【マーケティングのコレ知ってる?】 プライシングとプロモーションでイノベーションを起こした百貨店王ワナメーカー
マーケティングミックスは、つぎの4つのP であらわされます。
Product(商品)、Price(価格)、Promotion(販売促進)、Place(販売チャネル)
マーケティング活動は、かならずこれらの4つのPを組み合わせて行われていますが、その強弱、濃淡には4つのPで差があるものです。消費者向けの商材であれば、Promotionによりに力を入れたり、工業用部品販売については、Placeを広げようとしたりするかも知れません。
マーケティング活動は4つのPをやっていればいいというわけではありません。たいてい場合は、ライバル企業も同じようなマーケティング活動をやろうとするので、競合をだしぬくには、これらのマーケティング・ミックスにおいてイノベーションが起こる必要があります。
とはいいつつも、かならずしも4つのPのすべてでイノベーションが必要なわけではなさそうです。
今回ご紹介するワナメーカーの例だけでなく、いろいろなケーススタディを見てみると、たった一つのPでのイノベーションでも、大成功することができるようです。
一般に、イノベーションには、業界常識や消費者の固定観念や既成事実などを覆す発想が必要です。これは、技術やテクノロジーに限った話ではなく、マーケティング・ミックスでも同様です。
今回は、かつて百貨店業界で起こったマーケティングミックスのイノベーションの中で、プライシングとプロモーションのイノベーションを見てみたいと思います。
一代で全米一の百貨店を築いたワナメーカー
ワナメーカーは、1896年にユーヨークに百貨店を出した後、一代で世界最大の百貨店王になった人です。よく同世代の発明王エジソン、石油王ロックフェラー、ホテル王ヒルトンなどの王様たちが引き合いにだされるみたいです。
名言も沢山のこした人で、とくに、広告の効果を計ることの難しさを語った言葉が有名です。
Half the money I spend on advertising is wasted; the trouble is, I don't know which half.
広告費の半分は、きっと無駄になるだろう。
ただ問題なのは、どっちの半分が無駄になるかがわからないことだ。
ネット広告では比較的費用対効果が見えやすくなってきたとは言いつつも、効果測定の難しさは今でも同じですよね。ワナメーカーは、ほかにも業界ではじめて店舗内に電気を引いたとか、電話を設置したとか、レストランを運営したとか、いろいろな分野でイノベーションを起こしていますが、ここではプライシングとプロモーションに絞って解説したいと思います。
価格政策の常識を覆した正札販売と返金保証制度
プライシング(価格政策)は、利益に直接影響する問題なので、マーケティング・ミックスの中でも、時代を超えてもっとも重要な問題でした。
ワナメーカーの当時、百貨店がまだ普及していなかった時代の常識では、商品の値段は交渉して決めているものでした。
店舗としては、交渉力が利益の源泉であって、高く売れれば、店側の勝利になるし、安く買えれば消費者の勝利になるような、まるで戦場のようなものでしたが、ワナメーカーは、そんな戦いの場を楽しみの場に変えたいと思っていました。
ワナメーカーは、価格交渉の煩雑さで、ショッピングが楽しくないという消費者の不満やニーズをわかっていたのです。価格交渉には、スタッフの手間もかかってお互いにマイナスなのだから、双方が楽しくショッピングができる仕組みづくりが必要だと思ったのです。
そこで、消費者が簡単に商品を比較できて、ほしい商品を選べるようにする方法を模索します。そしてワナメーカーは、価格交渉せずとも価格を明示する「正札販売」というしくみを導入しました。
正札販売とは、価格が書かれた小さい値札を商品にくっつけて、一目で価格がわかるようにしておく仕組みのことです。この値札によって、お互いの交渉もいらなくなるし、いちいち値段を聞かなくても簡単に比較できるようになったのです。
いまとなっては、常識、当たり前のことですが、この正札販売にはリスクがありました。それは「交渉すればもっと高く売れることができたのに!」という機会損失のリスクです。交渉力を武器としてきた店舗側としては、非常識な戦略です。しかしワナメーカーは、機会損失のリスクよりも、消費者にインパクトのある、わかりやすいメリットを訴えてリピーターを作るという選択をしたのです。
また、ショッピングを楽しむためには、商品とサービスの品質も重要です。当時は、買った後に商品に対して不満があっても、返品できないのが常識でした。購入とは契約行為なので、いちど購入契約を結んだら、販売側の責任は問われるものではありませんでした。
ワナメーカーは、この商習慣も変えてしまいました。つまり、返品保証制度をはじめることで、消費者が安心してショッピングが楽しめるようになったのです。
プロモーションの常識を覆した大規模広告
広告を代表とするプロモーション(販売促進)役割は集客ですが、上の名言でも述べたとおり、広告の効果は大変わかりにくいものでした。
消費者向けの商品を取り扱う百貨店でさえ、当時は、広告の効果がはっきりしないので積極的なプロモーションは控えられていました。
しかし、ワナメーカーは、広告宣伝の力を信じていました。
魅力的な商品をいちばん効果的な方法で、できるだけ多くの人に知ってもらうことが大切と思っていたのです。そう考えたワナメーカーは、驚きやインパクトのある広告の出し方をいろいろ試していくことになります。
たとえば、見開き占領の新聞広告を業界ではじめてやってみたり、アドバルーンを使って消費者をびっくりさせてみたり、馬車をつかった広告で通行人の衆目を集めてみたり。とにかく様々な広告手法を試してみます。いまでは、一般的にとられている広告手法も、はじめはワナメーカーのアイデアだったのです。
プロモーションのイノベーションは、広告手法についてだけではありません。
後の史上初専業コピーライターとなるジョン・エモリー・パワーズを雇って、これまで自らやっていたコピーライティングを分業したことでも、コピーの力と重要さを誰よりも早く認識していたことがわかります。
クリスマス商戦をはじめたのもワナメーカーです。もともと敬虔なクリスチャンだったので、キリスト教のイベントでショッピングを楽しめるような工夫を考えていたのがきっかけでした。
このように数え上げればきりがありません。とにかく、沢山の工夫をかさねて、消費者にインパクトを与えるように、プロモーションでイノベーションを起こしたのがワナメーカーでした。
知識が増えただけじゃ、もったいない。
BtoCの世界では、いまや正札販売も返品制度も常識ですよね。法律の整備もあって、消費者に正しく販売する制度は整っているようにも思えます。
でも、BtoBの世界ではまだ常識とまではいえないのではないでしょうか?
会社間の取引形態を見てみると、いくつかの会社から見積ってもらってから、価格を交渉して最終的に発注するのが常識のようです。最終消費を行う消費者と、最終消費財をつくる生産者としての会社の立場の違いが、こういった違いを生んでいるのかもしれません。
ただ、この常識を覆して成功した事例は、すでにあります。BtoBの受発注形態でも正札販売を成功させた事例や、販売促進の常識を覆して大成功した事例は、実は身近に結構あるものです。
まだ、あなたの業界で正札販売がされていないようなら、検討の余地はあるかもしれませんね。
ライバル企業のどこもやっていないようなことを、いちばん始めにやれればパイオニアになれるはずです。
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