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タイムトラベラーとしての生き方 -「3台目のタイムマシン」(4)-


タイムトラベラーの職業選択

タイムトラベルの後遺症と引き換えに副産物が得られそれを使って自分の職業適性を見極めていくということについて、もう少し詳しく触れたいと思う。

この世には様々な職業がある。我々は社会人になるにあたって、どのような基準で職業を選んでいるのだろう。お金を得る手段として自らの希望とは全く違う職業に就かなくてはならない人もいるだろう。何がしたいのかどんな能力が優れているのか分からず、ただ学校を卒業するから働くという人もいるだろう。働くということはお金を得るための手段、生活をしていくための手段であると考えている人が多いのではないだろうか。

タイムトラベラーはどうだろう。どのように自分の職業適正を見極めるのか。

白い翼

タイムトラベラーの目の前には副産物が並んでいる。この副産物をまずは3つに分ける。これは仕事に使うもの、これは遊びに使うもの、これは趣味に使うものと分類するのだ。次は、分けられた副産物の中で仕事に分類されたものを組み合わせていく。組み合わせてできたものは何だろう。白くてまるで天使の羽のようなものが目の前に現れた。タイムトラベラーは目を輝かせ目の前の素敵な白い翼を手に取ろうとした。しかし、手が触れるか触れないかのところでそれは消えてなくなってしまった。何が起きたか分からず呆然とした。その後は、副産物が消えてしまったことを惜しみ、なぜ消えてしまったのかとばかり考えるようになった。たまに仕事について考えようとするが何も思い浮かばない。タイムトラベラーはしばらくの間、ひとつ扉の「3台目のタイムマシン」の扉を開いては今を見つめることをただただ繰り返す生活を送った。非常に退屈で単調な日々だ。白い翼は一体どこに消えてしまったのだろう。

白い雲

タイムトラベラーは白い翼が消えてしばらくしてからあることに気が付いた。それは、まだ副産物が他にも残っているということだ。仕事のことを考えるのはやめ、しばらくの間は遊ぼうと考えた。遊びの副産物を組み合わせ始める。今度は何ができるのだろうか。目の前には空に浮かぶ雲のようなものが浮いていた。白い雲を目の前にしてタイムトラベラーは思った。きっと触ったら前の時のように消えてしまうのではないかと。しかし、ふわふわ浮かぶ雲を前にして乗ってみたいという衝動を抑えることはできなかった。白い雲に乗ってみようと足をかけた。その瞬間、予想通り白い雲は消えてしまった。今回は予想できていたので悔やむことなくすぐに切り替え、何か別のことをして遊ぼうと思った。けれど、どうしても白い雲に乗って遊ぶ以外に面白い遊びが思い浮かばない。そしてまた、今をのぞきこむ毎日を送ることになった。

それにしても、白い翼も白い雲もどこへ行ってしまったのだろう。タイムトラベラーは、副産物を失ったことにより記憶の後遺症に悩まされ始めた。タイムトラベルに出る前のことを思い出そうとするが所々思い出せない。どうしても記憶が繋がらないのだ。自分はどうやって生きていたのだろうとさえ思うようになってしまった。そんなある日、いつものようにひとつ扉の「3台目のタイムマシン」の扉を開けようとしたら開かないのである。多くの副産物を失い、さらに「3台目のタイムマシン」の扉も開けなくなってしまったのだ。その時、鏡に映った自分の姿を見てタイムトラベラーは驚いた。背中には黒い翼が付いていて、足元には黒い雲が立ち込めていた。黒い翼で飛ぼうとしてみるが上手く飛べない。黒い翼はとても重い。黒い雲は、地面すれすれに浮いているだけで空に浮かび上がらない。黒い雲もとても重い。タイムトラベラーは、心も体も重くなり身動きがとれなくなってしまった。

黒い翼と黒い雲

タイムトラベラーは残りの副産物に望みを託すことにした。が、ない、ないのである。正確には見えないのである。黒い雲はどんどん大きくなり視界を邪魔するようになった。黒い翼もどんどん重くなり上手く身動きがとれない。あまりにも黒い翼が重いのでその羽を抜き始めた。しかし、抜いても抜いても一向に軽くならない。黒い雲の向こうに残りの副産物がかすかに見えたので手をのばしそれらを手にした。

「やった。」

と思ったが、すぐに、これを組み合わせて何かを作ったところで結果は悲惨なものになるのではないかという考えになった。タイムトラベラーは副産物をぐちゃぐちゃにした。

「これでいいのだ。」

ぐちゃぐちゃになった副産物を見て思った。よく見える。はっきりと見えるのだ。周りにはもう黒い雲は立ち込めていなかった。急いで鏡を見る。黒い翼ももうない。そして、久々に「3台目のタイムマシン」の扉を開いてみた。今は開くことができる。嬉しいので何回も扉を開けたり閉めたりした。何回も。何回も。そうしているうちに扉が閉まらなくなってしまった。壊れてしまったのである。開いたままの扉は、なんだか落ち着かない。でも、その中の今を覗くと満足感でいっぱいになった。

タイムトラベラーは久しぶりに外に出た。外はとても寒かった。その時、壊れていた「3台目のタイムマシン」の扉が突然閉まった。そして、再び扉を開こうとすると「3台目のタイムマシン」は消えてなくなってしまったのだ。突然の出来事に、この時ばかりはタイムトラベラーも声をあげて泣いた。

次の日、とても清々しい朝を迎えた。タイムトラベラーは記憶の後遺症がなくなっていることに気が付いた。枕元には、あのぐちゃぐちゃになった最後の副産物と一冊の本が乗っていた。最後の副産物は、捨てずに大切にしまっておくことにした。そして、タイムトラベラーは本を手にした。表紙には時間旅行記と書かれているが中は白紙であった。タイムトラベラーはペンを取り静かに時間旅行記を書き始めた。そして、最後のページで少し躊躇したが最後まで書ききった。

時間旅行記の最後のページ

時間旅行記のことを思い出して欲しい。時間旅行記の最後のページには何が書かれるのか。

8.タイムトラベラーとして今後どのような活動をしていくか。

である。その活動こそが職業となっていく。どんな職業を選ぶかは人それぞれだろうが、タイムトラベラーは、きっと自分の選んだ職業に満足するだろう。

タイムトラベルの後遺症が解消され、時間旅行記も完成した。しかし、まだ気になるものが残っている。それは、タイムトラベラーが大切にしまっておくことにしたぐちゃぐちゃになった最後の副産物である。タイムトラベラーは、時間旅行記が完成してまもなくそれを取り出すこととなる。

タイムトラベラーと生きがい


七色の貝殻

タイムトラベラーは完成した時間旅行記をしまおうとした。その時、あるものが目にとまった。最後の副産物だ。時間旅行記をしまうと同時に副産物を取り出す。よく見てみるとそれはとても綺麗だった。七色に光り円錐形をしている。七色の貝殻は、指で触ると色や形が変化した。タイムトラベラーはこのことがとても興味深かった。その美しさに酔いしれ多くの時間を七色の貝殻に費やすようになっていた。ある日、いつものように七色の貝殻を触ったり眺めたりしていると、今まで見たこともないような美しい色と形に変化した。タイムトラベラーはそれを誰かに見せたいと思った。しかし、誰にどのように見せようか考えているうちに七色の貝殻の色と形は違うものに変わってしまった。どうしたらあの一番美しい色と形になるのか、タイムトラベラーは研究した。そして、研究を重ねた結果、一番美しい状態を作る方法が分かった。それだけでなく、その美しさを固定することもできるようになった。七色の貝殻を一番綺麗な色と形に固定し、他の人に見せるため持ちげた。その瞬間、七色の貝殻は消えてしまった。その代わり、そこには白い石が落ちていた。

白い石

タイムトラベラーは白い石を見つめた。あの白い石は何だろう。そう思ったがそんなに関心はなかった。それよりも気になるのは七色の貝殻だ。もう一度、あの美しさを見てみたいという思いでいっぱいだった。それから、タイムトラベラーは七色の貝殻を作り出す作業に没頭した。何度も何度も失敗を繰り返しながら七色の貝殻を作り続けた。しかし、どうしても同じものは作れない。だが、失敗作の中にあの時の美しさとは違うが、それはそれで美しいものがあることに気が付いた。楽しくなってきた。作ること自体が楽しいのである。誰かに見せたいという思いは消えていた。楽しく七色の貝殻作りをする中であることを思い出した。最後の副産物は何であったかということだ。最後の副産物は趣味に使うものだった。ということは、七色の貝殻が姿を変えた白い石は何だろう。足元に落ちている白い石を拾い上げた。それは、手で触っても消えてなくならなかった。タイムトラベラーは生きがいを手にしたのだ。白い石をしまっておくことにした。しかし、そこにしまってあるはずの時間旅行記が見当たらない。その代わりに白い翼と白い雲がしまわれていた。その隣に白い石を置いた。次の瞬間、3つとも消えてなくなり1冊の白い本になった。

白い本

白い本を眺めながらタイムトラベラーは思った。時間旅行記と同様、中は白紙だろうと。しかし、予想に反して中は白紙ではなかった。

「白い翼、白い雲、白い石を得た順番を記せ。」

この一文が書かれていた。

白い翼の下に1。

白い雲の下に2。

白い石の下に3。

と記した。

そして、本を閉じたら白い本も消えてしまった。

タイムトラベラーからのメッセージ

ある日、タイムトラベラーは1冊のノートを用意してこう書いた。

「1、2、3が全てであって、他は0と一緒なのかもしれない。」

これだけ書くとノートを閉じた。

次の日、またノートを開いて書き始めた。

以下はその内容である。

幼い頃、「タイムマシン」の存在を知った。その「1台目のタイムマシン」の色や形、機能が「タイムマシン」の概念となった。それからしばらくの間、「1台目のタイムマシン」=「タイムマシン」の構図が成り立っていた。そして、それが長い間続き固定された。しかし、ある時「2台目のタイムマシン」に出会った。その色や形、機能は「1台目のタイムマシン」と違っていた。「タイムマシン」のイメージは2つになり、固定概念が崩れた。そして、それと同時に、「3台目のタイムマシン」の存在を知った。

ここまで書いたところでタイムトラベラーはノートを閉じた。そして、それをしまおうとした。そこには、時間旅行記と白い本があった。その横には白い翼と白い雲と白い石が置かれていた。そのまた隣には夢を捨てない大人と夢を叶えた大人と夢を与える事のできる大人がいた。そして、様々なものが次々と目に飛び込んできた。

仕事、遊び、趣味。

体の後遺症、心の後遺症、記憶の後遺症。

タイムマシン、タイムトラベル、タイムトラベラー。

過去への後悔、未来への不安、ありのままの今。

1台目のタイムマシン、2台目のタイムマシン、3台目のタイムマシン。

たくさんの懐かしいものに心を奪われていると、ノートのページが1枚抜け落ちひらひらと足元に落ちた。そして、それを拾い上げようとした時、ノートに書かれたある一文が目にとまった。

「1、2、3が全てであって、他は0と一緒なのかもしれない。」

紙を拾い顔を上げると目の前には何もなかった。ただ一枚の紙切れを手にしていただけだった。その紙を見つめ、0のとなりにもうひとつ0を書くと小さくまるめて捨てた。

「1、2、3が全てであって、他は∞と一緒なのかもしれない。」

タイムトラベラーのその後

タイムトラベル前の記憶に新しい記憶が繋がり始めたタイムトラベラーは、前と変わらない生活を送り始めた。0、つまりスタート地点に立ったのだ。本当に0の人は無限の可能性を秘めている。タイムトラベラーは、大事な事が書かれている紙を躊躇せず捨てた。それと同時に0いや、∞を手に入れた。タイムトラベラーとしての任務を終了し0から出発する。もうタイムトラベラーではなくなった。そして、タイムトラベラーに関する話もこれで終わりとなる。

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