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Backstage of THEATRE for ALL No.02|対談:対話を学びに変え、考えることを止めない:作品を「ALL」化するために必要な覚悟

特集:Backstage of THEATRE for ALL
precogが運営するバリアフリー型オンライン劇場「THEATRE for ALL」の映像配信における挑戦と葛藤と工夫の連続をレポートする特集。「つくる」と「かんがえる」をキーワードに、TfAのバリアフリー・アクセシビリティへの取り組みをひも解いていきます。

この記事は「THEATRE for ALL」から転載しています。
 ▶︎ https://theatreforall.net/feature/feature-1728/

2021年3月13日(土)、THATRE for ALL(以下、TfA)が今までの試行錯誤を振り返るオープンな大報告会「THEATRE for ALL LAB大報告会」が開催された。TfAでは現在、様々な作品がバリアフリー化され公開されている。その過程に深く関わってきたパートナーとメンバーが本イベントで語った言葉を借りながら、作品のバリアフリー化の裏側、そのなかで拡張される表現の可能性に迫る。

幅広い芸術から生まれた新たな会話

オープニングトークで登壇したのは、TfAのバリアフリー監修をしているパラブラ株式会社の代表・山上庄子。パラブラは映画・映像・演劇などにかんするバリアフリーコンサルティングから実際のバリアフリー版制作、そして映像作品に合わせて字幕や手話の表示、音声ガイドを再生等するアプリ「UDCast」の開発・運営などを行なっている会社だ。

パラブラが、各作品のバリアフリー版制作をする際には、その過程の中で、当事者モニターの方々や作品の製作側の方々に立ち会ってもらいプレビューしながら意見交換を行う「モニター検討会」の場をつくっている。それは作品をとことん知り向き合って行く作業でもあるという。

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障害当事者が集まって、作品を検討をするモニター検討会の様子。
(Palabra株式会社様提供)

山上「今回私たちにとって一番大きかったのは、パフォーミングアーツなどの作品を通して、普段なかなか出会えない幅広いアーティストの方々とご一緒できたことです。これまで多くの映像をバリアフリー化する作業をしてきましたが、今までの方法論だけに頼ることなく、アーティストや当事者の方々と会話を重ねながら新たに制作していくことは、貴重な機会でした」

TfAで作品をバリアフリー化していくことの可能性については、こう語った。

山上「なかなか映画館や劇場に行くことができない中、TfAで“配信”という形になったことで移動のバリアをなくすこともできると思います。また、ひとつの作品の中でも色んなバージョン、例えばスタンダードなバリアフリー版とは別にもっと演出を入れたものを別チャンネルとしてつくることもできるので、可能性を拡げていける場だなと感じます」

今まで作品を鑑賞できなかった人たちへ

次にバリアフリー化について発表をしたのは、株式会社プリコグ・バリアフリーコミュニケーション事業部でTfAのプログラム制作統括・兵藤茉衣と、同じくプログラム制作の関萌美。事例を挙げながら、バリアフリー化する視点について語った。

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登壇した、TfAの兵藤(左上)と関(下)

兵藤「昨年の秋にTfAで公開する作品の公募を行ないました。バリアフリー字幕や音声ガイドをつけて聴覚や視覚に障害のある方に作品を届けたい方や外国語対応をして海外にいる方や日本で日本語以外を話す方に届けたい方など、様々なアプローチで作品のアクセシビリティを上げたい方、作品をコンセプトに理解を深めてもらうためのワークショップやラーニングプログラムを実施したいという方から応募をいただきました。そこから審査員が選出した30作品を公開しています」

公開している作品の中でバリアフリー対応しているものは、バリアフリー日本語字幕が23作品、音声ガイド対応が16作品、手話通訳が5作品、英語対応が21作品。その他にも中国語や韓国語、タイ語、スペイン語、ポルトガル語など様々な言語に対応した作品が公開している。ジャンルも、演劇、音楽パフォーマンス、ミュージカル、落語など色々な分野の作品のバリアフリーに挑戦してきた。

兵藤「公募で自分の作品をバリアフリー化したいと思っていらっしゃる作家やプロデューサーの皆さんも、TfAの事務局スタッフやパートナー団体も、これまでバリアフリー対応がなくて見られなかった人たちに、自分たちがつくった作品を届けたいという思いで集まってきてくださった方々だと思います」

バリアフリー化に至るまでの道のり

バリアフリー対応には正解がない。トライアンドエラーをしながらつくってきた経緯の中でこれまでを振り返ってみると、バリアフリー化に至るまでには3段階のステップがあるという。1つ目は、バリアフリー対応の種類を決めること。そして2つ目は、実際につくり、それを障害当事者に見てもらってブラッシュアップすること。最後に、完成した作品へのアクセスまでをバリアフリー対応する、つまりどういう風に作品を紹介するのかを考えることだ。

兵藤「まず、バリアフリー対応の種類を決めるフェーズでは、届いていない人に届けるという目的を達成するために世の中にどういうバリアフリー対応があるのかをリサーチするところから始めます。それを作品の作り手・発信者である作家の方やプロデューサーの方に説明して、一緒に作品の特性や対象とする客層をイメージしてもらって、どういうバリアフリー対応をするのかを決めます」

バリアフリーの種類には、音情報を文字にした聴覚障害者向けのバリアフリー字幕や言葉の壁を取り払う日本語/多言語字幕、目から入る情報を説明する音声の流れる音声ガイド、手話通訳、作家オリジナルのバリアフリーなどがある。

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待ち受けていた“さじ加減”の難しさ

「具体的なエピソードとしては例えば、担当した中で絵本を題材にした作品が2作品ありました。1つはPARCOプロダクションの『ボクの穴、彼の穴。』という作品、もう1つは『絵の中のぼくの村』という作品です。最初は絵本ということで、子供が読みやすいように簡単な日本語の字幕を付けようという話をしていたのですが、実際に作品を見てみると大人も楽しめるような内容だったため、最終的には一般のバリアフリー日本語字幕を付けることにしました」

そうしてバリアフリー対応の種類が決まると次は、実際にバリアフリー対応を実施する。この時に重要なのが、制作した字幕や音声ガイドを障害当事者の方々に鑑賞してもらう「モニター検討会」だ。関はモニター検討会に参加して、情報保障の調整の難しさを痛感したという。

「最初に私がモニター検討会に参加させていただいたのが、『ボクの穴、彼の穴。The enemy』という作品だったのですが、一番驚いたのが音の字幕での表現の難しさでした。この作品が始まって10秒くらいで『ドーーン』と響くような低い爆撃音が鳴るんですね。その音の字幕をどう表現するかで冒頭から15分くらい話し合うことになったので、これは大変なことだなと。最終的には字幕のプロの脚本家さんが考えてくださった『轟く轟音』という表現になったのですが、表現方法ひとつ取っても当事者の方に伝わるのか、言葉でイメージされるものと実際に流れる音が合っているのか、確認する作業がとても大変なのだと実感しました。

また、音楽は田中馨さんというミュージシャンの方が全部オリジナルで書き起こしてくださっていて、劇伴となるテーマ音楽がいくつかあるんです。それをどう字幕にするか、というのも大きな課題でした。例えば、『穏やかな音楽』とか『悲しげな音楽』というと感情的な表現なので、聴こえない方にもニュアンスは伝わりやすいと思うんですね。でも、それは誰かの主観であって、想像力を阻害してしまうかもしれない。最終的にはあるがままの描写をしましょうということになって、『サックスの静かな旋律』であったり、『乾いた金属音と低い弦楽器の音色』という具体的な説明になりました。語り過ぎてはいけないし、さじ加減の難しさを非常に感じましたね」

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「ALL」について考え続ける

それぞれの情報保障に対する難しさは去ることながら、TfAの目指している「ALL」に向けた作品制作はもっと難しい。人が持つバリアの種類は違い、そのバリアごとに対応することが求められるからだ。イベントのなかで「自分はその人ではないからわからないということや、自分は自分でしかないという自覚を忘れないようにすることが大事」Tfaの関はとも語った。しかしそんな中でも、TfAで紹介される作品がバリアフリー対応においてそれぞれのタッチポイントをつくり、TfA全体で「ALL」が芸術にアクセスできるようなつくり方をしていきたい、と兵藤は言う。

兵藤「人と対話をして学びに変えて、TfAの『ALL』ってどういうことなんだろうということは考えを止めずに、今後も活動を続けて色んな作品を紹介したりバリアフリー化をしていきたいです」

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