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3/17 ものごとは等価交換

退院してからは、ほぼ寝たきりで、病院に母乳を届ける以外は、ずっと布団の中にいる

この数日間できた事と言えば
搾乳
食事
仮眠
移動(病院に冷凍母乳を届ける)
それ以外のものが入る余地も無かった

薬の副作用でこれ以上の投薬ができないため、退院後は痛み止めなしで過ごす
咳やくしゃみをすると帝王切開の傷がそのまま痛む

裏返っていたおへそも
だんだん元に戻り
お腹の皮膚はずっと真っ赤にただれている

9ヶ月まで育った赤ちゃんは小さすぎて
大きくなるまでお腹に居られなくて
妊娠線の一本もできないまま
強制排出されてしまった

赤ちゃんの命と引き換えだから
私の体はいくらでもくれてやるけど

こんな酷い傷になってしまっては
もうベリーダンスもできないのかと思うとすこし悲しい

産後、レッスン復帰を楽しみに衣装を手元に残していたけど
もう諦めて、泣く泣く処分しなければと思う

踊っている時はトルコやエジプトでの日々を思い出す事ができて、とても幸せだった

昔、最もヘビーな治療と言われる上顎拡張の歯列矯正で
一年近く会話と歌と食の喜びを失った時(激痛で一年間全く笑えなかった)

結局、装置が外れても、巻き舌の発音と歌の音感は永遠に戻らなかった
アリエルの声を奪った魔女みたいだなと思った

あの時も、美しい見た目になるためなら
何でもくれてやると自暴自棄になったことを思い出した

声と引き換えにまともな歯並びを得たように
この傷と引き換えに、赤ちゃんが無事に生まれ育つなら安い

とてつもなく小さな子宮という世界の中で
十月十日、世界の創造主にでもなったつもりだったけど
コントロール不能で、墜落してしまった

これからは、逆にどんどん私が小さな世界に収斂していく

もしもこの先、赤ちゃんが健康で幸せにならないなら
私のした事は、不妊治療は、タッカーのキメラと変わらない

親友からのLINE
「そうだよね、毎日耐えながら心身ともに休まらないよね

Lちゃんが口から少しでも飲もうとしているのは頑張って生きている証だよね。

せめて身体だけは休めるように、ベッドで横になってゆっくり深呼吸してみてね」


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