているのか(自己理想)」を包括したものとされ、環境や遺伝、家族構成などによってつくられます。
3、ライフタスク:「仕事」「交友」「愛」の3つの人生の課題
アドラー心理学は、あらゆる人生の課題は対人関係に集約され、その後3つのテーマに分類されるとしています。すなわち、「仕事の課題」「交友の課題」「愛の課題」であり、アドラーはこれらを称してライフタスク(人生の課題)と呼びました。
仕事の課題とは、労働を基軸に他者と関わることであり、交友の課題とは仕事から離れた対人関係を指します。そして愛の課題は、恋人や配偶者との関係性や親子といった家族の関係性を指します。これらの3つの課題は、時間が経つほど解決が難しくなるとアドラーは指摘します。
アドラーは、これら3つの課題はすべてが対人関係の課題であると考えました。人が悩むとき、これらのライフタスクのテーマに関連する対人関係の課題に直面しています。
4、課題の分離:人間関係を円滑にするには
「人間の悩みのすべては対人関係の悩みである」と説いたアドラーは、人間関係を円滑にするためには、他人の課題と自分の課題を分離する必要性を強調しました。たとえば、子どもが勉強しないとき親は心配のあまり「あなたのためを思って」というセリフで、あの手この手で勉強させようとします。
しかし、アドラー心理学ではこうした行為は他人の課題に土足で踏み込む行為であり、けして本人のためにはならないと指摘します。課題が分離できない状態では、他者の課題を抱え込み、現状が変化しないストレスに悩まされるばかりか、課題を抱えた本人の自立心を摘んでしまいます。
親子間で信頼関係が構築されている条件下では、親は「頼ってきたときはいつでも手助けしよう」という意思を伝えたうえで、見守ることが重要です。こうして親が子どもの課題を分離することで、はじめて子は「勉強しないこと」を「放置したら困るのは自分」として、自らの課題と考えられるようになります。
必要以上に他者の課題を抱え込まず、自分の人生を生きていく。その上で、お互いの役割を認めながらできるサポートをすることが、円滑な対人関係に重要だとしています。
5、承認欲求の否定:誰かの期待を満たすために生きてはいけない
人は誰かから必要とされているとき、「自分には価値がある」と実感します。しかし、アドラー心理学ではこうした承認の欲求を否定し、人は誰かの期待を満たすために生きてはいけないと指摘します。
アドラーは、承認欲求は「適切な行動をとったら褒めてもらえる、不適切な行動をとったら罰せられる」という賞罰教育によるものだとして、賞罰教育自体を批判しています。賞罰教育は「褒められなければ行動しない」「罰せられなければどんなことをしてもいい」という、誤ったライフ・スタイルの生産につながるというのです。
また承認欲求の否定は「ほめない、叱らない」という子どもへの接し方にも共通しています。アドラー心理学では、ほめることは「能力のある上の者が下の者に行う行為」であり、「操作」であるとされます。
つまり子どもが何かをしたとき、「よくやったね」「すごいね」と評価を与えるのではなく、「ありがとう」「助かったよ」と言う。こうすることで、子どもは承認欲求ではなく、社会や家族といった共同体への貢献を実感し、満たされることになります。
アドラーは、他者が自分をどう評価するかは、その他者の課題であるとします。
6、全体論:人間を分割できない全体の立場から捉えなければならない
アドラー心理学では、人を「共同体感覚」によって見なければならないとされます。これは、人々をバラバラの個体で考えても理解はできず、他者を仲間とみなし、横のつながりで共同体を形成することで、健全なパーソナリティを育むとするものです。
この共同体感覚の欠如によって、社会における子どもの問題行動や犯罪行為を増長すると、アドラー心理学では考えられています。
仕事でアドラー心理学を生かすためには
仕事ではどのようにアドラーの心理学を生かせば良いのでしょうか。それぞれの生かし方に例を添えて解説します。
承認欲求と競争意識を捨てる
まずは、自分の価値基準から承認欲求と競争意識を排除します。他人と自分を比較するのをやめ、比較対象を「理想の自分」だけに意識させます。
自分が「こうありたい」と思い描くと、理想の自分と今の自分のギャップに劣等感を抱くかもしれません。しかし、それは健全な劣等感であり、むしろそんな自分を変えようと向上心を持つことで成長できるのだとアドラーは言っています。
仕事でも、他人と比較するのではなく、自分がどうありたいかを突き詰めていくのが大切です。
たとえば「先月の売り上げはエーさんはいくらだったので、今月はエーさんより売り上げをあげるぞ」と考えるのではなく、「売り上げをいくらにしたい目標がある。だから今月はこの作業を頑張るぞ」とあくまで自分自身の目標と比較します。
自分と他者の課題を切り離す
相手が自分をどう評価するかは100%相手次第というアドラーの考えから、他人の目を気にする必要も他人の期待に応えようとする必要性もありません。
挨拶の例でいうと「返事をするかしないかは、相手の課題です。そのため、自分は挨拶するという自分の課題のことにだけにフォーカスして、そのあとの言動には介入しないのが大切です。
人間関係は縦ではなく「横」を意識する
人間関係が縦関係の場合は、主従、上下、依存関係が構築されてしまいます。
一方で横関係は、性別、年齢、職責などは関係なく人間関係を横並びに捉えて、信頼や相手を尊重できる関係を築けます。
褒める、叱る行為は上下関係のうえに成立すると考えられ、アドラー心理学では推奨されていません。褒める教育では褒められたい承認欲求が手放せなくなり、叱る教育では叱られたくないから仕方なくやる状況に陥り、自主的に動く人間が育ちにくい環境になってしまいます。
自分や相手を勇気づける
アドラー心理学では、自分や相手に困難を克服する力を与えることを「勇気づけ」と論じています。今の考え方や自分を変えるには、勇気が欠かせません。相手を勇気づける際は、無条件で相手に共感し、尊敬の気持ちを持つのが大切です。
これは、「横」の人間関係にもつながりますが、たとえば、部下が何か成果を挙げたとき、「頑張ったね」のような言い方は褒めていますが、少し上から目線(縦の関係)にも捉えられます。
そこで、横の関係を意識して「これはエーさんが努力してきた結果だね」と伝えると、相手に敬意を払うことができ、素直に言葉を受け取ってもらえるのです。
まとめ
アドラー心理学を自分のなかに取り入れると、対人関係の悩みが解決しやすくなります。承認欲求や競争意識を捨て、自分と相手との課題の境界線をしっかりと見極められるようにしましょう。