板橋老師謁見記 4
禅師様の部屋を退出する時になって、廊下に出たところで、禅師様は書棚の前に立って言われた、
「あなたはこの本は読んだかね?」
「いえ、それは読んでおりません」
と申し上げると、禅師様はその本を私に手渡して、
「持って行きなさい」と言われた。
恐縮していると、「それではこれは?」「これは?」と、次々と御自著を差し出される。それで3冊もいただいてしまった。厚かましいことである。
放っておいたら、読んでいない御本を全部手渡そうとされる勢いだったので、
「ありがとうございます。これだけいただけたらもう充分でございます」
と、押し留めたのである。(本当は欲しかったのだが)
禅師様は侍者の方と共に、玄関のところまで見送って下さった。
私が上着を手にしているのをご覧になると、
「寒いから、ここで着てからお出なさい」と言われる。「はい」とお答えして、注意深く上着を着込む私の一挙手一投足を、禅師様はご覧になっておられるようだった。こんなところにも禅があるのに違いない。
「猫が車の下に潜り込んでいるかも知れない。一度エンジンを吹かしてから慎重に出てください」
安心し切っている猫たちは、車に轢かれてしまいそうになったことがあったらしい(あるいは実際に轢かれた猫もいたのだろう)。
駐車場を出て見えなくなるまで、禅師様と侍者様は玄関の外で見送って下さった。何とももったいないことであった。
それらの御本は、いずれも驚くべき内容に満ちていた。お礼と感想文を認(したため)て、禅師様にお送りさせていただいたことである。
その中の一冊に、「猫は悩まない」という本がある。くだけた読み物に思われるかもしれないが、実に素晴らしい感動的な本である。(次回以降でご紹介してみたい)
禅師様は、いろいろな御著書の中で(あるいはテレビにおいても)、御自分がぐうたらだと宣言しておられる。ご自分の弱いところ、恥ずかしいところさえもさらけ出してしまっておられる。私はここにかえって禅師様の力量と誠実さを見る思いがする。
(ALOL Archives 2013)