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言葉にできない体験を描くと、解釈はより広く深まっていく。演劇グラフィックレコーディングの作品全公開!

演劇を観たあと、情報や気持ちを処理しきれず、どう人に伝えればいいかわからないことってありませんか?

演劇作品『プラータナー:憑依のポートレート』の公演に付随して開かれた「『プラータナー』スクール」は、舞台の出来事をグラフィカルに記録し、その記録をもとに観劇後のもやもやを言い澱みながら対話することで、作品をより深く味わうプログラムです。

グラフィックレコーディングとファシリテーションの2部構成のうち、ゲネプロ(本番同様に行う通し稽古)をグラフィックレコーディングした第1部の開催模様をお伝えします。

取り上げるシーン、パーツ、色、配置、見えないけれどそこに確かにあったもの……11名の参加者それぞれの視点をお楽しみください!

◎未完成で不完全な記録だから、安心して対話ができる

A3のロール紙を何枚もつなぎ、絵巻物のように4時間の公演が記録されたグラフィックレコーディング11名分を見て、「『プラータナー』スクール」講師のふたりはこう話します。

▼清水淳子さん(グラフィックレコーダー)
「今回一番感じたのは、『グラフィックレコーダーは全ての情報を描けるわけではない』ということです。人間の体を通す以上、描く速度とスキルに制約があり、編集が入り、情報に偏りが生まれ、本当に起きたことに比べると、未完成で不完全なアウトプットになる。

でもそれがグラフィックレコーディングの良さなんですよね。。だって、もしも、グラフィックレコーダーが全方位的に空間を捉えた完璧な記録を描いたとしたら、参加者は、それと違う感想やアイデアを言うことを躊躇してしまう。完璧な機械ではなく『人間の体を通してレコーディングする』ことの意味を見つけられたような体験でした」。

▼臼井隆志さん(ワークショップファシリテーター)
「演劇鑑賞中、『観る』『思い浮かべる』はいつもやります。そこに『描く』という要素が入ると、『観る』と『思い浮かべる』が疎かになり、抽象的なイメージや役者の具体的なディテールに集中してしまって十分に解釈できないジレンマがありました。

でも終演後のいま、作品への解釈が深まっていくのを感じます。痛みとロマンティックさの混在した感じや、抽象的な良さを言葉にしやすくなった感覚があります」。

◎グラフィックレコーディングから見る、11人の演劇体験

「人を描くのが好きで、人を中心に追いました。気をつけたのは、表情をつけすぎないで観たままをなるべく忠実に描くこと。一部受けた印象、思い浮かべたイメージも添えています。同じ感覚、同じテンションを維持するのは大変だったけど、ぎりぎりいけました」。(マツイさん・UI/UXディレクター)

「自分が感じた印象の雰囲気を描きながら、リフレインした言葉を拾っていきました。正直途中で集中力が切れて最後はごちゃごちゃしていますが、舞台の情報量の多さに実際に頭のなかはこんな感じだった気がします」。(オザワさん・舞台制作/企画運営)

「役者の佇まいや気配、実体のないものを可視化しようと決めて描いていきました。走り書きできる筆ペンを持参してやってみたら、かすれて意図せずアジアっぽくなったかも。途中性的なシーンがあったので、そういうウェットなところは色もつけていきました」。(モトムラさん・イラストレーター&フォトレタッチャー)

「役者のからだの動きの美しさが目について、動きにフォーカスしていきました。基本的には話者の動き。途中、印象的な光や、リアルタイムにカメラが追うオレンジの靴の動きに焦点を変えた時もありました。全体を通して、欲望のオーラを感じたものや人をグレーで塗っています。靴も欲の象徴なのかなって」。(タナカさん・コンテンツプランナー)

「僕は絵が描けないので、観ていて引っかかった言葉を拾い、その羅列で文脈を紡いでみました。頭に浮かんだ言葉のイメージと実際の舞台のシーン(役者の動きや小道具など)が合致したものは絵にしてみました」。(シバさん・カフェのマスター)

「下半分は役者の動き、上半分は台詞のイメージを描きました。欲望はグレー、ネガティブなものや目線はブルー、ポジティブなものはキイロで印象の意味付けをしています」。(クニムラさん・学生/ライターアルバイト)

「政治や芸術、年号のボードとか、いろんな要素と仕掛けがあって、制作意図を汲もうとしました。配役がどんどん変わるから、誰、と分かるように書かないで人体として描きました。音響や映像の人など、スタッフも普通に舞台上にいる時は役者と分けずに同じように描いています」。(シンバシさん・コンサルタント)

「2枚目、4枚目で面白い体験をしました。途中ためしに用紙を縦にして描いてみたら、紙の下まできた時に上の方に描いていたシーンと同じになったんです。(舞台上装置の)ベルトコンベアと同じく、ぐるぐる巡る状態になって。あと、描いている最中一緒に作品をつくっている感覚になって、描くことそのものもパフォーマンスみたいだなと思いました。赤の線は(大勢で身体を打ち絡み合っている時の)ヘッドライトをつけた女性の、オレンジは男性の動線です」。(リオンさん・俳優)

「主に服装を、途中から音も拾っていって、音と動きの関係性、身体美が気になっていきました。ひとつのものを拾い続けるのに途中飽きて(笑)、存在感を感じた靴や、舞台上にはなかったけれど火とか煙とか、情景として印象的だった台詞の言葉が混ざっているところもあります。ラジオのノイズや声のイメージを線で描いています」。(ナガタニさん・プロジェクトマネージャー)

「舞台上の出来事で、自分の感覚に響いたものを強めに描きました。ジッパーがせり上がったり、溝を感じるようなところでSNSの話をしていたり、最後にチャオプラヤ川が流れたり、“あっちとこっち”とか“分断”を感じ取ったのかも。激しいイメージをピンクで描いたら、後半がピンク率高いですね。照明の強さ、怒号、バンバン叩く音などと、静寂。演劇の緩急がビジュアライズされた気がします」。(清水さん・グラフィックレコーダー)

「ルールは設けずにスタートして、字幕を追って前半は細かく描きすぎた。後半は大きく描くようにして、描くのをやめる時間もあえて作りました。観る自分と描く自分がどう分断されるのかが気になって。観ているとものすごく色んなことを考えていたのに、描いていると自分の考えを追い切れなかった。描き終えたグラフィックレコーディングと、観終わったいまの自分の身体を観察して、何を想起できるかが気になっています」。(臼井さん・ワークショップファシリテーター)

◎続く、観劇の新しい味わい方

今回描いたグラフィックレコードは、「『プラータナー』スクール」第2部のファシリテーション(公演後に、観客同士で感想を語る「あなたのポストトーク」)で、対話のフックとして活用されます。

「グラフィカルに語る記録」を前に語り合うことで味わう、新たな演劇体験のレポートもどうぞお楽しみに。

[写真で見る] 当日の劇場の様子

写真=加藤甫
文=原口さとみ

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